【読書感想文】ダイナー/平山夢明 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
会員制ダイナーで振る舞われる、五つ星レベルの料理たち。
ですが、作者はあの鬼才・平山夢明さん。ただのグルメ小説ではありません。
波乱万丈な人生を送るオオバカナコ。神様は簡単には救ってくれない
主人公は三十路のオオバカナコという女性。
彼女は幼い時に母親に捨てられ、そこからとても順風満帆とは言えない生活を送っていました。結婚もしましたが結局上手くいかずに離婚、今は事務用品問屋で細々と働く日々を送っていました。
どうにかしてお金を稼ごうと思ったカナコは、怪しげな携帯サイトで報酬30万円という求人広告を目にします。それに応募したのはいいのですが、待っていたのは所謂闇バイトと呼ばれる仕事でした。
しかもそれが失敗に終わり、裏組織の人間たちに拘束されてしまいます。人気のない場所に連れて来られ、同じ闇バイトに参加した二人の拷問を見ることになった挙句、自分にまでその毒牙がかけられそうに。なんとかして説得を試みようとしたカナコは、奇跡的に買い手が付き見逃されることになったのです。殺される寸前でボロボロでしたが、命拾いをしたのでした。
カナコは運よく生き延びましたが、やはり闇バイトにホイホイ手を出すものではないですね。
ちなみに名前を変換すると『大馬鹿な子』。昔から散々からかわれていたという彼女、受難はそこから既に始まっていたのかもしれません。
オーナーのボンベロが構える店、それはただの食堂ではなかった
カナコが連れて来られたのは、ボンベロという男性が仕切る会員制のダイナー【キャンティーン】でした。ですが、裏組織が出入りするような場所。普通のダイナーではありません。
そこにやってくるのは、プロの殺し屋たち。自分の命を削りながら他人の命を奪う彼らに、ボンベロは憩いと料理を提供しているのです。勿論、ボンベロ自身も人を殺めるプロ(元殺し屋)です。
カナコがやってくるまでに、既に何人ものウエイトレスが殺されていました。その埋め合わせとして連れて来られたカナコに選択肢はなく、そこで働く壮絶な日々が幕を開けました。
ボンベロと愉快な仲間(??)たち
ボンベロは元殺し屋ですが、料理の腕は間違いなく一級品。掃除や接客のルールにもかなり厳しいものの、それは客を迎えるのだから当然のこと。料理人としてのプロ意識も相当に高いのです。
さて、そんなボンベロの元に集まってくる客たちも、一筋縄ではいかない人物たちばかりです。特に印象深いキャクターを挙げてみます。
◇スキン
ボンベロとかなり親しい間柄。一見すると普通のファッションをした青年なのですが、顔や身体のあちこちに深い縫い傷があります(でも顔自体はかなりのイケメンっぽい)カナコのことも気に入っており、自分の料理を分けてくれたりボンベロに意見までできる人物です。だが殺し屋の腕前は相当なもので、複数人を簡単にねじ伏せてしまうほどです。
彼は実母のスフレに強い思い入れがあり、いつもボンベロにオーダーしています。ですが、それを作る際にボンベロはあるルールを徹底しています。そのルールの意味とは?ルールを破るとどうなるのでしょうか。
◇教授とキッド
60歳くらいの老紳士と10歳くらいの孫という、殺し屋が集うダイナーには似つかわしくない組み合わせ。キッドは初対面のカナコに懐き、お絵描きをするなどいたって無邪気な悪戯好きの子ども。教授と呼ばれる老紳士も穏やかな表情でそれを眺めていますが、ボンベロは何故か嫌そうな顔をしています。
実は今作の中でも、群を抜いてヤバイ殺し屋です。その秘密がボンベロから語られた時、「えっ」と思わず声が漏れてしまうでしょう。人は見かけによらないとはまさにこのこと、怖すぎる。
◇菊千代
舞妓や芸子のような名前ですが、ボンベロが飼っているブルドッグのことです。かわいらしいたるたるの一般的なブルドッグではなく、ムキムキの筋肉おばけと称されています。客の拳や頭を丸のみする勢いで噛みつくなど、正真正銘の殺し屋です。言葉を理解するなど、ある程度賢い仕草も見せます。
ボンベロは唯一の相棒として大変可愛がっており、菊千代と接する時はどこか楽しそう。ちょっと微笑ましい光景が見られます。
他にも下劣な賑やかし担当の3人組のチカーノズや、ボンベロにストーカーレベルで執着している女殺し屋の炎眉、裏組織の長老たちなど、基本癖しかない人たちが次々とやってきます。まさに命懸けの職場という訳です。
それはオオバカナコも同じ、かなりの大物の予感
裏組織に消されそうになっていた時には怯えていたカナコでしたが、大物ぶりは結構序盤から発揮されています。
まず来て間もなくの頃、超VIPにしか提供しない1億円以上の最高級品のお酒を人質に取り、隠してしまいます。ボンベロに殺されないようにするためでしたが、元とはいえ殺し屋相手に普通はそんなことできませんよね。
そのせいかボンベロには結構強気で物が言えるし、スキンを始めとしたお客たちにも何故か気に入られています。すぐに殺されてしまうウェイトレスしかいなかったので、珍しさもあったのでしょう。
実害が出た時はさすがに恐怖も感じていますが、乱闘が起きようが殺し屋に脅されようが取り乱すこともありません。慣れたと言えばそうですが、麻痺しているということもありそうです。
そんなカナコを見て、客が一言。「お前人を殺している」。
さて、カナコの過去とは一体。
ハンバーガー、スフレ、ステーキ、サンデー…美味しそうすぎる料理の数々
ダイナーなので基本はアメリカンな軽食が多いのですが、その描写が本当に美味しそうでたまらない。これグルメ小説?って思えるほどです。
特にハンバーガーがよく出てくるのですが、どれもこれも美味しそうだし、人物たちのリアクションを見ても味が間違いないことが伝わってきます。
スキンお気に入りのメルティ・リッチ、めちゃくちゃ食べたいです。
グロテスクなのにグルメ、これぞエンターテイメント
平山さんが書く作品なのでどうしても残忍だったりグロテスクだったりする表現が多いですが、料理描写が本当に素晴らしいのでお腹空いてきます。
更にそこへ裏組織の抗争、殺し屋同士の裏切り、こじれた恋愛、家族との関係等、目まぐるしい展開が続いていくのでどんどん読み進めてしまいます。
ボンベロとオオバカナコ、それぞれの変化や関係性にも注目です。
ではでは、また次の投稿まで。
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