見出し画像

【読書感想文】ナキメサマ/阿泉来堂 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

ただのホラーではなく、大きなどんでん返しも待っている作品。
豪華な要素が詰め込められた、ハイレベルなホラーミステリーです。


不穏な映像データから始まる物語。舞台は北海道の小さな村

プロローグから、いきなりエンジン全開。
それは記録映像らしいのですが、女性が泣きながら何かを訴えています。「やるべきではなかった」「この村に来てはダメ」等、よくないことが起こっているのは一目瞭然です。最終的には逃げ惑いながら「人殺し」という言葉を残し、映像は途切れます。

シーンは変わり、倉坂尚人という男性が、有川弥生という女性に声を掛けられるところから始まります。
弥生は葦原小夜子という女性とルームシェアをしていたのですが、里帰りした小夜子と連絡が取れなくなり、心配しているので倉坂に協力を仰いできたのです。何故初対面の倉坂を頼ってきたのか?それは、倉坂と小夜子が高校時代に付き合っていたからです。ただ別れ方が一方的だったこともあり、最初はいいリアクションをしない倉坂でしたが、「小夜子はまだ倉坂のことが好き」という言葉を信じ、協力を承諾することにしました。
小夜子の両親は亡くなっており、里帰り先である北海道の稲守村という小さな村には叔母と祖父が暮らしているとのこと。ですが、弥生は小夜子から聞いていた話を思い出し、不安な気持ちを抱えています。小夜子の両親はある時から稲守村へは行かなくなったのですが、その理由が「お前を巫女にするわけにはいかない」というもの。更には里帰りの際にも「儀式を見に行く」という言葉を残していたのです。巫女に儀式、段々不穏な空気を感じさせます。

小夜子の家に泊まることになった二人、そこへ恐怖が忍び寄る

小夜子の祖父の家を訪れた倉坂たちでしたが、小夜子に会うことはできませんでした。何でも小夜子は、巫女として『ナキメサマの儀式』に参加するため、離れに何週間も閉じこもっているというのです。訝しむ二人でしたが、小夜子本人の意志であると言われれば何も言えません。
結局その日は泊まることになったのですが、その夜に倉坂は白い着物姿の女性が庭にいるのを目撃し、更には異様な悲鳴も耳にしてしまいます。だが非現実的な出来事のため、叔母や祖父に尋ねることはできませんでした。
翌日、また珍客が屋敷へとやってきました。作品のネタ探しに来たという編集者の佐沼と、那々木悠志郎というホラー小説家の二人。この那々木が実に変わり者で、自分が人に知られていない小説家というのが耐えられず、本を押し付けた挙句勝手にサインまでする。関わると実に面倒そうですが、ホラーを書いているだけありそのあたりの知識はかなり豊富で、鋭い観察眼も持っている。村にある神社の違和感にもすぐ気づくなど、一筋縄ではいかない人物です。
那々木は遠慮なくナキメサマや儀式について祖父に質問しますが、明らかに動揺した彼らは何も教えてくれません。一体この村は何を隠しているのでしょうか?
その夜、当たり前のように探索へ出かける那々木たちについていくことにした倉坂。すると悍ましい悲鳴が聞こえ、駆け付けてみると、目を抉り取られた血まみれの死体がそこに――

小夜子が語る決意と過去

この作品は、小夜子視点のストーリーが途中で挟み込まれています。
儀式を見るだけのはずだった小夜子ですが、従妹の久美の代わりに巫女をやることになっていたのです。久美は申し訳なさと同時に、小夜子に勝手に巫女役を押し付けた祖父や次期村長に怒りを抱いていました。しかし当の小夜子は使命を果たすべく決意を固めており、やはり何も言えない状態に。
ですが、祭り当日に死体が見つかったという事件が勃発。それでも儀式を行うという祖父に小夜子もさすがに疑念を持ちますが、一蹴されてしまいます。不安に苛まれた小夜子は、倉坂へ「助けて」と呟くのです。
二人が別れた経緯が語られるのですが、原因は狭間征次という高校の同級生でした。彼が小夜子のストーカーになり、徐々にエスカレートしてしまい、上手くいかなくなってしまったというもの。別れ方が本意でなかったというのが、なんとなく理解できますね。
ただ、この際の倉坂との会話にもちょっとした違和感を覚えます。その答え合わせを行った時、真実に背筋が冷たくなるでしょう。
それだけでなく、この章にもある仕掛けが施されています。恐怖だけではない、あっと驚くどんでん返しが待っています。

予想外な第二の犠牲者、そして那々木が辿り着いた祭祀の真相は

その翌晩。またしても夜に繰り出した那々木と倉坂ですが、昨晩と同じような悲鳴を聞きつけます。すると、そこには予想もしない人物が無惨な姿で事切れていたのです。
ただ、那々木だけは冷静に分析を進め、怪異ではなく実在する人間の仕業であると見抜きます。そして彼は、ここにやって来た本当の理由を語り始めました。冒頭にあった記録映像の意味が、ここで明かされるのです。
那々木は既に真相に間近まで迫っていました。ナキメサマの儀式の謎、儀式の意味、ナキメサマの正体…ですが、彼は近づきすぎました。疎ましく思っていた黒幕たちに、とうとう捕らえられてしまうのです。
しかし、そんなことで那々木は怯みません。容赦なくズバズバと真相を叩きつけ、まるで挑発するかのように黒幕たちに言葉で殴り掛かっていくのです。その真相は黒幕たちだけでなく、倉坂の頬をも殴りつけているのでした。
ここでも、予想外のどんでん返しが仕掛けられています。それを聞いて、絶望を覚える人は少なくないでしょう。

惨劇と化した儀式、すべてが過ぎ去った後に語られるもの

黒幕たちはすべてを明かされても、強引に儀式を続けようとします。
だが、それは結局失敗に終わり、惨劇を起こす引き金になってしまいました。阿鼻叫喚の空間、辺りは血の海と化し、人々は逃げ惑うこととなります。
命からがら逃げ出せた那々木と倉坂でしたが、失ったものの大きさに倉坂は呆然とするばかり。しかし、那々木は最後まで鋭いままでした。
その後のエピローグ。こここそが、この作品の真のクライマックスとも言えるべき章です。那々木が何に気付いたのか、何故儀式が失敗したのか、すべてを明かしてくれます。倉坂の語る一言に、思わず読み返してしまいます。その戦慄の真相、恐ろしいですがお見事としか言いようがありません。

どんでん返しがどんでん返しを呼ぶ極上のホラーミステリー

恐ろしい怪異、盲目的な儀式への信仰、男女間のもつれ、マスコミの在り方、風変わりな探偵、どんでん返しなど、面白くなる要素がすべて入っているこの作品。
どれもが中途半端になることのない話はなかなか出会えません。ホラーながらここまで綺麗にどんでん返しが決まることには感動すらしてしまいます。Amazonの紹介文はシンプルですが、まさに的確です。
また那々木のキャラが魅力的なので、シリーズを読むのが楽しくなります。変人だけど(ここ重要)
ではでは、また次の投稿まで。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集