【読書感想文】聖母/秋吉理香子 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
女性のミステリーを書いたら天下一品の秋吉理香子さんの作品。
どんでん返しと言えば、でも挙げる方も多い名作です。
愛する娘を抱く幸せ。それを脅かすニュースとは
保奈美には3歳の愛娘・薫という家族がいました。
大変な不妊治療を経験し、43歳の時に自分の元へやってきた薫はまさに宝物でした。目に入れても痛くないとはこのことで、何があってもこの子は守ると心に決めていました。
ですが、偶然目にしたニュースに一抹の不安を覚えます。そう遠くない場所で、幼児が被害に遭ったという内容だったのです。被害者は4歳の男の子だったのですが、被害状況があまりにも凄惨でした。大人でもむごいと感じるのに、それが幼い子どもとなると…吐き気を催すレベルです。
警察も当然動いており、身辺調査や聞き込み、防犯カメラの確認など躍起になっていますが、結果は見えてきません。保奈美はかなり神経質になり、夜中に見かけた人を犯人と決めつけて通報したりするなど、暴走にも近い行動を起こしたりしています。但し通報されたのは蓼科という男で、最近出所したばかりという前科者でしたので、間違ってはいませんが。
高校生の真琴が抱えるどす黒く深い闇
高校生の真琴は、剣道部に所属する高校二年生。
剣道教室のボランティアをやったり、スーパーでバイトをしたり、真面目で優等生な印象。また他校生から告白されたりと、整った顔立ちであることも見受けられます。
ですが、真琴は誰にも言えない秘密を抱えていました。幼い男の子、しかも他の子をいじめるような子を見ると心がざわつくのです。その衝動はおさまることはなく、時間が経つに連れてどんどん膨らんでいき―――
それを実行に移してしまう真琴でしたが、やり方は徹底しており、ばれない自信を持っていました。警察に聞き込みをされても、平常心を保ったまま受け答えもできている。大丈夫だと言い聞かせる真琴は、報道されたニュースを見て驚愕してしまいます。
所謂倒叙ミステリーに近いのか?と、読んでいる途中まではそう思えます。ですが、この物語はそんな簡単なものではありません。
『ラストの20ページ、世界は一変する』
帯の言葉通り、後半になると一気に変わっていきます。
真琴が抱える闇の理由、保奈美が起こした行動の行く末、事件の幕引き…短い話の中で、怒涛の如く伏線が回収されていきます。
こういうフレーズはハードルを意図せずに上げてしまいますが、見事に超えてくるラストが待っています。
母親は子どもを愛する聖母、だが愛は時に悪魔にもさせる
ここで一貫するテーマは『母からの愛』です。
保奈美は薫に無償の愛を注いでいますし、真琴も母親の優しさを感じながら日々を過ごしています。ただ保奈美に関しては事件に不安を抱え、過剰な反応を見せてしまう場合も。でもそれも、結局は愛故にそうなってしまうのです。
子どもを慈しむ聖母にも、手段を選ばない悪魔にもなる。すべては愛する我が子の為に。
250ページの中に驚愕を散りばめた濃厚ミステリー
長編としてはコンパクトなページ数ですが、内容がかなり濃くでずっしりと重いです。扱っているテーマもテーマなので、時には気分が悪くなるかもしれません。
ちらっと触れた蓼科に関しては生粋のクズなので、読んでてかなりイラっときます。ああいう人が実際にいるから、現実でも同じようなことが起こるんでしょうね。
そんな人物もいるので、描く登場人物の葛藤の心理描写が本当に痛々しいです。悪いことをしているとはわかっていても、うっかり同情してしまいそうになります。あんなの辛すぎる…
読むのに抵抗がある内容ではありますが、このどんでん返しは一度目にして損はありません。どうしてどんでん返しがあるとわかっているのに見抜けないのか、先入観とは恐ろしいものです。
ではでは、また次の投稿まで。
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