筒井康隆「虚航船団」
宇宙船に乗った文房具たちが襲来し、鼬族の治める惑星クォールを侵攻する。
本作のあらすじを記すと、このように訳の分からないことになるのですが、実際にこの作品のぶっ飛び具合は凄いです。
本作は3章からなります。
第1章では、各文房具の狂気が群像劇として描かれていますが、こんなのは序の口に過ぎません。
第2章では、一転して1000年に及ぶクォール史が描かれます。
人類史のパロディを大真面目に描いており、これがすこぶる面白いのです。
さらに凄いのが、文房具と鼬族の戦いが繰り広げられる第3章です。
普通の作品であれば、戦いのどの場面を描くか、ある程度焦点を絞ると思います。
ところが、本作では、様々な場面(様々な時)の出来事が、何の説明もないまま場面転換し並列的に描かれています。
そのような特殊な描き方を可能にしたのは、筒井の持つ高度な「技巧」です。
各キャラクターが、「文体」などでしっかり描き分けられているので、場面転換の際に説明がなくても、誰のどの場面を描いているのかが分かるようになっているのです。
加えて、前後の場面で共通するモチーフを「触媒」として使うなど、次の場面への移行の仕方がスピーディーで鮮やかなのです。
「虚航船団」は、決して万人受けする作品ではないと思います。
ページが字で埋め尽くされていることに抵抗を覚える方も多いと思います。
それでも、これ程に濃密な読書は、滅多に体験出来るものではありません。
本作を読んでしまうと、他の「普通」の作品が薄っぺらに感じられてしまいます。
そのくらいに罪作りな作品だと思います。
ところで、本作第3章の書きぶりは、リョサの手法に色濃く影響を受けていると思います。
リョサは、フォークナーの「響きと怒り」に影響を受け、「緑の家」「ラ・カテドラルでの対話」などの大傑作をものにしました。
そのリョサの手法をさらに推し進めたのが、この「虚航船団」なのだろうと思います。
フォークナー、リョサ、筒井。
三者ともに、小説の持つ可能性を広げた偉大な「革新者」だと思います。