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【読書感想文】どんどん橋、落ちた/綾辻行人 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

綾辻さんが叩きつける『読者への挑戦状』が盛り込まれた短編集。
ただ、一筋縄ではいきません。この謎、不正解率100%必至。


綾辻行人の元へ持ち込まれる挑戦状、果たして真相を見抜けるか

大晦日、作家の綾辻行人の元へ大学の後輩らしきUという青年がやってきた。読者への挑戦状を軸としてミステリーを書いたので、是非読んでほしいという。ミステリー作家として挑まない訳にはいかない、綾辻は早速読み始めるが、それを皮切りに謎が綾辻へと呼びこまれていく。
ここまでは、特に何の変哲もない有名作家と作家志望の青年の会話です。ただ、問題は持ち込まれる謎への挑戦状。ミステリの名手とも言われる人にやってくる謎、単純明快なんてことはありません。

知られざる集落で起きる殺人事件の謎を解け【どんどん橋、落ちた】

大きな谷川にかかる【どんどん橋】は古びており渡るのを躊躇うような状態だった。谷底は深く、落ちたらひとたまりもない。危険極まりない周辺地域に囲まれたそこに、M村という秘匿の集落があった。
そのそばの川沿いでキャンプをしていたダイスケたち大学生と、その弟ユキト。悪童極まりないユキトに手を焼く大学生たちだったが、目を離した隙にユキトがいなくなってしまう。手分けしてユキトを探すダイスケたち、しかしながら彼が発見されたのは切り立った崖の下だった。
一方、M村ではユキトを殺めた犯人を捜し始めていた。村に殺人犯がいることは許されないこと、そう宣言する村長の指揮の元、容疑者の捜索が始まった。
閉鎖的な村で起きる殺人事件…いかにもどろどろしたものを感じるし、村人の名前も『ポウ』『エラリィ』などといったもので人物像もよくわかりません。しかし、実はそこが大きな鍵となっています。「わかってたまるか!」と怒る人もいるかもしれませんね…綾辻さんもイラついてるし。

大規模な山火事の最中で起きた殺『犬』事件【ぼうぼう森、燃えた】

果てしない森林地帯【ぼうぼう森】の中で暮らす、犬の集団がいた。
集団生活をしていた彼らだったが、みんながみんな仲良しこよしという訳にはいかなかった。掟をよく思わないもの、無理矢理襲うもの…人間関係よろしく複雑な感情が渦巻いていた。
一方、近くにあるH村に暮らすユキトは、動物虐待も厭わないほどの悪童へと成長していた。その日もガシャポン爆弾等物騒なものを抱え、ぼうぼう森へと向かう。ターゲットを見つけたユキトはここぞとばかりに攻撃を開始し、逃げ惑う犬たちを見て笑う。しかし、予想外の大きな山火事が発生。巻き込まれた犬、ユキトに怪我を負わされ動けなくなった犬など、犠牲は数多くとなった。だがその中で、火事ではなく何者かに手をかけられた犬がいて―――
1話目の2年後のお話で、Uが持ち込んだ作品の犯人は誰か当てる挑戦状。1話目のこともあって警戒して読み進めますが、これも間違いなく見抜ける人はいないでしょう。「そっちかよ!」と今度は言ってしまいそうです。

隠居老人の愛猿は如何にして殺されたのか【フェラーリは見ていた】

綾辻の前担当のU山と妻のK子、そして新担当のA元でパーティーを開くことに。酔っ払ったU山を介抱しつつ、K子はある事件について話し出した。
知り合いに葛西という老人がおり、彼は妻を亡くしてからは独り身でフェラーリを乗りこなしながらのんびり過ごすという人生を謳歌していた。そんな彼はシンちゃんという猿を飼っていて、病気で亡くなった孫の代わりに可愛がっていたという。その日もいつものように友人を招いて麻雀をしていたのだが、ふとシンちゃんの様子が気になって覗いてみると、シンちゃんが目出し帽を被せられ撲殺されていたという。何故シンちゃんは殺されたのか、犯人は一体誰なのか。
新しいタイプの叙述トリックを使ったお話。犯人の正体というより、そっちの事実の方にびっくりしてしまうかもしれません。どうりでちょっとずれてる訳だ…でも気付けない。
ちなみに犯人も絶対わかりません。

某国民的アニメの有名家族に立つ闇落ちフラグ【伊園家の崩壊】

綾辻の元に、一本の電話がかかってくる。久しく聞いていないその声は、作家の大先輩である井坂南哲のものだった。彼の口から語られたのは、あの有名な伊園(いぞの)家で殺人事件があったという知らせだった。あの平和な家族に一体何が起きたのか、それを推理してほしいと井坂に頼まれる。大先輩の頼みともあれば断れない、綾辻は井坂の元へと出向くことに。
伊園家は福田笹枝の母・伊園常がいきなり発狂して通り魔事件を起こした後に自殺してから、家族がバラバラになりつつあった。父は酒浸り、夫は浮気、息子はいじめられ、弟はグレて、妹は下半身不随…そんな家族の一員である笹枝も、クスリに頼る日々を送っていた。重く暗い雰囲気に満たされたその家で、ある日またしても血が流れる事件が起きるのだった。
名前からしてもうおわかりでしょう、誰もが知る某国民的アニメのパロディです。平和なはずのそれからは想像もできない、血なまぐさく闇落ち確定シーンオンパレードな作品。ですが、ミステリーとしてはかなり面白くご多聞に洩れず読者の挑戦状付です。しばらく頭から離れません。よくこんな設定思いつくなあ…

原案者の記憶喪失?意外過ぎる結末が待ち構える【意外な犯人】

3年ぶりにUが綾辻の自宅を訪れた。彼が持ってきたのは原稿ではなくVHSで、『意外な犯人』というタイトルがつけられていた。これは大阪のテレビ局が放映したミステリーの特番で、綾辻もそこへ参加していたという。しかし、記憶を辿っても綾辻は思い出せなかった。釈然としないままだったが、とりあえず見てみようとテープを再生し始めた。
役名と役者名はもちろん、原案者の名前もきちんとテロップで表示されて物語は進んでいく。ドラマ内では推理作家のアヤツジを中心としてミステリー談義等に花を咲かせていくのだが、その最中に停電が発生。懐中電灯を点けながら暗闇を進んでいくと、床に倒れている人物が発見され―――
ドラマ内の犯人にもびっくりですが、最後の最後のオチにも注目です。ミステリーの中に差し込んでくるこの言い知れぬ異様な不気味さ、これこそ綾辻さんの真骨頂ですね。

フェアであると同時にアンフェア、これぞ綾辻行人の新感覚ミステリー

読者への挑戦状はフェアであることが第一前提なんですが、それを踏まえていてもこれをフェアとするかどうかは難しいところです。ただ、お話としては間違いなく面白いものばかりなので、それでも許せるという方は是非読んでみていただきたいです。
特に【伊園家の崩壊】はその漂う雰囲気にも浸ってみてください。いろいろとぞわぞわします。
ではでは、また次の投稿まで。

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