【読書感想文】電氣人間の虞/詠坂雄二 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
奇想天外なトリックを得意とする詠坂さんの作品。
まさにトリックスターとも言うべき技巧が炸裂します。
巷で噂の『電気人間』とは
主軸となるのは『電気人間』。
所謂都市伝説に近いものですが、よくある人面犬や口裂け女とはちょっと毛色が異なっています。
というのも、この電気人間の話は遠海市周辺の地域にしか伝わっておらず、全国的にも知られていません。ニュースや記事などでよく目にするようなものではなく、言わば伝承に近いのです。
その起源は太平洋戦争中のようですが、「人間の形をした電気」「人間が電気になった」「人間の思考が読める」等など、断片的な情報しか出回っていない様子。
ですが、その中でも広く知られているのが「電気人間は人間を殺せる」「電気人間を語ると電気人間が現れる」というもの。さて、その真偽とは…?
電気人間に惹かれる人々、だが触れてしまっては最後、
大学生の赤鳥美晴は研究レポートの題材として、電気人間のことを調べていました。実は美晴自身も電気人間(らしきもの)を過去に目撃しており、そのことを思い出したのがきっかけでした。
在籍していた小学校を訪れたり(そこで電気人間を目撃した)、調べるならと勧められた地下壕へと入ってみたり、題材は都市伝説ですがいたって普通のフィールドワークを行っていました。テキストにもまとめ、きちんと保存もしています。
ですが、そこで事件が発生。滞在先のホテルで、美晴は死んでしまったのです。警察も捜査をしますが、どう見ても他殺でも自殺でもなく、病死。司法解剖の結果も心不全で間違いないと結論付けられます。
そこに疑いの目を持ったのが、美晴と家族ぐるみで仲良くしていた日積亨という男子高校生です。彼は美晴と肉体関係を持っており、恋心も抱いていましたが、それは一方的な想いでしかありませんでした。その想い人が急に帰らぬ人となってしまい、哀しみに暮れる最中で彼女が電気人間の調査をしていることを知ります。電気人間のせいで美晴は死んだ、そう強く思った亨は、「電気人間を殺す」とまで言い放ちます。いわば復讐です。
弟と名乗っては美晴の足取りや周辺を辿り、なんとしても真相を暴こうとしていく様は、最早執念とも言えるでしょう。
ちなみに彼は、電気人間の存在を信じている訳ではありません。電気人間に関わる黒幕が、美晴を殺したと考えているのです。復讐に燃える亨でしたが、毒牙はもうそこまで迫っており―――
二人のライター登場、都市伝説が絡む殺人事件へ挑む
柵馬朋康というライターは、とある編集者から電気人間に関する記事を書いてほしいという依頼を受けます。元々は流川という別のライターが進めていた企画だったのですが、流川が途中で断念したため、柵馬に回ってきたのです。
手伝ってもらおうと柵馬が声を掛けたのは、同じくライターで推理小説家でもある友人の詠坂雄二。ただ詠坂はあまり乗り気ではなく、やる気もなさげな様子。仕方なく、柵馬が一人調査に乗り出します。
この時点で、電気人間に関わったとされる人物が既に3名亡くなっていました。しかし、そこに柵馬は疑問を抱きます。電気人間の噂通りに亡くなってはいるのですが、関わった人物が全員そうなっている訳ではないのです。狭い地域の都市伝説とは言え、結構な数の人が知っているなら、もっと犠牲者は出ているはずですからね。そこに何か違いはあるのか、柵馬は美晴や亨たちが通ったとされるルートを調査していきます。
そこで出会ったのが、地元の小学校に通う韮澤秀斗という男の子。同じ小学校の剣崎絢という女の子と一緒に行動しており、亨や流川とも出会っています。但しトラウマにも成り得る事態に遭遇し、絢はその時点では回復していません(あんなのに遭遇したら大人でもそうなる)絢は明朗快活で秀斗への好意を隠そうともしない子ですが、秀斗はぶっきらぼうでどことなく冷めた印象。しかし電気人間に対するリアクションはこれまた正反対で、絢は全く信じていませんが、秀斗はどことなく思うところがあるようです。
向かう先は、美晴が調べた上にある事件現場にもなった地下壕。太平洋戦争中に作られたというそれが重要であると、柵馬は踏んでいました。電気人間自体も、太平洋戦争中に現れたとされていますからね。
そして、やる気なさげだった詠坂も何故か合流。地下壕へ潜り、事件の全容を探っていく―――
余談ですが、柵馬と詠坂の掛け合いがかなり面白い。二人の言葉の交わし方、最早漫才の領域です。柵馬は詠坂に対して遠慮や容赦はないし、詠坂は言葉は丁寧なのですが端々に変人要素が見られます。この関係、楽しすぎる。
電気人間の真相…それは予想の遥か斜め上をいく
推理小説家らしく、詠坂は考えうる結論を次々と披露してくれます。突拍子もないようなこともあれば、なるほどど納得せざるを得なくなるものまで様々ですが、正直どれも微妙に的を外しているような気がしてしまいます。それは柵馬も感じていましたが、筋が一応通ってはいるので飲み込もうとはしています。けれど何もかが真相としては弱いままで、結局調査は切り上げられてしまいました。
結論は一応出た、そして以降死者は出ていない。解決といえるのかどうかわからないまま、物語は終章へ進んでいく。
「え、これで終わり?」というもやもやしたままかと思ったその直後。
それこそ電撃でも食らったかのような衝撃を受けることになります。
電気人間という都市伝説の真相、見抜ける人はいないでしょう。
そして「生きるため」という犯人の動機、それは哀しみか諦めか楽しみか。果たしてどう見えるでしょうか。
これはミステリーか否か。評価分かれるトリッキーミステリー
紹介文にもあるように、ミステリーとして読むと人によってかなり評価が分かれる作品です。タブーとも言えることをやってのけているので、正統派ミステリーとは到底言い難い内容です。
ただ、どんでん返し等のテクニックは一級品なので、ミステリーとしてではなく詠坂さんの作品を読んでいると考えるとすんなり入り込めると思います。受け入れるか否かは、貴方次第と言ったところです。
ではでは、また次の投稿まで。