【読書感想文】殺人鬼フジコの衝動/真梨幸子 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
『イヤミスの女王』として名高い真梨さんの中でも特に有名な傑作。
多くの人を殺害した女性はどんな人生を歩んだのか。
『殺人鬼フジコ』について書かれた小説。そこで語られる凄惨な幼少期
語り手は両親と妹の4人家族。団地で暮らしていたのだが、平凡どころか地獄の生活を送る日々。男子からは暴行とも言えるいじめを受け、女子は無視、担任も改善する気はなし、両親は金遣いが荒く酒癖が悪い上喧嘩が絶えない。語り手と妹は学校で使うものも共有し、給食費も払えないなどみじめな思いばかりしていた。
陰鬱としていたある日、訳あって早退した語り手はいじめの主犯格である男子と遭遇。逃げ出した末に追いかけっこをする羽目になったが、機転を利かせ(?)彼が走行列車の餌食になるように仕向ける。その足で自宅へと帰ったのだが、そこでは血に染められた光景が広がっていた。その魔の手は語り手と伸びるのだが―――
初っ端からもうイヤミス度全開。思春期を取り巻く劣悪な環境にげんなりするしかありません…そりゃあ闇を抱えるようになる、と思っても仕方ないことばかり起こります。許されることではありませんが。
嫌なシーンばかりですが、ここ見逃し厳禁です。
私の人生は薔薇色、順風満帆に見えた藤子の分岐点
一家殺害の唯一の生き残りとなった森沢藤子は叔母に引き取られ、違う学校へ通うこととなった。周りに同調しながら仲間外れにならないようにする藤子だったが、ある日教室で飼っていたカナリアが死んでいるのを発見する。藤子は無実だったが、その現場をクラスメイトに見られてしまい―――
そこから、藤子の生活は変わった。周りには人が集まるようになり、更には答辞を任せられるようになるなどまさに絶好調。また大学生の恋人・裕也や、アルバイト先の友人・杏奈の存在もあり、順風満帆そのものであった。
しかし、それは徐々に翳りが見え始める。裕也は妙によそよそしくなり、部屋には誰かがいた痕跡が。杏奈の部屋にも何故か違和感を覚え、そこで辿り着いた結論により二人との関係に決定的な亀裂が入ることになる。それでも裕也を諦めきれない藤子だったが、訪れた部屋で見た光景により立場が変わることになる。
母親の影にずっと捉われ続ける藤子を見てると辛い…反面教師っていうよりはもう呪いですね。ただ、この辺りから人の死に感情を抱かなくなっている藤子はサイコパスとも言えるでしょう。
手に入れても零れていく幸せ、そして引き寄せられる血に塗れた結末
裕也を手に入れた藤子だったが、ろくに働きもせず所謂ヒモ状態であった。藤子がいない間に女を連れ込んだりと、二人の間は冷え切っていた。娘にもそれは派生し、次第に辛く当たるようになってしまう。やがて娘を押し入れに閉じ込めるという所業まで犯すが、それでも自分は母親と違うと言い聞かせる。だが裕也の本音を聞いた藤子は、その衝動を抑えきれなくなる。
それからまた藤子は新しい人生を歩み始めることになる。顔を変え、テレビにも出るほどの有名人となっていく。だが最早藤子は殺人を厭うこともなくなり、殺せと言えば簡単に殺してしまうような人物となってしまっていた。それでも今度こそ幸せを手に入れて、家族で幸せになれるはずだった。ところが、またしても神様は藤子に味方をしなかった。落ちて落ちて転がり、極限まで追い詰められた藤子が迎える結末は…
ここまで悪いことが重なるかってくらいに、嫌なことの連続です。子ども虐待のシーンはいつ読んでも気分が悪い…藤子にうっかり同情しそうになりますが、どっちかと言えば憐みに近いのかもしれません。
そしてここからが、強烈などんでん返しの始まりです。「…え?」と思わず声を上げ、また最初から辿っていくというそれこそ衝動に駆られることになります。「うわあ、そういうことか」とすべての点が線となってくるでしょう。
小説の始まりと終わりにある『はしがき』と『あとがき』、それは驚愕の真相をもたらす
プロローグとエピローグの部分に別の人物が残した『はしがき』と『あとがき』が添えられている。小説はとある女性が書いたものだが、彼女は自殺未遂の末に亡くなってしまっている。公開するかどうか迷った書き手だったが、結局公開することを決意した。そしてそこで語られる、小説を書いた女性と書き手の正体とは。
既にはしがきの時点から、作者の罠に嵌められていた事実にもう言葉が出ません。あとがきなので章自体は短いのですが、そこで次々と明らかになる真相に驚きっぱなしです。至る所に伏線が張ってあるので、辿るのが大変でした…あれだけあるのに綺麗に回収できるのが凄い。
そしてその結末は…恐怖そのものです。最後の最後まで気分をどん底にまで落としてくれます。どこを読んでも救いがなさすぎる。
『イヤミスの女王』の神髄に触れる驚愕必死の名作
子どもが酷い生活を送っているのは見ていて辛くなるし、藤子の半生もまた残酷で目を背けたくなるシーンも満載です。
ですが待ち構えているどんでん返しの衝撃が凄すぎて、読み返し必至です。そしてあのラスト…こういうのって救いが無くてもぼかしたりすることが多いのに、容赦なく戦慄させられます。「救いはないのですか!?」って結構使われる言葉ですが、まさにぴったりの作品です。
ドラマ化もされている話題の作品、是非原作にも触れていただきたいです。
ではでは、また次の投稿まで。