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神林長平「戦闘妖精・雪風」

「戦闘妖精・雪風」は、人類と宇宙生命体ジャムの戦闘を描いたSF作品です。
主人公の深井零は、戦闘機「雪風」のパイロットとして、ジャムとの戦闘に従事します。

読み始めた時は淡泊な印象を受けたのですが、どうしてどうして。
物語が進行するにつれ、SF的ワクワク感も物語の深みも加速度的に増幅して行きます。
読了時には、冒頭の淡泊さ(ハードボイルド的味わい)も、実は、結末を引き立たせるための巧妙な仕掛けだったのだと納得しました。

SF的アイデアとしては、ジャムが機械生物であり、有機生命体である人類を認知出来ない(それが故に、人類に対してではなく、人類の作り出した「機械」に対し戦闘を繰り広げる)設定が良いです。
そのうちにジャムも戦略を練り直して人類を相手にし始めるのですが、最後の短編は頁を繰る手が止まらない面白さでした。

本作が素晴らしいのは、このエンタメ的な面白さに加え、物語としての深みも備えている点です。
雪風は機械ではありますが、独自の知性(意思)を持ちます。
零も機械的な(人間的感性に乏しい)人物として描かれていますが、それでも機械とは違う「人間性」を持っています。
果たして、機械とは人間とは何なのか。
読了後は、必然的にそのことを考えさせられます。

零と雪風の関係は、男女関係のメタファーとしてもよく出来ています。
氷のような女(雪風)に惚れぬいた男(零)。
女の冷淡さと男の哀しさは、見事なコントラストとなっています。
この二人が迎える結末も余韻たっぷりで、単なるエンタメ作品にはない深い読後感があります。

「雪風」は、現在第5部まで刊行されたシリーズものです(第5部は今月単行本が発売されたばかりで、私は未読です)。
どれか一作を選べと言われれば、私は第1作を推しますが、第2作以降も傑作揃いです。
シリーズものの場合、第2作以降でトーンダウンすることも多いのですが(私にとって、ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」シリーズがその典型です)、「雪風」は高いクオリティを維持したままです。
第3作が多少難解ではありますが、シリーズを通じてSFとしての興奮と深い物語性を両立させている点で、実に希有な作品と思います。

「戦闘妖精・雪風」は、間違いなく日本SF史上に残る傑作シリーズです。

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