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【読書感想文】星降り山荘の殺人/倉知淳 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

前代未聞の試みを行っている、本格派ミステリー。
作者からの真っ向勝負の挑戦状、受けない訳にはいきません。


職場でトラブルを起こしてしまった主人公、下された処分とは

主人公の杉下は、同じ職場の課長補佐の横暴な振る舞いに耐え切れず、彼を殴りつけてしまう。社長にも呼び出されたクビを覚悟していたが、意外にも厳重注意だけで特に重い処分は下されませんでした。だがそれは、ある条件付きの処分だったのです。
社長が提示した条件とは、違う部署へ異動しそこで働くこと。その仕事というのが、同じ会社の芸能部に所属している星園詩郎のマネージャー見習いをするというものでした。

雪山の山荘に集まる一癖も二癖もある登場人物たち

星園詩郎は『スターウォッチャー』という肩書で活動をしている、所謂文化人の類に当てはまる人物です。
スターウォッチャーって何ぞや?ってなりますよね。仕事としてはテレビに出て星について語ったり、占い雑誌への記事の掲載、ポエム等を集めた書籍の執筆など、タレント活動をしつつライター業もこなすという感じです。これだけだと怪しい人物なのですが、モデルや俳優を思わせるほどの美しい容姿を持っており、女性ファンも多くついています。
最初は胡散臭いと思っていた杉下ですが、彼の暗い過去と今のキャラクターになった理由を聞き、少し見方を改めます。更に星園はかなり鋭い観察眼を持っており、一目見ただけ杉下の人となりを当ててみせたりと、ただ甘い言葉を語るだけの人物ではないことを思い知らせます。

星園と共に、埼玉の山の奥地にあるオートキャンプ場に行くことになった杉下。星園が呼ばれた理由は、若い女性に人気の彼に紹介してもらい、キャンプ場を宣伝するというもの。所謂マスコットキャラクター的なものですね。
そこにいたのはオートキャンプ場を買い取った会社の社長の岩岸と、付き人の財野。同じくマスコットキャラクターとして呼ばれていた、女性に大人気のロマン小説家のあかねと秘書の麻子。UFO研究家の嵯峨島。岩岸がモニターとして呼び寄せた大学生のユミと美樹子。
ミステリーの登場人物としては少ない人数ですが、かなり濃いメンツです。UFO研究家はどこか陰気だし、社長は傲慢だし付き人も愛想悪いし、女子大生二人は星園に夢中だし(ファンというよりミーハーっぽい)、小説家は働きづめでピリピリしてるし、スターウォッチャーは嫌味ったらしいほどキザだし…。
唯一まともそうで、歳が近く大人しそうな麻子に、杉下はちょっとした好意を抱きます。

殺人事件の発生、お約束のクローズドサークル。スターウォッチャーがワトソンを連れて謎に挑む

全員が揃い、ようやく落ち着いたと思った翌朝。一人が遺体となって発見されてしまいます。
警察を呼ぼうにも電話は繋がらず、深い雪のせいで山を下りることもできない。完璧なクローズドサークルが完成するのです。
遺体の状態を始め、コテージの内外はおかしな光景がいくつも見られます。しかも前夜に杉下は被害者のコテージ内での会話をたまたま聞いており、意図せず重要な証言者となってしまいます。そんなこともあり、星園に誘われるまま、杉下も事件を解決するべく調査を始めることとなりました。お得意の観察眼で小さな気付きから論理的にトリックを考えていく星園に、杉下は感心するばかり。
ですが、それも空しく、第二の殺人が発生してしまうのです。
ちなみに現場の状況や建物の構造なども、しっかり見ておくように作者が逐一忠告してくれます。本文内でも事細かに説明してくれるので、見逃し厳禁です。

披露される圧巻の推理ショー。だが世界はひっくり返される

物的証拠とアリバイ、手札を揃えた星園は全員の前で推理を披露。
一つ一つ解説しながら、まるでショーでも行っているかのように振る舞います。そのようにするのも計算の内で、犯人とされる人物を逃げられなくする目的があったからです。自分の見せ方を熟知しているので、それくらいはお手の物です。理不尽や矛盾もなく、穴のない推理を余すことなく披露してくれます。
そして、犯人の名前が告げられ、あとは警察に引き渡すまで見張ればいい…
とはならず。
そこから、話はいきなりぐるりと方向を変えてしまいます。まさにどんでん返しというに相応しい展開です。「え!?」と口にしてしまうこと請け合いでしょう、素晴らしいの一言です。
一体どこから読み返そうか、そう思ってしまう展開が待っています。

真正面から叩きつけられる挑戦状はあくまでフェアに、あくまで正直に

作者からの挑戦状は、現代のミステリー作品では珍しくはありません。但しとてつもなく難しいので、解ける人はごく少数でしょう。
この作品が異例と言えるのは、各章の冒頭に必ずヒントが掲載されているという点です。
『主人公はワトソン役で、犯人には成り得ない』『UFO談義が続くが、伏線があるので見落とさないこと』e.tc.、懇切丁寧に説明を入れてくれているのです。しかも虚偽の内容ではなく、すべて本当のことを書いてくれています。
優しいなぁ…と思っている読者様。
その時点で、もう作者の作戦の手中におさまっています。
言葉巧みに誘導され、気付いた時にはもう遅い。明かされる真相に、目を疑うことになるのです。
これ、気付く人いるんでしょうか(当方は見事に騙されました)ある意味、今までの挑戦状の中でも最上級の難しさだと思われます。

個性的なキャラ、クローズドサークル、3つのダニット、どんでん返し。すべての要素が一級品のまさに珠玉

作者のヒントすら罠だったという、類を見ないミステリー。
但し何度も言うように、ヒントに嘘はありません。あくまで本当のことを言っているのに、何が罠なのか見抜くことは困難です。フェアなのに騙される、矛盾していますが読めばその意味がわかります。
どんでん返しと言えばこれ、というのは決して誇張表現ではないことを身を持って体感できる作品です。
ではでは、また次の投稿まで。


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