【読書感想文】ようこそ地球さん/星新一 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
日本SF作家の御三家の一人・星新一さんのショートショート集。
タイトル通り、宇宙をテーマにした作品を多く収録した名作集です。
ショートショートを確立した神による傑作SF作品がずらり
星新一さんといえば、ショートショートという分野を日本で確立させたとして有名な方ですよね。
ちなみに日本SF作家の御三家は以前にも感想を綴った小松左京さん、そしてもう一人が筒井康隆さん(代表作【時をかける少女】)です。お二人は長編も多く書かれていますが、星さんにいたっては実に1000ものショートショートを世に送り出しています。凄いの一言です。
昭和の初期~中期に書かれたにも関わらず、まるで未来を見ているかのような描写や設定には驚くばかりです。
地球人視点、宇宙人視点、どこから見ても面白い
42作品という数が収録されており、全部は紹介しきれないので印象深いものをピックアップします。
◇証人
テレビで人気の女性タレントが、青酸カリで自殺した。彼女は自殺をするような人物ではないと評されていたが、直筆の遺書も残されていた。その遺書はどのように書かれたのか、警察は証言を集めるために奔走する。
テレビ業界や視聴者をかなり皮肉ったブラックユーモアです。ただ実際、こういうことがあってもおかしくはないとも思わせてくれます。みなさんは、CMや1シーンをちゃんと覚えていますか?
◇天使考
怠慢な仕事をしていた天使たちに業を煮やした神様が、とある提案をした。それは天使を二組に分け、より多くの魂を天に導いた組を残し、負けた方は天の川の工事に送り出すこと。工事だけは嫌だと、天使たちはこぞって仕事に精を出すようになる。
天使の世界を人間社会に見立て、『独占事業』や『役人臭』というまるで普通の人間が働くような状況を作り出しているのが面白いです。それにしても、なんとかして魂を天へ連れてこようとする天使たちの必死さには思わず笑ってしまいます。果たして魂の導き手がそんなでいいのか…
◇不満
狭いところに閉じ込められた挙句、ロケットで宇宙空間へと送り出された語り手。送り出されたやつらへの恨み節を口にしていた彼だったが、やがて装置の故障もあって気絶してしまう。そして目が覚めた時、彼は知らない場所にいた。
最後の一文でひっくり返される、叙述トリックを見事に使った作品。この短さでこのどんでん返し、素晴らしいです。
◇セキストラ
米国政府は、青年たちが不良化することに頭を抱えていた。しかしとある業者が一つの機械を持ち込んだことで事態は好転することになる。不良化の原因を欲求不満だとして作られたその機械は、特殊な電波で性的欲求を満たすことができるものであった。
これ、未来にもありそうな感じのお話なのですが、スケールがかなり壮大です。たった一つの機械からここまでやってのけるとは、恐れ入ります。
◇ずれ
ある男が、壁の塗り替えを会社に依頼した。送られてきた機械が自動でやってくれるが、人体には有毒なので部屋から出ようとする。すると、送られてきたのは機械ではなく、美しい女性だった。
通販の一つのミスから起こるお話。フィクションだからいいですが、こんなことが起きればかなりのクレーム案件でしょうね。
◇愛の鍵
その世界では、鍵は金属ではなく言葉だった。文字通り、キーワードを口にすれば開錠ができるようになっていた。そんな世の中のある日、一組のカップルが喧嘩を始めてしまい…
一つの短いドラマとしてぴしっと完結している、ちょっとロマンチックなお話です。
◇テレビ・ショー
政府が提供するテレビ・ショーがあと10分で始まる。ある夫婦は子どもに見せなくてはと我が子を探すが、どこかに行ってしまっていた。子どもに是非見せなさいと謳うその内容は、一体どんなものなのか。
現代で言う『草食系』というタイプに関するお話。政府公認なんてことは現実には起こりにくい話ですが、動画とかでは実際にあり得そうな内容なのがすごいところです。現実世界で起これば、少子化どころの話ではなさそうですが…こんな未来を想像していたんでしょうか、恐るべし。
星新一さんの中でも傑作中の傑作【処刑】と【殉教】
数ある作品で、特に傑作なのは【処刑】と【殉教】です。
すべての星新一作品でも、五本の指に入るほどの名作と言えます。
◇処刑
とある男が、地球ではない別の惑星に置き去りにされた。それは意図的なもので、彼は罪を犯し刑を執行されることとなったのだ。残された彼のそばにあったのは、置いていかれる際に渡された銀の玉だった。それは空気中の水分を水にしてコップに貯めてくれる装置なのだが、ある仕掛けがあり…
SFであり、サスペンスであり、冒険であり、すべてが素晴らしくまとまった作品です。ドラマどころか短編映画でも見終えたかのような感覚に陥ります。映像化しないかな…(誰かしてるかもしれないけど)
◇殉教
群衆が見守る中、一人の男が壇上に上がって演説を始めた。そこには一つの機械があり、男はこう説明した。「これは死者と会話できる装置である」。
そして亡くなった妻と会話をしてみせた男は、自ら青酸カリを服毒して自殺を図ってしまい――
『死ぬことは恐ろしいことではない』という概念を植え付けられた人類たち。その結末は果たしてハッピーエンドか、それともバッドエンドか。残された者はどうなるのか。
そんな世界の光景を想像した時の恐ろしさと同時に、生死とは何たるかを深く考えさせられる作品です。
いつ読み返しても色褪せない、宝箱のような作品集
一つ一つが短いので、ふとした時に読み返してしまうほど魅力にあふれています。
これがもう60年近く前に書かれた作品だとは…どれほどの先見の目を持っていたのか、脱帽するしかありません。
何度も言ってしまいますが、特に【処刑】は繰り返し読むほどの価値があると思っています。満足感が半端じゃない。
星新一さんの作品は数が多いので感想を書くのは大変かもしれないですが、名作揃いなので続けていきたいですね。
ではでは、また次の投稿まで。