【読書感想文】かぎろいの島/緒音百 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
『最恐小説大賞』を受賞しているという、間違いなく面白いホラー作品。
九州の孤島に伝わる民話『異人殺し』に絡め取られた主人公の運命は。
小説家の青年の元に届いた手紙に書かれていたのは『陽炎島』という孤島の名前
主人公の津雲佳人は、処女作がヒットし映像化までされたベストセラー作家。しかし彼は天涯孤独の身で、母親の記憶はなく父親は割腹で自殺という壮絶な人生を送っていました。
ある日、編集者から手紙を受け取った佳人でしたが、その差出人は父親の姉・つまり伯母にあたる白恵利子(つくもえりこ)という女性でした。思い出せない佳人でしたが、手紙には作者の名前を見てもしかしてと思ったこと(本名が白佳人)、作品内で書かれた風景描写が陽炎島という島によく似ていること、父親が佳人を連れて島を出て行ったことが書かれていました。更に同封された家族写真には、島で撮影されたらしき佳人の姿がありました。覚えていないだけで、自分はそこに住んでいたのか?
陽炎島についてロケコーディネーターの元河彦(はじめかわひこ)に聞いてみると、そこはかつて『異人殺し』があったとされており、亡霊が出るため未だに神儀が行われている珍しい場所でした。九州にあるというその島に、佳人は行くことを決めたのです。
海の孤島、物騒な名前の伝承、記憶にない過去…これぞジャパニーズホラーの王道要素ですね。そしてこのお話、最初から伏線が散りばめられているのでお見逃しなく。
陽炎島にいる『異人さん』とは一体何か。そして起き始める奇妙な出来事
陽炎島にやって来た佳人は、恵利子や島民たちに歓迎されながら、白家の屋敷へとやってきます。白家には恵利子の夫の酉男と、女性のみのりとハルがいました。挨拶もそこそこに、佳人は『異人さん』に挨拶をすることになります。
『異人さん』は代々白家の人間がお役目を担っており、今はセイという青年がやっています。本来なら交代でやるとのことですが、セイが引きこもり状態となりかれこれ3年も続けているらしいのです。白無垢を着て、白塗りをして、奥の座敷に夜明けまで居続ける…常軌を逸した儀式です。果たしてどういった意味があるのか。
『異人さん』のことが気になる佳人でしたが、島民や白家の人たちにも歓迎されて少し安心感を覚えていました。家族がおらず孤独に生きてきた佳人は、少なからずそういったものに飢えていたのでしょう。
ですが、段々と不可解なことが起こり始めます。白い面を被った奇妙な者がこちらを覗いたかと思えば、夜空に浮遊する謎のものを目撃します。その浮遊するものというのがわかった時、背筋が寒くなります。あんな風に扱われているかと想像すると怖すぎる…まさに「遊んでいる」のです。
そして翌朝、島では遺体が発見されます。その人物の名前を聞いて、佳人は驚愕してしまいます。どうしてあの人物が?
起こることの異様さもさることながら、ミステリー要素も入ってきてますます続きが気になってしまいます。いや、あの遊び方はダメだ…
語られる白家の家系の謎、そして島に残る『異人殺し』の真相
遺体が発見されて間もなくして、今度はセイが行方不明となってしまいます。お役目は誰がするのか、取り乱す恵利子に佳人は、自分がやると名乗りを上げたのです。自分も白家の血を継いでいるから、大丈夫だろうと。
しかし、その座敷で起こることは恐怖そのもの。決して声を上げてはいけない決まりがあるのですが、閉め切った部屋の中で「遊ぼう」としつこく声が聞こえてくるのです。恐ろしさに気が狂いそうになる佳人でしたが、皮肉にもそれが真相に一歩近づく鍵となったのです。
なんとか生き延びる佳人でしたが、ハルの出産から事態はおかしな方向へ。無事に生まれたのはいいものの、恵利子は食ってかかります。「セイの子ではない、誰の子を妊娠したのか」と。どうして父親が違うとわかったのか?どうしてセイの子でないとダメなのか?あらゆる疑問が噴出する中、恵利子から島の因習に関する話、そして佳人の過去が語られる―――
異人殺しの因習となるとよくありそうな話なのですが、そのやり方がかなり悍ましくて寒気がします。また白家の家系図から、驚きの事実が発覚し、ここはまたなんとも切ないシーンがあります、そりゃあショックも受けますね…
真っ赤に染まる島、そこへ現れた人物が語るこの伝承の真相とは
ハルの出産から儀式の失敗が明るみとなり、暴走した島民たちは佳人とみのりを儀式の糧にしようと二人を幽閉してしまいます。そこに想定外のことが起きたためなんとか脱出に成功しますが、二人の前に現れたのはまた予想外の人物でした。その人物と対峙した佳人は、語られる言葉に『異人殺し』の真相を知ることになります。
人物は勿論、今まで語られていた伝承を根底からひっくり返されます。読み進めていると妙な違和感を覚えるのですが、そこを綺麗に回収していきます。いろんな伏線があるので、思わず読み返してしまいます。
ただ、結末はあまりすっきりとしないし、後味もよくありません。家族愛に飢えていた佳人にとっては、これでも良い方なのかも?
呪いを引き継いだが故の悲劇を上手く纏めた王道ホラー
「この世の者ではないものが一番怖い」と「結局生きている人間が一番怖い」を抜群の割合で融合させた、これぞジャパニーズホラーと言える作品です。
また怪異の様子がわかりやすいので、想像力を働かせると余計に怖いです。前述のあの遊ばれ方が特に異様で…痛さや怖さがひしひしと伝わってくるようです。更に、人間の闇の深さがかなり出ている作品でもあります。因習や伝承となるとどうもそうなりがちですが、マンネリ感もなく楽しめます。結束力って怖い。
ではでは、また次の投稿まで。