見出し画像

【読書感想文】霧が晴れた時/小松左京 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

日本SF作家の御三家の一人・小松左京さんのホラー短編集。
自選というだけあり、名作しかありません。


選りすぐりのホラー作品詰め合わせ

先ほども書いたように、小松左京さんと言えばSF小説の先駆けとも言える作家さんです。
ですがホラー小説も多く手掛けており、その中から選び抜いた作品をこの本に掲載しています。面白いに決まってますね。
その中でも特に好きな短編をピックアップします。

◇くだんのはは
太平洋戦争も末期の時代。良夫は住んでいた家を焼かれ、路頭に迷いそうになっていたところを家政婦のお咲に拾われる。彼女の口利きのお陰で、大きな屋敷の一角に住まわせてもらうことになった。
屋敷には奥様と呼ばれる女性とその子どもが住んでいるのだが、子どもは病気らしく表には出てこない。時折、その子どもと思われる女の子の泣き声が洩れ聞こえるくらいだった。
奥様は良夫とも会話を交わす仲ではあるものの、時折不思議なことを口にする。「こちらより西の方が焼ける」「広島は山奥は安全、市街地は危険」など、まるでそうなることが分かっているような口ぶりだった。
更には「この屋敷は絶対に焼けない」「日本は戦争に負けた」と告げたことで、良夫はそんなことを言ったから負けたのではないかと訝しむようになった。その真相を確かめようと、行くことを禁じられた部屋に向かい―――
左京さんの作品でも、特に有名な名作です。『くだん』を漢字に直してみてください、その正体がわかります。

◇影が重なる時
主人公の津田の元に、友人の野村から電話があった。慌てた様子で彼が言うには、野村自身の幽霊が部屋に現れたというのだ。津田は駆けつけるものの、幽霊は見えない。野村が示すところを探ってみても、やはり何もなかった。どうやら、本人にしか見えていないらしい。
更には、共通の友人であるユリ子も自分の幽霊を見たと言い始めた。それを皮切りに、同じ目撃例が次々と現れ始める。津田もとうとう自分の幽霊を見つけたものの、妙な表情とポーズをしていた。
どうやら、特定の地域内の人しか幽霊を見ていないらしく、しかもそこの住人でも幽霊を見ていない人もいた。しかも時間が過ぎるごとに、幽霊の輪郭がはっきり映るようになってきた。幽霊の正体は何なのか。
自分とまったく同じ人物(もしくは幽霊)を見ることを、現代はドッペルゲンガーと言います。それが見えると、次に起こることは……

◇召集令状
会社員の小野は、後輩である武井から相談を受ける。家の郵便受けに、いつの間にか召集令状が来ていたということだった。確かに本物のようにも見えるが、悪戯の類ではないかと結論付ける。武井も異議を唱えることはなく、それをゴミ箱に捨てた。
翌日、武井は無断欠勤をしていた。更に同じ会社に勤める二十代の若手男性社員にも、同じような召集令状が来ていることを知った。戦争に行った経験がある課長によれば、紛れもなく本物らしい。けれどその時点でも、周囲を含め悪戯だろうという認識でしかなかった。だがそれは、日本全国を巻き込んだ一斉失踪の始まりに過ぎなかった。
戦争の恐ろしさも含めて書かれている作品。もしも現代でこんなことが起こったら…考えたくないです。

◇骨
主人公は突然、井戸を掘ろうという衝動に駆られた。職人を呼びつけて、早速庭を掘り出しにかかる。
すると、職人が何かを見つけた。それはかなり古い骨で、どうやらナウマン象という動物の骨らしかった。珍しいものが見つかったと思っていると、今度は旧石器時代の人骨が大量に発掘される。主人公は取りつかれたように穴を掘り下げ始め、やがては職人や学者たちも逃げ出すほどの執着を見せた。その穴からは次々と骨や道具が見つかるが、本来なら逆でなければいけないことが起こっていた。けれど主人公は構わず、穴を深く深く掘り下げていき―――
本来とは逆、というのがこのお話の真相です。主人公がそれに気付くことで、少し救われたことになるといいのですが。

◇保護鳥
外国のとある村を訪れた主人公の中橋。そこに住む人々は、日本の朱鷺の保護方法に非常に興味を持っていた。不思議に思っていた中橋だったが、彼らが『アルプ鳥』という生き物を保護しようとしていることを知った。知らない鳥ではあったものの、確かに生存しているらしく、夜にはそれらしき不気味な鳴き声も耳にしていた。
興味が沸いた中橋は、その棲息地にも連れて行ってもらう。乱獲による数の減少と、特別な餌が必要なことにより、かなり珍しい存在となってしまったようだった。それだけではなく、村人たちはその扱いにかなり神経質になっており、遠くからのカメラ撮影も禁止されてしまう。しかし諦められない中橋は食い下がるが…
このアルプ鳥の正体が、かなり恐ろしいです。あんなのが暗闇を飛んでいると思うと恐怖でしかない。また特別な餌とは何か、そこも恐怖を覚えるものとなっています。

◇霧が晴れた時
近郊の山へハイキングにやってきた家族。夫婦と中学生の息子と小学生の娘、特に問題もなく山を登っていた。
変わったことといえば、おかしな天気がこのところ続いていたこと。日中は暑かったのに、夜はかなり冷え込んだり、晴れと雨を繰り返したり…ハイキング当日は曇りだったものの、かなり濃い霧が漂っていた。
休憩をしようと、茶屋に立ち寄った家族だったが、その様子がおかしいことに気付く。誰も姿が見えないのに鍋に火がかけっぱなしになっており、食卓にはまだ湯気が立っている湯飲みが置かれている。そう、今しがたまで誰かがいたのに、忽然と消えてしまったようだった―――
昔話や文献にも載っていそうなお話。霧が晴れた時に映る光景を想像したら、ある意味化け物や幽霊に襲われるより背筋が冷たくなるでしょう。異常気象って、最近増えてますからね…

まとわりつくような恐怖が襲い来る、想像すれば頭から離れない

ガン!と一気に来るような怖さではないですが、もしも自分にそれが起こったら…と想像を掻き立てられるような作品が多くあります。
中には戦争や核の話もあったり、現代にも通じるものがあるので、いろいろ考えさせられます。小松左京さん自身が戦争を経験されているので、影響を受けるのも無理はないでしょう。
ホラーをあまり読んだことがない方でも読めるかもしれないです(当社比較)
ではでは、また次の投稿まで。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?