【読書感想文】復讐は合法的に/三日市零 ※ネタバレ注意
本日の読書感想文はこちら。
タイトル通り、法律の範囲内で復讐をしてくれるお話が掲載された短編集。
真っ黒に見えようが漆黒に見えようが、グレーゾーンを極めれば無問題(←)
【合法復讐屋】を営むエリス、その実態とは
エリスは『法律探偵事務所』という聞き慣れない事務所を経営しています。弁護士資格と法律知識を生かして調査をする、というのが表向きの仕事で、ここには裏メニューが存在していました。
それは、『法律の範囲内で復讐をする』というもの。復讐したいと思っていても、法に触れてしまうことで結局泣き寝入りするパターンが多いですよね。また決行しても後味が悪かったりで、空しくなってしまうことも少なくありません。
それを叶えてくれるのが、この事務所が密かに行っているメニューという訳です。しかもあくまでも法が許すラインなので、罪にも問われません。そこが徹底されていると、依頼人としては心強いですよね。「法律の範囲内だけど道徳の範囲外」、名言です。
またこの事務所関係者は、濃いメンツが揃っています。所長のエリスは掘りが深くサラサラのロングヘアが目を惹く美女…なのですが、本来の姿はベリーショートヘアの長身のオネエなんです。その美貌を生かして、あらゆる美男美女に変装するということも平気でやってのけます(但し本人は男装?はしたくないらしい)
そして秘書のメープルちゃんは、しっかりしていて言葉遣いも丁寧なのですが、なんと小学4年生の女の子。小学生がそんな事務所で働いていいの?と思ってしまいますが、所謂『子役』というタレントなら法律的には問題ないということです。なので事務所では常にテレビカメラが回っています、準備良過ぎでしょ。
そんな異色コンビが、依頼人の復讐を請け負うお話が揃った1冊です。
クズ男に制裁を!エリスの手腕が炸裂する【女神と負け犬】
中西麻友は坂口俊介と6年間交際をしていたのですが、妊娠と中絶を機に関係がこじれてしまいました。結婚のためにと貯めていたお金を使い込まれ、同じ職場の女性と二股を掛けられてた挙句暴力を振るわれ捨てられてしまいます。失意のどん底にいた麻友に声を掛けてくれたのが、偶然そばを通りかかったエリスでした。乗り気ではなかった麻友でしたが、エリスの言葉に奮起して俊介に復讐することを決意します。その復讐方法とは、俊介を社会的に抹殺することでした。
メープルちゃんがエリスのことを「恐ろしいほどに用意周到」と評していますが、そんな言葉ではおさまらないくらいにエリスの周囲の固め方は徹底しています。小さなことを積み重ねて、あの手この手でじわじわと周囲から攻めていき、最後にダメ押しの最大ダメージを食らわせる。男がクズ過ぎることもあって、読んでスカッとすること間違いなしです。
殺人事件に隠された裏にある真実とは?【副業】
語り手は携帯ショップで働く店長代理のアルバイト店員。クレーム対応をしたりと決してホワイトとは言い難い職場ですが、副業もやりつつなんとかこなす日々。そんな中、取引先の中小企業の社長である肥後という男性が殺害されてしまうというニュースが飛び込んできました。その犯人は、彼が働く携帯ショップに怒鳴り込んできたクレーム客だったのです。
そしてエリスの事務所には、その犯人の父親がやってきていました。そもそも事件は、口論になって突き飛ばした際に運悪く縁石に頭を打ち付けたというもので、故意ではなかったのです。しかも二人に面識もなかったらしく、どうしてそんなことになったのか探ってほしいとの依頼でした。
店長代理、中小企業の社長、クレーム客。一見繋がりが無いない彼らにあった接点とは何なのでしょうか。身近な携帯ショップの裏でこんなことがされていたらと思うと嫌すぎる、エリスの爽快すぎる鉄槌に拍手です。
ひっくり返しに騙される、メープルも大活躍の【潜入】
依頼人は雑誌記者の灰島涼斗という男性。早乙女創真という英会話教室で働く青年が小学生の女の子へのわいせつ行為で捕まったのですが、父親が市議会議員ということもあり権力と圧力でなかったことに。顧問弁護士まで出てきて、被害届を取り下げるよう脅しをかけてきたのです。更には早乙女は違う学習塾で働くようになったことも許せないと言う灰島ですが、エリスはあまり乗り気ではありません。ですがメープルは同い年の女の子が被害に遭っているためか、珍しく積極的に受けるようエリスに打診するのでした。更には、自分がその学習塾に潜入捜査するとまで言い始めて――
感情表現がほぼなく小学生らしくないメープルちゃんですが、やはり同じ女の子が酷い目に遭っているのをほっとけないという年相応の正義感を持っているようです。またエリスがメープルちゃんを本当に大切に思っているのがよくわかる、ちょっとほっこりするお話です。
ただ、加害者のやり口がかなり下衆なのが読んでてイライラします。あと顧問弁護士にも腹が立つ、なにが「ジャスティス!」なのか。
真相がわかった時のひっくり返しにも是非注目してほしい作品です。思わずあっと声が出てしまうでしょう。
暴露系の表の顔を暴け、正義の信念を持つ者同士が対峙する【同類】
園田美海という大学生が、殴打されて殺害されるという事件が発生。彼女はミスキャンパスに選ばれたのだが、パパ活のお陰だと暴露系Twitterアカウント【味亭太】に告発されたのです。そのことを知った純粋に応援していたファンによる犯行だったのだが、美海の母親は捕まった実行犯だけではなく【味亭太】のことも許せないと言います。依頼を引き受けたエリスは、高校時代からの友人であり刑事の富沢に協力を仰ぎ、警察内の人物にも力を貸してもらうことに。そこからエリスと【味亭太】の鬼ごっこが始まったのです。
最近は暴露系というのがSNSで流行ったりしてますが、殺人事件まで発生しているとなるとそう簡単に容認できるものではありません(しかも美海の場合は一部真実とは異なっていた)それでも、自分は絶対に正しいと信じて止まないのです。悪人を裁くという点ではエリスと同じなのですが、【味亭太】の場合は身勝手な正義を振りかざしているに過ぎない。エリスは「自分は悪いことをしている」という自覚があるため、そこが決定的に違っています。正義の皮を被った犯人と悪人の皮を被った弱い者の味方、果たしてその決着とは。
個性的なキャラとスカッとする復讐劇を楽しむリーガルミステリー
復讐劇ってなるとどうしてもドロドロしたものを想像しますが、エリスのやり方があまりにも素晴らしいので爽やかさすら感じられるほどです。合法ギリギリを攻めるのでこちらがハラハラする場面も多いでものの、上手くいった時の結末は天晴です。
そして弁護士資格持ち美形オネエのエリスと、成績超優秀で秘書としても超有能なメープル(情報量多い)の会話も楽しい作品。どこを取っても楽しさしかありません。
ではでは、また次の投稿まで。