【読書感想文】変な絵/雨穴 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
様々な絵を巡る謎を解き明かす今作。
一見関係がなさそうに見えて、実は…
見つけたブログに書かれていた日記の秘密とは
佐々木という男子大学生は、オカルト研究会に所属しています。最近は忙しくそういったものに目を通す時間が取れなかったのですが、同じサークルの後輩である栗原からあるブログの存在を教えられます。
【変な家シリーズ】を読まれている方はピンとくると思いますが、栗原はそのシリーズで探偵役を担っている人物。現在は建築家となっており、その栗原の大学生時代のお話ということです。
栗原が教えてくれたブログは『七篠レン』という人物が、日々の出来事を綴るいわば日記に近いものでした。それだけなら別に怖くも何もないですが、問題は一番最後に書かれた文章でした。
「あなたが犯した罪に気付いた」「許せないけどあなたを愛している」等、不特定多数ではなく明らかに誰かに向けたメッセージがあったのです。それ以降ブログの更新はぷっつりと途絶えているので、余計に怖いですよね。
更に遡ってみると、ブログ主にはユキちゃんという妻がいたことがわかります。彼女はイラストレーターで、ブログに掲載するイラストを時々書いていたようです。それも特におかしいことではありませんが、途中からだんだんと不穏な空気が漂うようになります。果たしてブログ主が伝えようとしていたことは何か、また複数のイラストが訴えかけるものとは何か。
軸となるのはブログの内容もそうですが、掲載されたイラストが重要な意味を持っています。そのイラストの正体を知った時、驚愕すると同時に背筋が冷たくなります。
そしてこの頃から、栗原は並外れた推理力を発揮しています。小さなことからすべてを見抜く、天晴です。
息子を愛する母親、しかし歯車が狂い始める
今野直美は、もうすぐ6歳になる優太とマンションで二人暮らし。
厳しく叱りつけることもありますが、深い愛情を持って育てています。というのも、息子の父親である武司は亡くなっており、その分も目いっぱい愛を注いでいたのです。優太も特に寂しがることはなく、元気に幼稚園に通っていました。
ですが、優太が保育園で絵を描いた時から、少しずつ何かが噛み合わなくなっていくのです。
その絵はマンションの横に立つ、母親らしき女性と小さな男の子というもの。家族の絵を描いたのはわかるのですが、明らかに異様な部分がありました。マンションの6階部分に、黒い煙かもやのようなものが描かれていたのです。二人が住んでいるのはマンションの6階。もしかして、嫌なものが見えているのか、それともそういった感情を抱えているのか…直美と保育士は首を捻ります。
更に、ここ最近は何者かに監視されているような気配も感じていました。視線を感じたり、近づくエンジン音を聞いたり、直美は不安に駆られていきます。その矢先、朝起きたら優太が家からいなくなっており―――
優太が描いた不可解なイラストの意味、幼い子どもながらの複雑な心境が見て取れます。名前の通り、きっと優しい子なんでしょう。
また読み進めていくと、違和感が徐々に大きくなっていきます。それは直美の態度だったり、優太の行動だったり、仲良しの子どもの発言だったり、こちらも小さな伏線が至る所に忍ばされています。
そして、物語は思わぬ急展開を迎えます。その伏線をすべては回収せず、次の章へと読者を誘います。
恩師の死に疑念を抱く記者が迎える末路
この章の主人公は、新聞社に勤める岩田という男性。
彼の高校時代の恩師である三浦という男性教師が、山で殺害されていました。しかも200箇所以上を滅多刺しにされており、強い殺意が窺えます。
容疑者として浮上していたのは、三浦の同級生であり途中まで山登りに同行していた豊川という男性でした。状況証拠では間違いなく彼の犯行とされていたのですが、徹底的な証拠もなく、逮捕はされていません。また現場の遺留品には、三浦が描いたと思われる絵もありました。それは持っていたスケッチブックではなくレシートに描かれていた、その山の風景。どうして彼は、こんなものを描いたのでしょうか。
その事件の真相を知りたいと、岩田は記者の先輩である熊井の元を訪ねます。彼からのアドバイスをもらった岩田は、母校でもある三浦の勤務先へ向かいました。
岩田は三浦を恩師だと言っていましたが、三浦の評判はあまり良いものではありませんでした。体罰とまではいきませんが、大声で怒鳴るなんてことは日常茶飯事。しかも強引で人の意見を聞かないこともあったり、疎まれた存在でもありました。更に豊川も豊川で、実は三浦を良く思っていないことも発覚。やはり犯人は豊川なのか?岩田は犯行当日の状況を辿るべく、彼が登った山へと足を向けたのです。
時間、所持品、購入したもの、すべてを同じにして山を登る岩田。そこで彼はイラストと風景の相違、そして時間軸のずれに気付きます。そこから三浦が訴えようとしていたことを紐解いていきますが、彼に魔の手がひたひたと忍び寄り…
レシートに描かれた小さな絵から真相へと近づく様は、見ていてハラハラします。でも、これって前の章たちと関係あるの?とも思ってしまうでしょう。登場人物や事件の接点が一切見えてきませんからね。
ご安心ください(←)、実はこれこそがすべての伏線を回収していく鍵となるのです。
点と点が線になり、それはやがて絵となり…
最終章では、すべてが一気に解き明かされていきます。
犯行動機、犯人の過去、起こった出来事、それらが綺麗な時系列を作って謎をスカッと晴らしていってくれます。…が、内容はあまり気分がいいものではありません。腹立たしくもなるし、哀しくもなるでしょう。
勝っていたのは愛か、憎悪か。
人の手で描かれた絵から心理まで見抜く新感覚ミステリー
【変な家シリーズ】はオカルト面も結構強く反映されていますが、この作品はよりミステリー色が強くなっています。
ただ、人の手で直接描かれた絵が鍵となっており、心理描写も事細かに描かれているのが特徴でもあります。間取り図よりも、奥底に眠る心情や闇が表に出やすいんでしょうね。絵というかアーティスティックな分野にはとことん弱い当方でも、十分に楽しめた作品です。
というか一作目の【変な家】の感想も書かないとですね。何故最新作から書いて逆行しているのか…
ではでは、また次の投稿まで。