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【読書感想文】ここにひとつの□(はこ)がある/梨 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

今話題のホラー作家・梨さんの連作短編集。
入れ物に潜む恐怖は、すぐそこに。


故郷で聞かされる知り合いの死の真相は【邪魔】

語り手の上尾は、東京から故郷の町へ里帰りしていた。すると、昔よく遊んでいた彩香という女性と偶然の再会を果たす。招かれるまま家にお邪魔し、言葉を交わしていたのだが、彼女の口から驚きのことを聞かされる。彼女の妹の衣里が、車に引き摺られる事故に遭った後亡くなってしまったというのだ。その様子を辛そうに語る彼女に、何も言葉を掛けることが出来なかった上尾だが、彼女の家を出た後にある人物へ連絡を取る―――
結末としては王道ですが、この時の上尾の心情を考えると恐怖と驚愕でいっぱいだったことは想像できます。有り得ないけど有り得そうなお話だからこその恐怖です。

遊び半分で手を出してはいけない【放課】

会社での何気ない会話で、小学校の時はモノモチの悪い子が少なからずいたという話題が上がる。語り手はそれを聞き、小学校時代の記憶を思い出した。当時6年生が1年生のお世話をする慣習があったが、その時語り手が見ていたのはみちとくんという少年だった。おねえちゃんと呼び大人しくついてくる彼は、鉛筆や筆記用具が妙に傷んでいることがあった。けれど、いじめられたり精神が不安定な様子はない。だがある日、彼の机の引き出しにあるものを見つけて―――
そこに繋がるの!?と思わずにはいられないお話。短いながら伏線がたくさんあるので、注意しながらじっくり読んでみてください。この呪い、皆さんも知ってると思いますがこうなったらホントに怖い。

ただの空き箱が恐怖に変わる【カシル様専用】

語り手が家庭教師をしていた男子高校生から聞いたお話。
『カシル様専用』と書いた商品をアプリで出品すると、他のユーザーが必ず落札するという。しかも中身は必要なく、空っぽの箱や封筒を送るだけで料金もきちんと振り込まれるのだ。実際にその住所や家は存在し、送られてくる荷物で溢れていたという。その家には妙な噂もあり、何かを信仰しているとか、表札に『カシルさま』という紙を貼っているとか。しかし、そこまではよくある都市伝説にも思えた。だがある日、高校生の友人がうっかりメッセージカードを箱に入れてカシル様に送ってしまい―――
今では最早当たり前ともいえるフリマやオークションアプリのお話。それを小遣い稼ぎとするのはまだしも、面白がってやるには如何せん怖すぎますね…そしてジャパニーズホラーの王道・呪いの伝染もしっかり押さえてくれています。

段々とページを捲るのが怖くなる【練習問題】

表紙はよくある、制限時間60分の筆記試験問題。
箱の体積を求めよ、身長の平均値を求めよ、嘘つきは誰か見極めよ、速いのはどちらか答えよ…よくある数学や物理の問題なのか?
だがそれらを真面目に解いていくと、段々と様子がおかしくなっていき―――
文庫本ではかなり珍しいと思われる、問題様式でページを読み進めるお話。あまり難しい問題ではなく小中学生くらいでもできそうなものですが、ポイントはそこではありません。最早問題の答えなど気にする場合ではなくなってくるのです。じわじわくるのが不気味ですね…ただ、最初の問題の時点でなんとなく不穏な気がするのは私だけでしょうか。

愛が歪めた御伽噺【京都府北部で発見されたタイムカプセル】

語り手は重傷を負い瀕死の状態であったが、一人の人間がそこへ現れた。「自分よりも長生きするから、救ってあげる」そう口にする彼が、語り手には聖人に見えた。人間ではなかった語り手だが、彼に深い想いを抱くことになり、彼を自分の家へと招待する。共に過ごすようになった二人であったが、ある日彼が「暇をいただきたい」と言い出したことから、事態は別の方向へと舵を切り始める。
京都府北部、って時点でピンとくる方はいらっしゃるかもしれませんね(ここだけの話思い切り地元)ただの昔話みたいな感じでほとんどの日本人が知ってるかとは思いますが、こんな風に語られると嫌な恐怖が侵食してくるような感覚になります。確かにあの結末はバッドエンドだもんな…

さあ、楽しく解いてみよう!【穴埋め作業】

『すべての言葉を見つけてつなげよう!』という一文と共に、《タテ》《ヨコ》のヒントと、虫食いになっている四角形。そう、誰もが知るクロスワードである。1~6の問題は、一見すると何の変哲もないありふれたもの。だが、ヒントにはどこか違和感があるものも含まれており―――
先述の練習問題と同じく、かなり珍しいクロスワードを題材としたお話。ただこれも普通のヒントもあれば『葬儀で贈る白い花』とか『これが止まると死んでしまう』とか、やっぱり死を連想してしまうものも当たり前のように差し込まれています。そして文字通り、すべての言葉を繋げると…

叔父の顔に現れたのは記憶と…【虹色の水疱瘡、或いは廃墟で痙攣するケロイドが見た夢の中の風景】

語り手はまだ7,8歳の頃、叔父の葬式に出ることになった。叔父とそこまで認識がなかったこと、まだ死というものがよく理解できていなかったこともあり、葬式というものは退屈なものでしかなかった。しかも語り手の両親は憐れむ様子もあまりせず、どこか機械的に対応している肉親がなくなったのに、一体何故か。
その日は叔父の家に泊まることになったのだが、眠ろうと布団に入った語り手に不思議なことが起こる。いつの間にか仏間に移動しており、眼前には焼かれたはずの叔父の棺があったのだ。しかも叔父の顔には、美しい水疱が現れており―――
怖いというよりは不思議なお話に近いかもしれません。真相がはっきり語られないので想像にはなりますが、妙に薄ら寒い感覚に陥ります。

空白に響く声は何を語る【箱庭】

何もない真っ白な部屋の床に、一人の女性が寝転んでいる。その部屋の中、性別もわからない声が語り掛ける、「ここにひとつの□がある」。
声は箱についての概念をとつとつと語るが、女性は何も答えない。気にすることもない声が、やがて女性に告げる。「例えば、ここにひとつの筆□がある」すると、女性の顔がぱきぱきと音を立てて―――
今までのお話と繋がってくる完結編ともいえるお話。これもどちらかといえば不思議な雰囲気ですが、やたらと□が出てくるのでゲシュタルト崩壊起こしそうになります…あと、最初と最後の絵に注意です。油断してると驚きます。

箱、はこ、□…どこまでも四角に捉われる新感覚ホラー

話の形態がクイズだったりと斬新なところもありますが、王道ホラーも押さえているので怖い話が好きな方はもちろん苦手な方も読めるかもしれません。現実でもやってしまいそうな(もしくはやってしまっていた)ことも多くあるので、なんだか懐かしさや共感も覚えてしまうことも面白さの一つです。
梨さんの不気味で説明のつかない怖さ、ご興味ある方は是非。
ではでは、また次の投稿まで。



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