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【読書感想文】クリムゾンの迷宮/貴志祐介 ※ネタバレ注意

本日の読書感想文はこちら。

人間の恐怖を書くのが憎いほどにお上手な貴志さんのホラー小説。
溢れるスピード感と恐怖を味わう新しいホラーです。


失業中の男性が目を覚ますと、そこは赤い岩が聳える未知の場所だった

藤木芳彦は、大手証券会社をクビになった挙句妻からも愛想を尽かされてしまう。住む場所も追われ、実質ホームレスのような生活を送っていた。
ある日目を覚ますと、赤い岩に囲まれた見知らぬ場所に転がされていた。そばには水が入った水筒と、栄養食品が入ったランチボックス、それから操作ボタンがついたゲーム機とカセットがあった。カセットを差し込んでみると、『火星の迷宮へようこそ』というメッセージが表示された。訳も分からぬ藤木に、メッセージが教えてくれる。『無事にゴール出来たら報酬は払う』『チェックポイントの選択は100%参加者の自責となる』『選択は生死に関わる場合もある』等々。藤木はいつの間にか、迷宮を舞台にしたデスゲームへ放り込まれていたのだった。
連れて来られた記憶もないっていうのが、もう怖いですね。しかも全然知らない場所で、生死に関わるゲームをやるという…藤木や参加者の立場になってみるとぞっとします。

参加者は敵か、味方か。疑心暗鬼の中で生き残れ

藤木は最初に大友藍という女性と出会い、行動を共にするようになる。一つ目のチェックポイントに到着すると、更に他の参加者7名がいた。その場を仕切る者、敵意を向ける者、そもそもゲーム自体を疑う者…バラバラな9名だが、とりあえず協力体制を取ることに。
藤木はやはり藍と動くことになるのだが、そこで重要な情報を手に入れる。彼らがいるのはオーストラリアにある国立公園の一部で、ゲームの舞台は自然に出来たものであるが、岩壁が脆いため脱出は不可能。また気候は温暖で雨が降るため、飲み水や寒さで困ることはない。更には食糧やアイテムの重要度、武器の本数等だった。だが他の参加者が真実を口にするとは限らないと考え、必要最低限の情報しか伝えなかった。やがて9名は分岐点で別れを告げ、それぞれ選んだ道へと向かうことになる。
その最中、藤木は『火星の迷宮』というゲームブックを手に入れる。内容が酷似していることから、この本に影響を受けた舞台設定なのだろうと考える。バッドエンド、グッドエンド、トゥルーエンド…果たして辿り着く先は。
藤木はどちらかといえば優柔不断だし、藍はちょっと強気なところがあるしでタイプは違いますが、頭の回転は速く機転が利きます。他の参加者を出し抜くよりはなんとか生き延びようとするサバイバル本能が強く、名コンビにも思えます。
ただ、要注意なのは参加者だけではありません。その土地や気候故、様々な危険動物たちが存在しているのです。哺乳類、昆虫、毒蛇…それらからも逃げなくてはならず、余計な神経と体力を使ってしまうことに。仕入れた情報やアイテムを駆使し、二人はサバイバルを生き抜く努力を重ねていきます。
ここで重要になるのが、分岐点での選択肢。サバイバルアイテム、護身用アイテム、食糧、情報がそれぞれ東西南北に置かれていて、どれを手にするかで今後の展開が変わってくるのです。

ゼロサム・ゲームの目的とは?極限状態の中で襲い来る殺意

雨を凌いだり普段食べない爬虫類を口にしたり、なんとか生きながらえていた二人だが、やがて恐ろしい事態になっていることを悟る。参加者の一人の遺体を発見したのだが、その遺体はどう見ても解体されて食いちぎられた跡があった。もしや、参加者が参加者に手を掛けたのか?
更にゲーム機が教えてくれる情報に、また驚愕することとなる。チェックポイントにあった食糧にはハズレがあり(藤木たちは前もって情報を手に入れていたので食べていない)、口にするだけで人間の体脂肪をそぎ落とすものや、甲状腺ホルモンに働きかけるという恐ろしいものが混入しているものもあると判明。つまり参加者にそれを与えることで、身体はもちろん人格までをも変えてしまうということ。『火星の迷宮』に出てくる食屍鬼(グール)を用意するのではなく、参加者を食屍鬼に変貌させるのが目的だったのだ。つまりゲームマスターの思惑とは、文字通り参加者同士で殺し合いをさせるゼロサム・ゲームを作り上げることだった。
しかしそれを理解したところで、既に遅かった。参加者は参加者に襲い掛かり、迷うこともなく食する。必死に魔の手から逃げる中で、藤木と藍は次第に心を通わせるようになり―――
ただのゼロサム・ゲームではなく、参加者を化け物に変えるという思考。怖すぎますね。人格が崩壊し、殺すどころか食べることも厭わなくなった人間から逃げる術はあるのでしょうか。

BAD、GOOD、そしてTRUE…ゲームの結末とその後

絶望的な状況下でも、藤木は考えることを止めてはいなかった。至る所にある監視の視線、与えられる情報にある違和感…ゼロサム・ゲームをさせようとする意図はわかるが、その真意は未だ掴めずにいた。
食屍鬼から逃げる途中、最初の分岐点で出会った野呂田という男性に出会う。藤木の目には常識的でまともな人間に見えていたが、藍は彼こそがゲームマスターなのではと疑っていた。その根拠とは一体何なのか。
じりじりと鬼が迫る中、藤木たちは一世一代の賭けに出ることとなった。生きるか、死ぬか。果たしてその結末は―――
細かなところに伏線が貼られていたり、ミスリードがあったり、それをすべて最終章で明かしてくれます。ただあくまでも推論に過ぎず、真相が正しいのかどうかは闇の中です。これは3つのエンディングの内どれに当てはまるか、読者に委ねられることとなるのです。
個人的には、多分TRUEなのかな…?とは思います。

究極のゼロサム・ゲームに没入するホラーサスペンスミステリー

迫りくる殺意や恐怖をまざまざと感じられるので、VRなんかでその場にいるような臨場感を覚えられます。実際に参加するのは絶対に嫌ですが。
ああいった状況下では、人間の本性が溢れるということもよくわかります。貴志さんの作品はそのあたりの描写が本当に上手いので、余計に恐怖を煽られます。
結末は賛否ありそうですが、それもまたありと思わせてくれる作品です。
ではでは、また次の投稿まで。


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