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【読書感想文】倒錯の死角:201号室の女/折原一 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
『叙述トリックと言えば』でお馴染みの折原一さんのミステリー。
覗きを趣味とする男性と覗かれる女性が起こす事件の行く末は。
37歳の男性を蝕むのは誰にも言えない衝動
翻訳の仕事をしている大沢芳男は、偏屈な伯母と二人暮らしをしていた。そんな彼の趣味は読書ともう一つ、向かいにあるアパートの部屋を双眼鏡で覗くこと。学生時代から密かに続けていたのだが、ある日201号室で女性が首を絞められ殺害されているのを見てしまう。覗きがばれるので警察には通報しなかったが、その光景がフラッシュバックしてアルコール依存症に陥ってしまう。結果入院することとなったが幸いに軽症だったため退院できることに。すると、ずっと空き部屋だった201号室に女性が入居していた。しかしアルコール依存症とフラッシュバックを恐れ、覗きは出来ずにいた。それでも彼女が気になってしまう芳男は、201号室の様子を窺ったりアパートまで行ってみたり―――
覗きが趣味のアルコール依存患者、その時点で不穏さMAX。しかも覗いている自分が悪いにも関わらず、見せつけている女が悪いと考えるという…責任転換も甚だしいですね。
田舎から上京した若い女性は都会の色に染まっていく
清水真弓は大手旅行会社に就職が決まり、東京で一人暮らしをすることになった。アパートの201号室に部屋を借りるが、そこで向かいに建っている民家から男性がこちらを見ていることに気付く。なんとなく薄気味悪いと感じるものの、仕事や趣味に忙しく他に特に不満はなかった。しかも会社のイベントで既婚者の高野という男性と出会い、恋に落ちてますます彼以外に目を向けなくなってしまう。だが田舎に住む独り身の母親には常に手紙を送っており、定期的に顔を合わせるなどしていた。その母親も再婚が決まったが、自分と高野の関係はどうしても話せずにいた。しかしそんな最中、真弓は高野の子を妊娠してしまい―――
田舎出身の若い娘が、妻と別居中の男に騙され、不倫に染まっていくというよくありそうな(?)ドロドロ恋愛話。でもそこに覗かれているという状況が加わって、より緊迫した空気感が漂います。しかもこの辺りから、ちょっとずつ違和感を覚え始めていくのです。
息をするように盗みと飲酒を繰り返す中年男は正義感を振りかざす
曽根新吉はアル中の上に盗みを繰り返す小悪党であり、一時芳男と同じ病棟に入院していた。その頃から芳男をよく思っておらず、いつか痛い目を見せてやろうと意気込んでいた。こっそりと尾行をしていた曽根は、彼がアパートを気にしていたことを思い出し、忍び込んでみることに。すると、201号室で清水真弓という女性が書いた日記を見つけ、勝手に読み進めていく。彼女は既婚の年上男性と不倫しており、また芳男から覗きの被害を受けている旨を綴っていた。彼女を不憫に思った曽根は、どうにかして彼女の不倫を止めさせ、芳男の罪を暴こうかと画策を始めて―――
自分がやっていることを棚に上げ、若い女性に同情しておかしな正義感を持つ男性はある意味恐怖の存在です。そもそも彼が守る理由もないですからね…芳男に恨みを持つ理由も全然わかりません。
というか、変な男たちに振り回される真弓は本当にかわいそうです。
3人の男の妄想は暴走状態へ。そしてそれらが噛み合った時、事件は予想外の結末を迎える
芳男は真弓の挑発(と思い込んでいる)が原因で不眠に陥り、またうっかりアルコールを口にしたせいで再び依存を発症。飲んでは暴れ、記憶を無くして自宅へ帰るという繰り返しだった。だがある日、秘密の地下室に入った芳男は愕然とする。見知らぬ女性が、そこにある簡易ベッドの上で横たわっていたのだ。その頃、巷では若い女性が通り魔に襲われる事件が連続で発生していた。芳男は、記憶がない時の自身の犯行ではないかと考える。
曽根は相変わらず芳男をこらしめることを考え、敷地内に忍び込むなど機会を窺っていた。するとある日、芳男が庭を掘り返して何かを埋めている現場に遭遇。息を殺していたが、それは強烈な悪臭を放っていた。確信した曽根は、芳男の断罪を決意する。
高野は複数の愛人を抱えていたが、そのうちの一人が通り魔の被害者となりさすがに落ち込んでいた。だがその矢先、真弓の裸の写真のコピーが送られてきたことにより、ある決心をして―――
視点が目まぐるしく変わるので追うのに大変ですが、ここからがクライマックスです。最初は「あれ、どういうこと?」となりますが、ある人物の登場によりすべてが読者を騙す罠だったことに気付かされます。こんなの絶対に気付けませんって。
真相が明らかになった後に待ち受ける『袋とじ』
事件が収束に向かったと思ったら、また作者の思惑に引っかかっていたことを知らされます。またこの手にやられてしまうとは…しかも予想外の人物が関わっていたことに衝撃を受けること間違いなしです。結局また何度も読み返す羽目になってしまいます。
また折原さんの本にはたまにあるのですが、小説では珍しい『袋とじ』がついています。果たしてどんな終わりが書かれているのか、ドキドキしながら開封することになります(電子版は最後に収録されている)
愛は憎悪と紙一重。ドロドロの感情にまみれた叙述トリックミステリーの名作
男女の感情のもつれが段々悲劇を呼び寄せていく様子に、常にハラハラさせられます。その上で登場人物たちが怪しい動きをしていくので、どうなっていくのか余計に気になってしまいます。
叙述トリックを何度読んでいても恐らくわからないであろう仕掛けなので、素直に騙されるのがいっそ清々しいです。
ではでは、また次の投稿まで。