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【読書感想文】ぼぎわんが、来る/澤村伊智 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

最近注目のホラー小説家・澤村さんのデビュー作。
ホラー小説大賞・長編賞も受賞しているという文句なしの面白さです。


幸せいっぱいの田原秀樹、だが恐怖は突然やってきた

田原秀樹は香奈という女性と結婚し、もうすぐ娘も産まれるという幸せの絶頂にいた。知紗という名前も決め、その日を今か今かと待ちわびていた。
ある日会社で、後輩の高梨から自分相手に来客があると告げられる。どんな人物かと聞いてみても、どうも要領を得ない。更には誰にも知られていない娘の名前まで口にし、いよいよ不思議に思っていると、突如高梨の腕が血で真っ赤に染まり始めた。入院した高梨だったが、日に日に憔悴していく上にどうも何かに噛まれたようだと診断される。会社で、しかも大勢の眼前で起こったこと、当然そんなことはあり得ない。結局退職してしまったのだが、その日を境に秀樹の周辺でおかしなことが立て続けに起こる。
香奈や知紗は怯え、体調を崩すことも増えていく。秀樹は家族を守ろうと大量のお守りを家中に飾るが、それもずたずたに切り裂かれてしまう。秀樹は思い出していた、三重県の祖父母が昔から怯えていた『ぼぎわん』という存在を。怪異はもしかして、『ぼぎわん』の仕業なのではないか。
昔から言い伝えられている化け物がある日突然やってくる…ジャパニーズホラーの王道ですね。そんな化け物が自分や家族の名前を呼びながら近づいてくるとは恐怖以外の何物でもありません。

『ぼぎわん』とは一体何か。家族を守るために頼った人物は

秀樹は昔からの友人で民俗学に詳しい唐草という男性に相談することに。彼の推測によると、それは海外で言う『ブギーマン(お化け等の総称)』が訛ったものではないかという。しかもそれは、秀樹を探してひたひたと近付いているようであった。そこで紹介されたのが、オカルトライターの野崎という男性と、その恋人の比嘉真琴という若い女性だった。
真琴は秀樹に「家族に優しくしてあげて」とアドバイスを送った。それなら普段から十分にやっていると憤慨する秀樹だったが、野崎と真琴が香奈や知紗によくしてくれるお陰で家族で交流するようになる。だがその最中に飾っていたお守りたちがまたしても破壊され、家のそばまでやってきた気配まで感じてしまう。その場では真琴が追い払ったが、それの凶暴性はとても太刀打ちできるものではなかった。京都の位の高い僧侶からはお祓いを断られ、代わりに紹介されたアマチュア霊媒師は腕を千切られる。更にぼぎわんは、声色を変えながら忍び寄り、秀樹の神経をも蝕んでいく。その声は、知られてはならない言葉をも口にして―――
読み進めるうちに、恐怖を煽る描写の中に妙な違和感を感じるようになります。それはある一言で一気に真相へと近づき、今までの固定観念をひっくり返していきます。ホラーの中ではあまりないような展開に、驚愕しつつも震えてしまいます。迫ってくる様が怖すぎる…

香奈から見た田原家の在り方とは。そして事態は最悪の方向へ

ここからは、妻である香奈の視点で進んでいきます。
確かに幸せな結婚生活を送っていた香奈だったが、当初から少しずつ小さな不安が積もっていった。それは知紗の出産で徹底的なものとなり、決して幸せとは言い難いくなってしまった。秀樹は家族を守ってくれるが、それでもぷつんと切れて香奈の感情は暴発してしまう。秀樹が家族を語れば語るほど、香奈の心は黒く染まっていく。
そして秀樹の事件からしばらく経った頃。香奈は育児と仕事に追われていたが、家を訪れてくれる真琴や野崎の存在に少なからず救われていた。しかし、安寧の日々も続くことはなく、またしても知紗に牙が向きそうに。身を挺して真琴が助けたものの、真琴自身は入院を余儀なくされた。
ここにはいられないと、香奈は疎遠になりつつあった秀樹の実家を頼ることにした。すべては娘の知紗を守るため、愛する家族を守るためだった。だが、ぼぎわんは見逃してはくれなかった。新幹線の中、香奈と知紗を呼ぶ声が聞こえて…
どこまでもどこまでも追いかけてくる声、恐怖で発狂してしまいそうです。安心した矢先にくるのだから余計ですよね。
また香奈から見た田原家というのが、まったく違うものであるのもポイント。見る人によっては、気分が悪くなるかもしれません(当方はずっとイラってしてた)

真の救世主・比嘉琴子が登場し、事件はクライマックスへ

入院している真琴の元へ、彼女の姉である琴子がやってきた。比嘉という名字でもわかるように、姉妹は沖縄の出身で巫女やシャーマンのようなことをやっていた。琴子は自分がこの案件を引き受けると言い、野崎と共に行動するようになる。
その時点で、彼女はすべてを見抜こうとしていた。真相を探るべく、二人は一路秀樹の母親の元へと向かうこととなる。そこで語られる、すべての呪いの根源とは。そして呪いの連鎖を断ち切るために、琴子はぼぎわんと対峙することを決意した―――
この琴子が実にかっこよくて、男勝りなところはありますが飄々としていて滅多に動じることはありません。腕も真琴よりも遥かに上であり、その場にいないのにぼぎわんの脅威を見抜くほど。更には伝手の広さも尋常ではなく、警視庁のお偉いさんにまで口が利くほどです。
そして諸悪の根源であり、先祖から受け継がれる呪いの連鎖。昔では普通だったとかよく聞きますが、その言葉でくくって言い聞かせるだけで許しているかどうかは別ですよね。呪いたいと思うほど、辛かったのがよくわかります。
また琴子とぼぎんわんの対峙シーンは見ていてハラハラしっぱなし。アクションシーンでも見ているかのようなスピード感と恐怖に圧倒されることでしょう。

すべての要素が完璧な王道ジャパニーズホラーをご賞味あれ

ひたひたとやってくる脅威、浸食される日常、突然流れる血、呪いの連鎖、伝承の化け物、民俗学。どれもが素晴らしくまとまっていて、まさにジャパニーズホラーを体現しているかのような作品です。
更には家族の闇、現代の悪しき風習、嫉妬、裏切りなど、ミステリー要素も盛り沢山でどんでん返しまで堪能できるという贅沢な作品でもあります。昔だけでなく現代の闇も掘り起こしてしまう話は伝承ホラーでは珍しいかもしれませんが、綺麗に融合して恐怖を倍増させていきます。
ホラー小説好きなら読んで損はない作品、是非浸ってみてください。
ではでは、また次の投稿まで。

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