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【読書感想文】眠りの牢獄/浦賀和宏 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

どんでん返しが見事に決まりながら、哀しい気持ちにさせられる作品。
痴情のもつれ、なんて邪な言葉が似合わないほど、複雑な感情が絡み合ったミステリーです。


作家志望の語り手に起きた悲運とそれを巡る人物たち

語り手の浦賀には、亜矢子という恋人がいました。作家になりたい浦賀の背中を後押しする亜矢子でしたが、思いもよらぬ事件が起きてしまいます。何者かに階段から突き落とされ、浦賀は無事でしたが亜矢子は昏睡状態に。結局亜矢子は目覚めぬまま、遠くの病院へ転院してしまいました。
そして5年後。晴れて作家になった浦賀でしたが、恋人を作ることはなく仕事に打ち込む日々が続いていました。すると、友人の北澤から連絡が入ります。亜矢子の兄が亜矢子の品々を整理するというので、手伝いを依頼されたのです。断る理由がなかったので、引き受けることになります。
向かうのは浦賀と北澤、それからもう一人吉野という友人。実は浦賀は吉野に告白されたという過去があり、友人関係を続けながらも複雑な心境を抱いていました。また亜矢子の兄は北澤の父の弟にあたる、つまり親戚という訳です。ここら辺りで、なんとなくですがやきもきする雰囲気を感じますね。
亜矢子の実家に向かった三人ですが、またしても予想外のことが起きてしまいます。亜矢子の品々が残された地下の核シェルターに、亜矢子の兄により閉じ込められてしまったのです。「亜矢子は誰のせいでああなったのか」、つまり誰が突き落とした犯人なのか教えろと言うのです。「君たちも亜矢子の思い出だから」という一言が怖すぎますね…

女性二人のメールのやり取りに記される恐ろしい計画

視点は変わり、福山冴子という女性が語り手に。彼女は博という男性と付き合っていましたが、友人の亜弓に奪われてしまった挙句振られてしまいます。諦めきれず付き纏う日々を過ごしていましたが、ある日『鶸千路沙羅子(ひわちじさらこ)』というメール友達と出会うことで運命が変わり始めます。博に振られた愚痴を綴り、遂には「殺したいほど憎んでいる」とメールに書くほどでした。すると、沙羅子はこう言いました「その気持ちは本当ですか?」と。
沙羅子は男性に乱暴されたという過去があり、彼女もその主犯格の男性を殺したいほど憎んでいるというのです。その男性を殺してくれたら、自分が博を殺してあげる…つまりは交換殺人を持ちかけたのです。半信半疑な冴子でしたが、沙羅子が本気であることを知り、計画を実行に移すことに。
アリバイ作りのための旅行も完璧で、冴子はプラン通りに殺人を決行します。そしてアリバイ作り目的の旅行から帰ってきた時に聞かされたのは、博が自殺したという驚きのニュースだったのです―――
交換殺人を持ちかけたのに、どうして博は自殺したのか?沙羅子が仕向けたのか?そして沙羅子の正体は?
この謎は後半で回収されていきますが、沙羅子の真意がかなり下衆の極みです。作中でも言われていますが、冴子もある意味沙羅子の被害者ですね。

閉じ込められた三人の運命、そして二つの事件が重なった時に判明する真実とは

シェルターなので簡易的な設備や食料はあるものの、やはり精神的にも辛く次第に疲弊していきます。浦賀にとってみれば、自分たちを突き落とした犯人(かもしれない人物)と一緒に過ごす訳ですからね。そして数日が経過した時、浦賀は衝撃的な光景を目にすることになります。
そしてなんとかシェルターを脱出し警察に保護された浦賀たちは、再び平穏な日常を取り戻していました。冴子が起こした殺人事件や拘束事件は明るみになり、ニュースにも取り上げられました。そんな中、浦賀は公に発表するつもりがない小説を書いており、それを持ってある人物の元を訪れます。
まったく接点がなさそうだった二つの事件が、一気に重なり合って真相が次々と暴かれていきます。登場人物が少ないのでなんとなく犯人や動機も想像できるかもしれませんが、あっと驚くどんでん返しが待ち構えています。随所に施された仕掛けに、気付けるでしょうか。
また紹介文にもある『切断の理由』や、作中に登場する文章に関してのトリックにも鳥肌が立ってしまいます。いやいや、そんなことのためにそこまでしなくても…と思わずにいられません。亡くなった人物の尊厳が踏み躙られている…

恋心と憎悪は紙一重、誰も救われない哀しきミステリー

約260ページほどの作品なんですが、ひっくり返しに見事に騙されます。
複雑な恋愛のもつれが一貫しているので、読んでいて辛くなったり気分が悪くなったりする場面もあります。ただそれまでもが伏線の一つなので、結局は作者の術中に嵌ってしまうのです。
ラストもまた完全なるバッドエンドとも言っていいかもしれません、ちょっとだけ救いはあるけど、それを上回る哀しい結末とも言えるでしょう。
伏線を見つけようと読み返すのがこういった作品の楽しみでもありますが、理解した上で読むとヒリヒリするのでお気を付けを。
ではでは、また次の投稿まで。


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