【読書感想文】鬼畜の家/深木章子 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
元弁護士の深木さんが描く長編ミステリー。
鬼畜は一体誰か?悍ましき不幸の連鎖が引き寄せる結末は。
とある家族は異質な様子を物語る
元警察の私立探偵・榊原はとある女性について聞き込みを行っていた。
その女性・郁江は開業医の夫・北川秀彦を自殺で亡くしているが、実は表向きは病死ということになっていた。知り合いの医師の木島が病死だと検死結果を記載したからだったが、それが郁江からの依頼だったのだ。一体そうしなければならない理由は?
また郁江には息子一人と娘二人がいるが、末っ子の由起名を勝手に養子に出した挙句、その家が火事になり一人生き残った由起名をまた連れ戻すという常識外れな行動を取っていた。更には保険金や相続金などをすべて手に入れる手回しも抜かりがなく、葬儀をしないどころか墓参りにすら現れない。親戚は「郁江は鬼である」と言い捨てるほどであった。
しかも由起名はその影響か学校に行かず引きこもりとなり、兄の秀一郎も不登校な上郁江からは執着とも言える溺愛ぶり、もう一人の娘・亜矢名は明るく優秀であったが家庭環境はお世辞にも良いとは言えない状況であった。
それでも生活は平穏であったが、ある日亜矢名がベランダの手すりが壊れたことにより転落死してしまい―――
読めば読むほど、母親の郁江の所業に嫌気が差してきます。鬼と呼ばれるのも悪いけど納得です。振り回される子どもたちが本当に可哀そうで…
榊原が出会ったのは、家族を亡くし天涯孤独となった少女
榊原は従妹に頼まれ、施設で暮らしている少女と会うことに。名前は北川由起名…彼女は父親は幼い頃に病死、姉は自宅で転落死、母と兄は自動車ごと海に転落し行方不明という波乱万丈な人生を歩んでいた。しかし母と兄の事故に関して疑念があり、調査をしてみてほしいのだという。
その由起名は榊原に語る、「私の家は鬼畜の家だった」と。
父親は病死ということになっているが、実際は母親が殺したと姉の由起名から聞かされていた。けれど、医師の木島は自殺だと語っている。その真実とは?また養女に出された先の家族は火事による焼死だったが、由起名からは衝撃の事実が語られる。養父による自分への行い、夫婦の様子、そして火事の本当の原因とは―――
家族はヒステリックで粘着質で兄しか見えていない母、陰気で友人もおらず不登校の兄、活発で優秀な姉。引きこもりだった由起名だったが、姉が勉強を教えてくれるお陰である程度の教養は身につけていた。そんな頼りになる姉が転落死した裏に隠された真実は?そして母と兄の事故は、果たして事故なのか?
関係者の告白とはいろいろと矛盾点が出てきたりして、ますます謎が深まっていきます。しかし榊原が言うように、こんな家族がいるのかと驚いてしまいます(フィクションですが)お金があっても絶対こうはなりたくない。
浮かび上がる本当の家族の姿にますます闇が濃厚になる
北川家をよく知る人物が語るのは、最初から歪み切っていた家族の実像。母親は秀一郎を溺愛していたが、父親は秀才の亜矢名を可愛がっていた。その理由は、診察室から洩れ聞こえたとある二人の会話で明かされる。
また秀一郎と付き合いがあった数少ない友人の一人は、秀一郎と母親の異様な雰囲気を口にする。溺愛だけでは済まず、母親と同じベッドで寝ているという。友人は驚くものの、当の秀一郎は特に疑問も抱いていない様子。それだけではない価値観の違いに恐ろしくも感じていた。
そして動物病院を経営していた田中哲の母親が語るのは、哲と亜矢名の関係。哲は妻子持ちであったが、なんと亜矢名と恋人関係つまり不倫をしていたのだ。哲は亜矢名に惚れ込んでいたが、それを嗅ぎ付けた妻が予想外の行動に出る。それにより二人は破局、哲は結局妻子を選んだのだ。しかしそこへ、亜矢名が亡くなったという話が哲の耳に入り、そこには哲へ宛てた手紙が見つかって―――
また北川家の隣に住む男性の話では、北川家の妙な様子。近所づきあいはほとんどなく、犬の散歩や夜に車で外出しているくらいしか生活の実態が見えなかったのだ。その家の中で繰り広げられていた、恐ろしい光景も―――
別の人たちが語る人物像からは、まったく違う家族の形が見えてきます。しかも亜矢名は不慮の事故のはずなのに、遺書が見つかっている、ということは…?
重要なヒントが散りばめられているので、先がどうしても気になりますがじっくり読むのをおすすめします。
榊原が辿り着いた真実、そして彼女から語られる『鬼畜の家』の正体は
すべてのピースが揃い始め、完成品ととなって見えてきた榊原は、再び由起名と会うことに。自分が思いついた推理を聞かせてみると、由起名は今まで黙っていた家族との秘密の関係を打ち明けた。しかし、榊原のある一言により、この物語の世界はすべてをひっくり返していく。
その考えはまったく思いつきませんでした…でも推理を読んでいると、そこかしこにヒントはあったんですよね。でもミスリードの巧みさにより全然気付けません。
真実が見えた状態で最初から読んでみたら、また違う映像として浮かび上がってくるのが二度美味しいです。
鬼畜の所業に目が離せなくなる歪んだ家の傑作ミステリー
所謂サイコパスな人の話なのですが、サイコパスという横文字よりは鬼畜という言葉が似合いそうな雰囲気の物語。明らかに痛そうだったり苦しそうというより、纏わりつく不快感が半端ない物語です。それでいてどんでん返しが見事に決まるので、不思議な爽快感もあるというまたある意味矛盾した作品でもあります。
また保険金や失踪宣言など、元弁護士の深木さんだからこそのリーガルなシーンも見どころです。お世話にはなりたくないですが、知らなかった法律知識なども知れる傑作です。
ではでは、また次の投稿まで。