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『草地は緑に輝いて/アンナ・カヴァン』④【944字】
『草地は緑に輝いて/アンナ・カヴァン』:安野玲訳〈交遊社〉──目次──.
1.草地は緑に輝いて.
2.受胎告知.
3.幸福という名前.
4.ホットスポット.
5.氷の嵐.
6.小ネズミ、靴.
7.或る終わり.
8.鳥たちは踊る.
9.クリスマスの願いごと.
10.催眠術師訪問記.
11.寂しい不浄の浜.
12.万聖節.
13.未来は輝く すばらしい新生活が始まる場所で.
6.小ネズミ、靴.
【P-106】[l-8]「なんとかおっしゃいな! おまえは人間のはずでしょうが──口のきけない小ネズミでもあるまいし」
頭の中で何を考えていようとも、言葉によって他者へ伝えない限り、己が人間たりうることの証明はできない。
【P-110】[l-9]靴が無垢なままでありますようにと祈りつづけていたのに、それが汚れたのはこの人のせいだ、わたしのせいじゃない……。わたしの幼い心にとってあの靴は、うまく表現できないながらも、なにか完璧さのようなものの象徴だった。それが埃まみれになったことで、恐怖をしのぐ怒りがかき立てられた。
何ひとつ拠り所のない世界で、自らが祈りの対象として選んだ象徴。それは自身のすべてを凌ぐ価値観となり、その祈りが汚されることは許されざる行為となる。あらゆる恐怖は、神聖な祈りを冒涜される罪の前には無意味なものとなり、命を投げ打つことを辞さないほどの怒りをかき立てる。──その怒りは、運命を変える力となりうる。
7.或る終わり.
【P-122】[l-13]「どうしてあたしはいつでもなんでもまちがえるの?」女は考えつづけていた。「あたしのやることなすこといつもこの人をイライラさせるのはなぜ?」
────それは相手の機嫌を取ろう取ろうと、主体性のない行為をするからだ。
【P-123】[l-15]「きみも動物やなにかに少しは感情移入してみるといい」しばらくして、男がいった。「そうすればたぶんちゃんとした人間関係が築けるようになる。
動物は他者のために思考しない。常に己の世界に、自分だけの夢に全神経を集中させて、必死に"自分を"生きている。主体性なき存在は、常に自己の責任を放棄して生きているということ……そうした存在が、他者をイラつかせるのは当然のことなのだろう────。
〈続〉