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【読書感想文】私はチクワに殺されます/五条紀夫 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

強烈なタイトルと表紙のインパクトでずっと気になっていた作品。
滑稽なタイトルと思って油断していたら最後、チクワに取り憑かれます。


借家で見つかった夫婦の遺体。そこにあったのは夫の手記と『チクワ』

練馬区の借家で、夫婦の遺体が娘によって発見された。夫は首を吊っており、妻は身体中に刺し傷があった。死後2週間は経過していると見られ家には臭気が充満していたが、その原因はそれだけではなかった。何百・何千・何万というチクワが、そこで腐敗していたのである。一体どういう状況なのか?更に夫が残した手記は『私はチクワに殺されます』という文章から始まっていた。
トラック運転手をしていたという夫は、5ヶ月ほど前水産加工場へ仕事で出向いた。そこで売り物にならないチクワを無償で受け取り、外で作業している男性を何気なくチクワから覗いてみた。すると、その男性が真っ赤に染まり首が不自然に曲がっている姿が見えた。驚く夫だったが、その直後に作業員はゴンドラから転落し死亡。その遺体の状況は、チクワから見えた光景とまったく同じだった。気のせいだと思っていたが、偶然食卓に出たチクワで隣人女性を覗いたところまたしても死亡事件が発生。そう、チクワから覗けば、人を殺せることを理解してしまったのだ。そこで夫が取った行動は、最早狂気とも言えるものであった―――
チクワって特に日本人には馴染がある食べ物ですが、それが殺人凶器になるという前代未聞の設定です。ただ、チクワから覗くって結構な人がやってると思うので、それで人が殺せるとなると恐ろしいですね。しかし、やるなと言われるとやりたくなる人間心理…
しかも何故チクワ?とも思いますが、『秘拷穴』の話を聞くとなんとなく納得できるかもしれません。そして、食べ物に感謝しましょう。

亡くなった夫婦の娘へのインタビュー、彼女の真意は何か

フリーライターが夫婦の娘へ行ったインタビュー。
両親との思い出話を語る彼女だったが、父親の手記を読んで思うところがあるという。警察が公表した通り無理心中だろうとは思っているが、二人共自殺なのではなく、父親が母親を殺害した上で自殺を図ったのではと考えていた。実は父親は若年性の認知症を患っており(と言っても診断された訳ではなくあくまでそう見えるだけ)、母親は思い悩んでいたという。そこから無理心中の顛末を推測するのだが、娘が考える真実はもっと恐ろしいものだった。
手記から見える真実、娘と両親の過去とは。
事件の遺族であり肉親をみんな亡くしてしまった娘ですが、インタビューにしてはあまりにも淡々と語るのでそこがちょっと怖くもありますね。あんな異様な状況見たら、普通は取り乱しそうな気もしますし…チクワのせいで死んだ、とか納得できるはずもないし。
しかもちょっと推理が無理矢理というか、違和感が所々あるような気がしてなりません。果たして彼女は真実を語っているのでしょうか。

娘を呼び出したライターはチクワの真実を暴けるか

語り手は第二章で娘にインタビューを行ったライターの岡嶋。事件現場となった家に娘を呼び出した岡嶋は、手記とインタビューから更に違和感を覚えたのだという。そこで出した結論が、二人は無理心中ではないということだった。一体どうしてそう考えたのか、だとしたら二人は殺されたのか。チクワを巡る不可解な事件の真相は―――
ここの会話が実にハラハラドキドキで、相手を煽りまくったり余計な話をしたり回り道をしたり、それでも真実を一つ一つ暴いていく様子に続きが読みたくて仕方なくなります。結構大胆な推理ですが、ちゃんと読み返すと辻褄が合うことばかりなんです。緊迫した状況下なのに、時々登場するチクワという単語のせいで妙に緩和されてしまいます。いや、チクワのせいでおかしな事件がたくさん起きてるんですけどね。
やっぱりチクワの呪いは存在しないのか?そう結論が出そうになった時、思わぬ展開が待ち受けています。そこから一気に急転直下、チクワが更に恐ろしいものへとなっていきます。馬鹿げていると思いつつ、やることは恐怖そのものです…まさに呪い、まさに呪術です。

チクワが頭から離れなくなる、唯一無二のチクワ・サスペンス

物語にずーーっとチクワが出てくるので、しばらくの間チクワを思い浮かべる羽目になります。おでんの時期だし食べたくなる…かどうかはさせおいて、無性に覗きたくなる衝動に駆られます。次買った時にやってしまいそうになるかも…ただ、人を覗いたりするのはやめましょう、マナー的にも呪いの意味でも。
また「チ、ク、ワー!」と叫ぶシーンが強烈で、これもしばらく頭にこびりつくことになります。チクワをこんなに意識したことは初めてかもしれない。
チクワに持って行かれがちですが、推理シーンなどはかなり現実的というかリアルなので、面白さは間違いありません。ただミステリーよりもホラーというかサスペンス寄りですが。
前代未聞のチクワ物語、一読の価値大ありです。
ではでは、また次の投稿まで。


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