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【読書感想文】東京結合人間/白井智之 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

『特殊ミステリー』でお馴染み、白井智之さんの長編ミステリー。
この作品ももちろん、最初からぶっ飛んだ世界観を見せてくれます。


『結合人間』とは

キーワードは勿論『結合人間』。
これ、比喩表現とかではなく、作品の中に実際に登場する存在なんです。
というのも、この作品の世界では人間は現実世界の生殖とはまったく異なるやり方で子孫を残しています。
それがずばり『結合』であり、男女が一つの身体の『結合人間』になることで子孫を増やしていくという訳です。結合のやり方は「どちらかが一方の身体に入り込む」ことで可能となりますが、詳細は一応避けておきます(恐らくR指定入るので…まあ何となく想像できるかもしれないですが)
『結合人間』は四つの目に大きな口、四本の腕と足、ドラム缶のような胴体と三メートル程の身長という特徴があり、名前も『川崎ヒロシカオリ』のように一つになります。子どもからすれば、両親はちゃんといるけど存在は一人、という状況です。
ただ、稀に結合人間の中でも特異な存在が生まれることがあります。それが『オネストマン』で、直訳すると正直者という意味です。これは文字通り嘘が吐けない、しかも心情的とか性格的な問題ではなく、脳のメカニズム上本当のことしか口に出来なくなるのです。そうなってしまうと生きていくには不都合なことばかりで、専門のカウンセラーまでいるような深刻なこととして捉えられています。
これでミステリーになるの?と思うような世界観ですが、ちゃんと展開するのが白井さんなんです。

結合人間が当たり前の世界で起きる数奇な事件

1.プロローグ
とある男女カップルが結合するところから物語は進んでいきます。
無事に(?)結合できたのはいいのですが、その結合人間はオネストマンという診断を下されてしまいます。
受け入れがたい現実を突きつけられた結合人間は、その後傷害事件を起こし…

2.少女を売る
東京の片隅で『寺田ハウス』という商売チームを組んでいるネズミ、ビデオ、オナコの三人。
彼らの商売は、ずばり未成年であり未結合である少女の売春斡旋。
グレーどころか完全にクロな商売の上、彼らが暮らすハイムの1室では少女の監禁も行っているというカオスぶり。特にオナコはかなりの加虐嗜好の持ち主で、乱暴な方法で少女を捕まえたり弱い者いじめを平気でやってのける相当危ない人物です。
彼らが監禁している少女・栞が「友達に会いたい」と口にした時から、少しずつ彼らの歯車が狂い始めます。
友達と称して連れてきた少女と栞が共に命を落とし、更には彼らの太客である中村という人物が逮捕されるということが立て続けに起こります。自分たちにも捜査の手が及ぶことを懸念した三人は、隠ぺい工作を図った後東京から逃亡。そしてそのニュースも落ち着いた頃、彼らは東京に戻ってくるのでした。
戻ってきた彼らが思いついた次の商売は、映像作品を撮ること。巷で流行っていた恋愛リアリティショー『つぼみハウス』のような作品を作ろうと考えたのです。だが、単なる恋愛リアリティショーではありません。演者をすべてオネストマンで固めるという、斬新なアイデアで一発当てようという訳です。
そして撮影場所となる島へ出発の日。船で向かう寺田ハウスの三人と演者たちでしたが、潜入していた自称探偵の今井という結合人間が現れ、とある真相を語り始めます。それは三人を絶望の淵へと追いやり、そして彼らを嵐の海へと叩き落すことに…

導入部分がかなり長く、ミステリーらしい事件が起こるまでのページ数が多いため、「これ必要?」と思うかもしれません。
ですが、この一章の中にこれでもかってほど伏線がちりばめられています。隅々まで読めば、こういうことだったのかと衝撃を受けること間違いなしです。

3.正直者の島
目的地の東呉多島に到着した一行。
連絡は取れず、船も動かず、これこそミステリーではお決まりのクローズドサークルという環境です。
しかも寺田ハウスの三人は海へ落ちてしまったため、撮影どころではありません。一週間ものあいだ、オネストマンたちはこの島で一緒に暮らすことを余儀なくされてしまったのです。
ただし、この島は無人島ではありませんでした。管理人らしき結合人間・狩々ダイキチモヨコと、彼の娘・麻美が暮らしているのです。ですが彼はやってきた一行にそっけなく、非協力的なスタンスを貫きます。一行との生活拠点とも異なり、必要以上に関わろうとしません。
ちなみにオネストマンたちは、職業や境遇も様々です。
自称探偵の今井を始め、オカルトライターや医者、元教師など個性的な面々が揃っています。
次第に親しくなる者もいれば、反発し合う者もいる。寺田ハウスの三人がいなくなった今、正直者ばかりが集まった一行は、一筋縄ではいかない共同生活を始めるのでした。

ですが、ここで事件が発生。
体調不良を訴える者が現れたため、薬をもらおうと狩々たちが暮らす館を訪れた一行は、衝撃的な光景を目撃します。
狩々ダイキチモヨコと麻美が、遺体となって発見されたのです。そばには凶器とおぼしきナイフも落ちており、どう見ても他殺に間違いない状況でした。
犯人探しを始める一行ですが、当初は簡単に終わると思われました。ここにいるのは全員オネストマン、直球に犯人か否か尋ねればすぐに自供するからです。
だが、全員が犯行を否定するという結果に終わってしまいます。このメンバーの中に犯人がいることは明白、でも誰も自分が殺したと言わない…一体どういうことなのか。
オネストマンという設定を絶妙に活かした謎が、ここで発生するという訳です。

次に疑うのは、自分たちの他にも別の存在がいるのではないかということ。
狩々は自分たちしかいないと言っていましたが、彼に関してはオネストマンであるという証拠もないので、嘘を吐いている可能性もありました。
だが、どこを探してもそんな人物は存在しない。隠れられそうな場所もなく、結局見つけることは出来なかった。
更に悪いことは続き、体調不良を起こしていた人物が羊歯病を発症してしまいます。羊歯病はこの世界で流行している感染症で、皮膚が爛れる上に甘い蜜のような匂いをまき散らしてしまうというもの。
犯人の正体、感染症への不安、全員が疑心暗鬼になってしまうのも当然です。
そして追い打ちをかけるように、次の死者が出てしまう。
犯人は誰か?犯行動機は?犯行のトリックは?
すべてのダニットを抱えたこの事件は、とある人物の登場から急展開を迎えることになります。

かなり特殊な状況ですが、披露される推理やトリックは本格的です。
解決を進めていくところなんて、うっかり結合人間のことなど忘れてしまうくらいのハイレベルなロジック推理がさく裂します。これぞ、白井さんの真骨頂です。
事件は無事に解決。生存者たちは東京へと戻り、また日常生活が始まっていく…
ことにはなりません。
ここから、更なるどんでん返しが待ち受けているのです。

4.エピローグ
羊歯病患者専用の診察所から、章はスタート。
羊歯病に感染し、友人も失い、生きる気力もなくしつつある語り手に、ある人物が声を掛けます。
この人物こそが、すべての謎を解く探偵役。
そう、事件は解決などしていなかったのです。

この作品は、最後の最後まで探偵役が誰になるのか焦らされます。
まったくの予想外の人物であり、登場した途端にすべての謎を回収していきます。怒涛のように披露される推理、紐解かれる伏線の数々、そこかしこにあるミスリード、そして真犯人と探偵の正体…
こんなどんでん返し、他には味わえません。

特殊ミステリーを存分に楽しめる贅沢な作品

かなり特殊な世界観だし、グロテスクな表現が多いし、売春の斡旋をしている人たちのせいでそういった描写も多いしで、かなり読む人を選ぶ作品です。
ですが、それを上回るほどの華麗な推理を見せてくれる白井先生のすごさ。圧巻です。
私の文章力が乏しいせいですごさや面白さを上手く伝えられないのが残念だ…
ではでは、また次の投稿まで。

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