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【読書感想文】拝み屋怪談 怪談始末/郷内心瞳 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

実在する拝み屋に集まる、実話を集めた短編集。
あなたは、こんな体験をしたことがありますか?


『拝み屋』を営む筆者の元に集まる、十人十色の実話怪談

筆者の郷内さんは、宮城県で拝み屋をやっている方。
拝み屋っていうとどうにも怪しい雰囲気が漂いますが、実際はちゃんとした職業。亡くなった方やペットの供養など、彼らが成仏できるように拝むのが郷内さんの仕事です。
そんな職業のためか、郷内さんのところには実にたくさんの経験談が集まります。それをただ聞くのではもったいない、多くの人に知ってもらうのもまた供養の形だと郷内さんは考えたのです。
そして郷内さん自身、果ては奥様もそういった怪異を経験しやすい体質なのだそう。書かれている体験も、お二人のものがたくさんあります。
余談ですが、自分もそういった奇妙な体験をしたことがあります。大したことではないし短いのでここではやめておきますが、いつかチャンスがあれば書こうと思います。

また実話怪談の多くは、正体が判明していないものがほとんどです。フィクションだと真相を突き止めるために怪異に立ち向かったりしますが、実話怪談は「あれは結局何だったんだろう」止まりだったりします。なんとなくわかっていたとしても、本当かどうか確かめる術はないのです。わからないままというのは、少し怖くもありますよね。

恐怖あり、切なさあり、悲しさあり、不思議あり…バラエティに富んだラインナップ

短いお話が多くここではすべてを書くのが難しいですが、少しだけ焦点を当てていきます。
【不許可】【ペナルティ】【冷たい花】【人を殺した人の顔】【折る家】は、怪異を体験した人が元々の原因とも言えるもの。被害の大小は差がありますが、やはり褒められないことはするべきではないと思わされます。
【西川君】【桜の君】はちょっと切ない系です。どちらも恋愛にまつわる話なのですが、【桜の君】に関しては結末が恐ろし過ぎて…
【弁天さん】は唯一のほっこりできるお話。出てくる人はほっこりじゃないですが、笑顔にもなれる内容です。
【誘導 陰・陽】は信仰も絡んでくるお話。この手となるとやはり重い雰囲気であり、一応解決してももやもやが残ります。
【巨女】【婆ちゃん】【覗き目】【隙間】は郷内さんの奥様の体験談。結婚する前からそういった体験をされていたようで、そんな方が拝み屋さんと結婚されるのは不思議な縁ですね。

そんな中、特に怖いのが【桐島加奈江】と【奇跡の石】に関するお話。これはどちらも郷内さんの体験談で、結構な被害や影響を受けています。

何年も蝕み続ける、悍ましい少女の存在

郷内さんは中学生時代、集団無視の被害に遭っていた(今でも理由はわからないらしい)教師に言っても解決はせず、忙しい両親には相談すら出来ずにいた。疲弊する心の救いは、趣味で飼っていた熱帯魚。それらに語り掛け、心の均衡をなんとか保つ日々が続いた。
ある日、自室にいると見知らぬ少女が現れた。自分の趣味も熱帯魚だと語る彼女は、友達になろうと誘ってくる。名前を尋ねると「桐島加奈江」と答えた。
だが、それは眠っている間に見ていた夢であった。翌日の晩に眠ると、また加奈江が現れたのだ。あまりにリアルで鮮明な夢だったが、やはり眠らないと彼女には会えない。かくして加奈江と友人になった郷内さんは、次第に彼女に会えるのを切望するようになる。
学校では孤立していたが、眠れば加奈江に会える。授業中にも居眠りをし、帰宅するとすぐに寝るという生活を繰り返した。夢の中には他にも仲間がいて、中学生では出来ないような泊りがけの旅行やアルバイトを楽しんでいた。アルバイトも郷内さんがよく行く熱帯魚屋であり、ますます夢と現実の境目がなくなっていく。
夏休みになると更に加速し、最低限の生活以外は眠ることに時間を費やすことに。睡眠薬やアルコールにも頼り、果てには母親からも叱責されるが、郷内さんは意に介さなかった。
だが、ここで転機が訪れる。

現実世界の熱帯魚屋さんに寄った郷内さん。店主の方とは夢では毎日会っていたが、顔を合わせるのは久々のことだった。
店内に並ぶ熱帯魚を眺め、飼育のイロハを教えてもらったり、会計の際にはおまけをしてくれるどころか熱帯魚も譲ってくれる気前の良い店主。現実の世界も悪くない、そう思いながら店を出て歩いていた時だった。
加奈江が、目の前に現れた。服装も持ち物も容姿もまったく同じ彼女が、そこに立っていた。
現実に会えたら嬉しいはず。だが郷内さんは脳内で鳴り響く激しい警戒音と、現実に戻りつつあった意識で、その存在が異様で悍ましいものであると感じた。関わってはいけないと、その時ようやく気付いたのだった。
それ以降、眠っても加奈江が現れることはなくなった。大好きだった存在が、恐ろしい存在に変わる。その喪失感に郷内さんは泣いた。

―――しかし、この恐怖については終わることがなかった。
社会人になっても、奥様と交際を始めても、結婚しても、拝み屋を始めても、加奈江はずっと現れ続ける。
しかも恐ろしいのは、加奈江は他人にも見えているということ。奥様はもちろん、ショッピングセンターに現れた時は一般のお客さんにも(ただの通行人程度の認識ではあるが)見えている。更に加持祈祷や供養を行っても、一向に消えることはない。自分ならまだしも、奥様にも危害が及ばないか、郷内さんは祈るしかできないのである。果たして決着がつく日はやってくるのだろうか。

女が置いていった【奇跡の石】。だがその身に起こったのは…

拝み屋として生計を立てていたある日、不躾な女が突然やって来て、『奇跡の石』なるものを郷内さんに押し付けた。憤慨する郷内さんだが、勝手に捨てて後から文句を言われても困るので、祭壇にしまっておくことに。
だが、次々と奇妙なことが起こり始める。

事の発端は、やって来た依頼主が喪服姿の奥様を見たこと。ちなみに奥様は喪服など着ておらず、勘違いだろうという結果となり、おかしなことも以降は特に起こらなかった。
しかし、ある日を境に郷内さんは高熱と身体の痛みに苦しむことになる。冬だったのでインフルエンザかとも思ったが、病院に行っても原因不明でわからず終い。しかもそれが要因なのか、病院内でも往復の道すがらでも、この世ならざる者の姿を次々と目撃してしまう。すっかり弱っていた郷内さんは、ただ無視をしてやり過ごすしかできなかった。
熱は数日間にも及んだが下がることもなく、この先がないのではというネガティブな感情さえ持つようになってしまう。診察中も怪異に襲われ、なんの抵抗もできず、日に日に衰弱していくのが自分でもわかるようだった。
遂には、自分のドッペルゲンガーをも目撃する事態にも遭遇。ドッペルゲンガーは死の前兆、しかも自分の祭壇の前で目にしてしまうのだから尚更嫌な予感にもなってしまった。
すると、ふとあることに気付く。祭壇、そこにあるのは…

ちなみにこの体験談には、加奈江も登場します。
衰弱しているところに恐ろしい存在が現れる…嫌でも経験したくないです。
結局郷内さんは助かることにはなるのですが、そこでとある推理に辿り着きます。喪服姿の奥様、不躾な女、そして石。
【奇跡の石】と呼ばれていますが、別の漢字を当てはめてみてください。その石の効力と、女の魂胆が朧気ながらに見えてくるはすです。

そして予告される、日本最恐とも言われる実話へと

これはシリーズ作品ですが、この次の作品が日本最恐とも呼び声高いものとなっています。まさか現実に起こったことだとは…悍ましさと恐ろしさに身震いしてしまいます。
この作品の最後にその本に関する予告が掲載されていますが、そこから容赦なく恐怖を煽ってきます。書いては消え、語ろうとすると邪魔が入り、最後まで伝えることができない…郷内さんは言います、「きっと読まれたくないのだろう」と。
でも先に書いたように、物語を書くことが供養になるとも郷内さんは考えています。不可解な横やりにめげずに、筆を進めていくのです。
一筋縄ではいかない実話怪談、自分が体験しているつもりで是非嵌り込んでみてください。
ではでは、また次の投稿まで。

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