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【読書感想文】悪魔のいる天国/星新一 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

ブラックユーモア多めの36編が収録されたショートショート集。
発展していく世界、その行く末は本当の天国ばかりではなさそうです。


現代にも通じるテーマも書かれた作品がずらり

星さんお得意のSFはもちろん、先ほども書いたブラックユーモアやちょっとしたホラーもあるバラエティ豊かな作品集。
その中でも好きな作品をピックアップします。

◇合理主義者
エフ博士は、若くして優秀な金属学者だった。その反面、徹底した合理主義者であり、金属の研究以外にほとんど興味を示さなかった。ある夜、研究に使用する砂を集めるために海岸にやってきたエフ博士。そこで偶然掘り起こした壺にもまるで興味を持たない博士だったが、その中から魔神が現れ…
途中まではよくあるおとぎ話ですが、ポイントはこの博士がかなりの合理主義者であるということです。悪いことではありませんが、あまりに欲がなさすぎるもの考えものですね。

◇天国
バーにやってきた中年の男は嘆いていた。会社にも、妻にも、息子にも、すべてに不満を抱いているという。いっそ人生を早く終わらせて天国に行きたいというその男に、バーテンが声をかける。「生きたまま天国に行きたくないか」と。最初は怪しんでいた男だったが、藁にもすがる思いでその話に食いつくことになる。
何もかもが満たされた生活が幸せかどうか、問いかける結末を迎えるお話。天国と言うとハッピーエンドを思い浮かべますが、これは間違いなくバッドエンドです。

◇宇宙のキツネ
宇宙研究所に、ある男が現れた。男は特別なキツネの研究を長いこと行っており、遂に成功して繁殖も可能となったという。キツネはソリを引く犬になったり、食料用のブタとなったり、あらゆる場面で役に立つと男は語る。研究所はキツネを一匹所持し、操縦士と一緒に宇宙船に乗せてみることになった。
約2.5ページという短さですが、オチが見事に決まっています。やっぱりキツネはキツネ、ということです。

◇情熱
宇宙研究所では、巨大な宇宙船の設計を行っていた。遠くの星まで行ける宇宙船を日々研究し、莫大な予算を注ぎ込んでいる。乗船志願者も大勢おり、ますます熱は高まっていた。そんな時、空に銀色の宇宙船が現れたと連絡が入り―――
親や周囲のエゴは押し付けるものではない、ということをはっきり伝える作品。どんな絵空事より、実例は強力ですね。

◇お地蔵さんのくれたクマ
祖父と二人きりで暮らしている孫がいた。孫は怖い夢を見たと主張し、もう見ないようにするためにはどうしたらいいの、と祖父にすがる。祖父が提案したのは、お地蔵さんにお参りをすれば大丈夫だと教えてあげた。その通りにした夜、孫の夢の中に現れたのは…
悪夢を消す存在、と聞くとなんとなく思いつくかもしれないですね。そしてほのぼの作品か?と思わせておいて最後にちょっと怖いオチが待っています。悪夢は、眠らなくても見られるものですから…

◇ピーターパンの島
ウエンディは、花の中には小さな子どもがいると言い、暗闇には妖精が飛んでいると口にする。両親はありとあらゆる手段を講じたが、改善することはなかった。困り果てた両親は、ウエンディを特殊な学校に預けることに決める。そこにはウエンディと同じく、不思議なことを語る子どもたちが集められていた。
人と少し違うとすぐに疎まれてしまうこと、科学を妄信することの危うさを有名な童話に上手く融合させたお話。ここまでの強硬手段はないでしょうが、有り得ない話とも思えないことが怖いところです。

◇肩の上の秘書
この時代の人たちはみんな、肩にオウムを載せていた。美しい翼を持ったオウムは、主人が一言呟くと口を開いて話し始めるのだった。
今でいうChatGPTや生成AIを表現した作品。やはり星さんの先見の目は凄いですね…けどこんなものが肩に載ってたら、本心で喋っているのではないとバレバレな気もしますが…

◇ゆきとどいた生活
会社員のテール氏は、生活のすべてをロボットやシステムに任せっきりにしていた。起床して起こし、歯を磨くのも、スーツに着替えるのも、すべてロボットがやってくれる。いつものように準備万端となったテール氏は、会社まで自動で向かう乗り物に乗り込み…
生活を楽にするのは夢ではありますが、すべてを任せるのは違うと釘を刺された気分になります。これを昭和時代に書くってやっぱり凄い。

◇愛の通信
男は嘆いていた、どうして自分はこんなにも女からモテないのだろうかと。地球の女性を諦めた男は、宇宙へ「自分と付き合ってくれる女性はいないか」とメッセージを飛ばした。すると、奇跡的に返事がやってきて―――
出会い系アプリよりはアナログですが、スケールはかなり壮大です。やはり画面越しでも、信じすぎることはよくないのでしょう。

◇エル氏の最期
事業に失敗したエル氏は、自殺しようと遺書を書き上げた。いよいよそれを決行しようとした時、見覚えのない男が家に入ってきた。自殺するつもりだとエル氏が告げると、男は自分の目の前で自殺してみろと言い出して…
ひどい男の話かと思いきや、思わぬ方向へ進んでいきます。完璧で平等な社会は、決して幸せではないということがよくわかります。

◇かわいいポーリー
若い男は船員をしており、前々から考えていた刺青を彫ること決めた。誰もやったことがないキャベツの刺青を頼んだが、彫師の女はやめたほうがいいと言う。聞かずに強引に彫ってもらったのだが、彫ってもらった部分が痒くなってきて―――
最近感想文を書いた白井さんの小説をちょっと思い出してしまいます。やめた方がいいと言われたら、素直にやめるべきですね。

◇殉職
幽霊の人口が増えすぎて、幽霊会社が作られた。そこでの仕事は、幽霊になれなかった人の代わりに、その人が恨んでいる人の前に化けて出ることだった。幽霊の一人は、男と結ばれなかった女の代わりに男の前に出ることとなり…
幽霊になる理由というのが面白く、また所謂成仏のやり方も興味深い作品。幽霊になってまで働きたくはないですが。

未来へ向かって発展していく生活を皮肉った傑作揃い

便利になっていく世の中を描き、それに疑問を投げかける作品が多くあります。というか、どうやってこんな未来を想像したんだろうか…現実離れしているのにありそうな未来を描写するのが本当にお上手です。
また良くはない結末を書いているのがまた面白い。いいことばかりではないってことを暗に伝えてくれているので、是非触れてみてください。
ではでは、また次の投稿まで。

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