【読書感想文】わざと忌み家を建てて棲む/三津田信三 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
『どこの家にも怖いものはいる』よりも更にパワーアップした家に関するホラー作品。
幽霊屋敷の究極形態をご覧あれ。
偶然か必然か集まった家の話、それは正気の沙汰とは思えぬものだった
三津田信三の友人の編集者・三間坂の叔母の元に集まったのは、とある幽霊屋敷のお話。しかしそれは、常軌を逸した幽霊屋敷の記録でした。【烏合邸(うごうてい)】と呼ばれるその家は、なんと曰く付きの事故物件を無理矢理つぎはぎした前代未聞の家だったのです。形が歪なのはさることながら、そこで起こることも勿論恐ろしいものばかり。一体誰が、なんのためにそんなものを建てたのでしょうか。
建設会社も随分苦労したのだとか…そりゃそうです。
それぞれの『部屋』で起こる怪奇現象、悍ましき記録の数々
各部屋ではそれぞれ違う人が家主から生活の記録をつけるように言われているようで、そうすれば高額な報酬も得られるそう。なんだか実験のようにも思えますね。
そんな部屋毎の恐ろしい記録がずらりと並んでいます。
◇黒い部屋 ある母親と子供の日記
母親とまだ幼い息子の二人家族。その家は<黒い部屋>と呼ばれており、今まで何人もの家族がここを訪れたそうですが、合格したのはこの親子だけだったそう。本人たちも知らないその条件、一体どんなものなのでしょうか。
母親はその日起こったことを、律儀に日記に書いていました。真面目といえばそれまでですが、ここである違和感を抱きます。それは怪異現象が起きているのに、取り乱す様子が一切ないこと。例えば変な臭いがする、自分たちではない泣き声や悲鳴が聞こえる、起きたら手足が真っ黒だった等々、普通なら恐怖を抱きそうなことでもそんな素振りがなかったのです。
けれど、それは日が過ぎていくと共におかしくなり始めます。母親は弱気になっていく心情を吐露しながらも、文章が支離滅裂になっていき――
<黒い部屋>は、実は比喩ではありません。黒い事故物件…何が起きたか想像しただけで鳥肌が立ちます。条件を満たして合格したとしても住みたくない。
◇白い屋敷 作家志望者の手記
幡杜という作家志望の男性が、<白い屋敷>で暮らすことになりました。新人賞に応募するための作品を執筆するのが目的で、嫌な思い出しかない実家にも帰ることが出来ず、お金や住む場所にも困っていたところ、この話に飛びついたのです。
文机に原稿を広げ、小説の題材にもしている小さな藁舟も置いて、取り掛かりは順調…かと思われたのですが、初日から不可解な現象に見舞われます。玄関に気配がしたが誰もいない、寝ていると畳や廊下を歩く足音がする等、ご多分に漏れず怪奇現象を体験。気のせいかと思っていましたが、決定的なことに気付きます。小さな藁舟の上に、小さな藁人形が置かれていたのです。それは日に日に増えていき、まるで小説の内容をなぞらえているかのようでした。耐え切れなくなった幡杜は、とうとう屋敷を飛び出してしまい…
<白い屋敷>は実際に白い訳ではないようです。では白の意味は?三津田が導き出した推理の結論に、驚くこと間違いなしです。
◇赤い医院 某女子大生の録音
三間坂が寄越したカセットテープには、女子大生が残した声が録音されていました。この女子大生はテープレコーダーを回しながら、<赤い医院>と呼ばれる建物の中を見て回り実況中継していたのです。<赤い医院>という呼び名が、もう既に怖いですよね。女子大生も「殺人事件があった」とも口にしてますし。ただ上記2つと徹底的に違うのは、彼女は住人ではなかったという点。まあ曰く付きの廃病院なんで御免ですが。
扉を開けたり、階段を上がったりする音が全部記録されているので、どうやって移動したりどこになにがあるのか容易に想像ができます。ただそれは段々と不穏な様子になり、妊婦らしき人影を見たり、いきなり現れた階段を踏み外したり、日が暮れて真っ暗になっていく様も手に取るようにわかります。恐怖に苛まれた女子大生はそこから逃げ出そうと試みますが、時既に遅し―――
手で書かれたものではなく、テープに残された肉声ということもあり、凄まじいまでの臨場感です。女子大生の目線になって、<赤い医院>の中を探索する自分を思い浮かべてみてください。恐怖でしかない。
◇青い邸宅 超心理学者の記録
某大学の助教授が『超心理学』という裏の研究をするためにそこ訪れるところから始まります。『超心理学』とは所謂超常現象のことで、それらが起こり得る原因を科学的に調査するのが目的のようです。助教授の他に、霊媒として呼ばれたサトオという16,7歳くらいの少年が一緒に調査をすることになります。カメラやレコーダーを設置し、後日それを確認するという手法でした。こちらも実際に住むという訳ではないようです。
洋風の一軒家である<青い邸宅>はどこにでもいるような一般家庭が元々暮らしていたようです。それが事件後、そのままの状態で烏合邸に移築されたので、生活痕や品物は当時のままでした。この時点でもう不気味。
カメラやレコーダーには、目ぼしいものは最初は記録されていませんでした。サトオの供述もなんだか要領を得ませんが、徐々に変化が現れます。現像した時には映っていなかったはずのものが見え、聞こえてくる音も段々近づいているようにも思えます。そして泊まり込み調査を決行した夜、見えていなかった『事件』の全容が明らかに―――
最後の最後、あっと驚く展開が待っています。一家を襲った悲劇、その原因…恐ろしいですがちょっと哀しくもあります。
読んだらもう引き返せない…ひたひたと恐怖が迫る
前回と同じように調査を進める三津田と三間坂でしたが、やはりすんなりといくことはありませんでした。上2つを読んだ時点で、何かに見張られているような気配を覚え始めます。更にカセットテープを聞いていると、誰もいないのにインターホン鳴ったり、確かに人を見たはずなのに人物の特徴が思い出せないという不可解な現象が多発。電話を取ってみれば、軋む足音や遠くからの悲鳴が響いてくる…明らかに読んだから怪異が近づいていますよね。またこれも三津田さんの作品の特徴ですが、「不審な気配や音を感知したら一度目を通すのをやめてほしい」なんて警告してくれるので余計に怖いです。
しかし、それでも引き返さないのがお二人。怪奇現象に怯えつつ、この根源の真相を突き止めようと推理を繰り広げます。はっきりと靄が晴れるようなものではないですが、それでも辿り着く結論には言い知れぬ恐怖を感じてしまいます。そして追記でも止めを刺してくるのでご注意を。
『怪奇現象が起きる家』ではない、『家そのものが怪奇現象』
事故物件を繋ぎ合わせた家、最早化け物ですよね。怪奇現象が起きる『場所』ではなくて『原因』が一箇所に集まるので、外から見るだけでも相当に恐ろしいでしょう。
絶対に棲みたくない、けれど魅入られてしまう烏合邸。くれぐれも読むのは注意されたし。
ではでは、また次の投稿まで。
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