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【読書感想文】遺品/若竹七海 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
伝説的女優が遺した品々を巡るホラー作品。
それには決して、興味本位で触れてはいけない―――
失業中の語り手に舞い込んできたのは、遺品整理の仕事
語り手の『わたし』は美術館で働いていたが、閉館に伴い部署異動ではなく退職を選択する。酒浸りの父親からは文句を言われ、恋人とも別れたばかりということもあり鬱屈とした日々を過ごしていた。
ある日、元恋人と親しかった大学の先輩である大林孝雄から、とある仕事を持ちかけられる。それは曾根繭子という作家であり伝説的な女優の遺品を整理し、展示する準備をしてほしいというもの。曾根繭子はある日突然失踪しており、自殺だとされているが遺体は見つかっていない。大林の祖父が彼女のパトロンだったためか、大量の遺品が金沢の銀鱗荘というホテルに保管されているのだという。失業中ということもあり、引き受けることとなった。
ホテルの資料室には大量の遺品が箱詰めにされていたが、それは明らかに異様であった。彼女が書いた原稿や出演作の台本やパンフレットはまだわかるが、衣装のドレスや果ては下着までもが詰め込まれていたのだ。薄ら寒い雰囲気を感じながらも、語り手は仕事に着手することに。
遺品というだけでも少し躊躇いを覚えるのに、そんなものまで入っていたら不気味に覚えるのも当たり前ですよね。しかも彼女の遺体は見つかっていない…ちょっと異質さも感じます。
遺品の周囲で不可解な事件が多発、それは偶然ではないのか
少しずつ仕事を進めていたが、次第に周囲では不可解なことが起こり始める。曾根繭子のフィルムを持参した男性が事故に遭い重傷、更には恋人にふられ自暴自棄になった男に人質に取られるも突如犯人が発狂。またホテルスタッフの飼い猫が資料室で大暴れしたと思ったら行方不明に、別のホテルスタッフは曾根繭子のドレスを着た女性がドアをすり抜けた場面を目撃…おかしなことが立て続けに発生している。やはり曾根繭子の遺品が関係しているのか。
そもそも、曾根繭子の事件の真相はどうなっているのだろうか。池に投身した自殺だと報じられているが、彼女の靴が見つかっただけで遺体は上がっていない。本当に亡くなっているのか?亡くなっているとしたら自殺なのか?
そんなことを考えている矢先、遂に最悪の事件が起きる。貴賓室がある塔から、宿泊客である男性が転落し亡くなったのだ。警察も来て調査を進めるが、自殺するような人物ではないもののアリバイがない人物も見当たらない。結局事故として片付けられたが、事態は一向に好転しない。
そんな中、曾根繭子が書き上げた幻の戯曲【炎上】の原稿が発見される。喜ぶ語り手だったが、即座に異様なことに気付く。戯曲で起こっている事件が、現実に降りかかっているものとまったく一緒だったのだ。また語り手は時間が経つに連れ、曾根繭子に似ていると言われることが増えてくる。恐ろしくなった語り手は似せないために髪を切ろうとするが失敗に終わり、親しくなった男性スタッフのタケルに神奈川に帰れと言われてもホテルへとループしてしまう。まるで絡め取られたように、曾根繭子から逃れられなくなっていた。
女優に似ていると言われると本来は嬉しいはずですが、起きている出来事を考えると怖いですよね。その出来事が幻の戯曲と同じ内容…ベタな展開ではあるけどやっぱり恐ろしい。
また木箱に保管されていたものがホント異様過ぎて、想像も拒否したいくらいです。特にあの剝製は怒りすら沸いてきます。そりゃあ神経も磨り減る訳だ…
ようやく展示室が完成、しかし真の恐怖はここからだった
トラブルに見舞われながらも、なんとか展示室を完成に漕ぎつけた。お披露目ツアーも無事執り行われ、あとはメインとなるフィルムを上映することとなっていた。
だが、そこで悍ましい事件が発生。曾根繭子のドレスを着た女性がいきなり現れ、参加者に火を点けたというのだ。しかもその女性は語り手だと参加者は口々に語るが、アリバイもあるし証人もいる。だが半狂乱になった参加者たちは語り手を追いかけ始め、語り手は逃げ惑う。
命からがら逃げ切ったものの、自分にはまだやることがあった。戯曲はまだ完成ではない、エンディングが待っている。そして自分にはわかっていた。大林孝雄の目論見、彼の祖父がやりたかったこと、そして曾根繭子が求めたこと…すべてに蹴りをつけるため、舞台となる貴賓室の塔へと向かう。しかしそこで、大きな火の手が上がり―――
エピローグに向けて、怒涛の展開が待っています。まさに戯曲とも言うべきストーリーとなっているので、ハラハラしながら一気に読み進めてしまいます。
また大林孝雄とその祖父の考えが下衆の極みというか、執着故に歪みきってしまったところも見どころです。語り手が曾根繭子に段々似てきているという描写がありますが、それが意図したことならば…自分勝手すぎて呆れてしまいますね。
完全なハッピーエンドとは言い難いですが、一応幸せそうな雰囲気を滲ませて物語は終わります。ただ彼の心境を考えると、泣いてしまうのも痛いほどわかります…
複雑な人間の感情が絡まり合った暗い人間ドラマホラー
最初は遺品を巡ったただの幽霊のお話かと思わせてきますが、ページが進むに連れて徐々に人間の歪んだ感情を全面に押し出して見せつけてくるお話だと思い知らされます。関連する品を集めることもそうですが、求めるあまりにあらぬ欲望を抱く者、魔が差してしまったが故に不幸になった者、利欲を追及し続け性根が曲がってしまった者――人間の暗黒部分がこれでもかと思うほど詰まっています。
ホラーとしてもそうですが、一つの人間ドラマとして読んでも面白い作品です。但し、遺品の描写がやたらリアルなのでそこだけはお気を付けを。
ではでは、また次の投稿まで。