【よっちき会議・特別編】学生報告会という名の、対話の場づくり
よく晴れた12月のある日
学生と式根島の人々が、画面越しに対談していた。
「式根島の魅力と課題は?」
学生からの素直な問いに、世代も肩書もしがらみも超えて、島の人々がホンキで考えている光景が広がっていた。
おせっかい会議(現よっちき会議)を運営していた私(式根島診療所のドクター)は、
学生実習の受入も行っていたので、この2つをコラボさせたのだ。
結果は大成功。
半年間の軌跡を振り返りながら、目の前で更に盛り上がる島の人々に希望をいだいた。
地域診断やってみよう?
学生団体「ちいここ」は、学生達が暮らしや地域、医療に対する考え方を広げるために全国各地で地域医療を体感する合宿を主催している。
他の地域合宿では10人以上が参加するというが、学生実習受け入れの前例も少ない式根島では一度に対応できる人数はせいぜい5人程度だった。
それでも彼らの想いに応えたく、こんな提案をした。
「沢山は受け入れられないけど、少ない人数で、じっくり関わっていこう」
2023年夏、半年間に渡る式根島と学生の挑戦が始まった。
式根島を訪れる日程を調整し、最終的に3名の学生が訪問することになった。
私からは地域診断という手法を一緒にやろうと提案した。
地域診断とは、地域内の課題・資源を調べて地域の特性に合わせた健康活動に繋げることだ。
医療者が地域の実情をよく理解するために行うアプローチ方法で、いくつかのステップがあるためある程度時間がかかる。
私1人でやってみようと考えていたが、長期間関わろうとする学生に協力してもらうことでお互いに学びが深まると考えた。
大きく事前学習→現地調査→事後学習→活動計画という流れがあり、
学生達と何回もオンラインミーティングを通して式根島の生活を知ってもらい、
特に3人の興味のある分野ごとに現地で調べたいテーマや問いを立ててもらった。
現場でこそ見つかるもの
9月、事前学習で各々の「問い」を深めた学生達が式根島を訪れた。
滞在期間は3日間。
地域に深く関わる人ほど「たった3日間」と思うだろうが、正にその通りだ。
かくいう私も式根島に来て1年も経っておらず、島の生活の全ては到底理解できない。
学生達には「今回の滞在で分かる式根島の生活は、ほんの一部で自分達の視点からでしかない」という事を強調した。
だからこそ、「テーマを決めて問いを持とう」ということが重要だ。
事前に調べた情報と現場の情報を照らし合わせることで、現場に暮らしていても気づかない発見が得られる。
事前調査で厳選した問いは多岐にわたった。
島で亡くなる、離島の教育、産業など、それぞれのテーマに合わせて取材先をアレンジした。
最高齢クラスのおばあちゃん達のランチ会やゲートボールに参加したり、
全校生徒13人の中学校で生徒にインタビューしたり、
サーファー和尚と朝早くからお経を読んだり。
診療所の実習はそこそこに、3日間で20名以上の島民にインタビューした。
取材をお願いした島の方達も本気で応えてくれた。
お願いしていなくても、気さくに話しかけて島を案内してくれる小学生や商工会の人達もいた。
島外に暮らしながら島の未来を考える学生達の質問を聞いて、
島に暮らす自分達自身の仕事を改めて考えさせられた、と後で教えてくれた方もいた。
取材を受けた島の方達自身も、少しずつ変化を感じていた。
現場から離れて見つかるもの
式根島にも来れない人達にも地域を体感して自分事として考えてもらいたい、
そう考えて、事前学習・事後学習を兼ねたオンラインイベントを各々開催した。
式根島に学生が訪れる前のオンラインイベントでは、
式根島について学生が調べた情報を共有し問いをみんなで立てた。
私が地域で体感していた暮らしの情報と、福祉総合計画などの統計資料を合わせて課題の背景にある地域の事情について仮説を立てた。
「島で亡くなるハードルが高い理由は?火葬場はあるので福祉資源の問題か?」
「島の魚が島内で出回らない理由は?」
などユニークなものが集まった。
式根島でフィールドワークを行った後は、学生達が集めた情報を「写真+考察」という形で整理して、総勢57枚のスライドデータに落とし込んだ。
他にも地図上に式根島の地域資源をプロットしたものなどを使いながら、
事後調査としてのオンラインイベントを行った。
2回のイベントとも、学生に制限せずに呼びかけた結果、
伊豆諸島で働いた経験のある医師、式根島に親戚のいる人、保健室の先生や沖縄の看護師さんなど、多様な参加者が集まった。
参加した人はのべ50名以上になったが、実は参加者の73%が式根島のことを知らなかった。しかしイベントを終えた時には89%の参加者が「式根島に関わり続けたい」と回答したのだ。
興味を持ってくれた人達は、いわゆる「関係人口」になる。
イベントをきっかけに自分の暮らす街でも地域診断プロジェクトを立ち上げた人もいた。
オンラインイベントを通して、式根島の外の人達も変わり始めた。
「学生さんがやるなら」をきっかけに
現地調査と前後の学習・オンラインイベントを通して、
学生達と私で大量の情報を読み解いて見えてきた課題は
「島民同士が本音で話せる場所がない」というものだった。
産業や教育、福祉など様々な分野で「この島を良くしたい」
と考える人達と沢山出会えたが、同じ場所で語り合う機会がなく、批判する話も出てきた。
濃密な人間関係だからこそ、一度固定した関係は変えづらい。
噂が面白く広がるので、挑戦しても勘違いされて批判されてしまう。
島の良い面と悪い面は表裏一体だった。
そこで、地域診断を通して最終的な活動計画は
「島民同士の対話の場をつくる」というものにした。
今まで「島の未来を話しましょう」と呼びかけても来れなかった人も来れるようにするには?
想像を膨らませると、「学生さんが話しているなら、、」と参加する人達がいるイメージが浮かんだ。
「式根島を訪れた学生が学びを発表します!」という呼びかけのもと、
集まった人達に、学生達から問いかける。
問いかけへの答えを島民同士で話し合ってもらうことで、
みんなが対等に意見を出し合えるのではないか?
そんな仮説のもとで学生発表からワークショップに繋がる構成を組み立てた。
私が島の人達と同時期から始めていた「おせっかい会議(現・よっちき会議)」に参加していた人達も、学生の現地調査中に取材に応じてくれた人達がいて、学生報告会にも参加してくれた。
おせっかい会議でも島民同士が安心して対話できる場を目指していたが、メンバーが固定化しつつあったので、新しいメンバーが参加するきっかけにもなった。
結果的に参加した島民は10名程度で決して多くはなかったが、
学生報告からワークショップの流れに乗って、島の課題をどんどん自分事として考えていった。
この学生報告を経て、今ではおせっかい会議は式根弁を取り入れた「よっちき会議」に名前を変え、活動アイデアを少しずつ実行できるよう動いている。
「島の外の学生さんが一生懸命式根島のことを考えた」という経験は、島に暮らす人達に少なからずの刺激になったと思う。
島に暮らす人、島の外から関わる人、両者を繋ぐ人が協力することで、
関わる人全員が式根島の未来に向かってポジティブに変わることができた。
思わず「やってみたい!」と思う仕掛けから、
気がついたら良い方向に動き出していく。
そんなアイデアをこれからも様々な人と仕掛けていきたい。