【呟き】ブームを作れたかもしれない隠れた名作、ムーンランド【漫画感想_03】
どうも、式です。
最近読んだ漫画を取り上げようと思うと、自分の守備範囲の狭さからどうしてもジャンプ系列になってしまうんですよね。それ以外も読んではいるんですが、忙しかったりするとそこまで多くの漫画を読めたりしないので……
というわけで三連続ジャンプ+の作品になります。今回は完結済みの作品である『ムーンランド』になります。
以下、目次のようなもの
1.あらすじ
中学三年生の天原満月は、「自分の体を思うように動かしたい」という思いから体操に夢中になる。他人と競うことに興味を持てなかった満月はそれまで一度も大会に出たことがなかったが、中学最後に出場した大会で強豪クラブ所属の堂ヶ瀬朔良の演技に釘付けになる。
彼の演技に魅せられた満月は、彼と同じ私立兎田高校に進学し、体操部に入学する。満月の高校での体操生活の行方はー?
という感じで、ありていに言えばスポーツ漫画です。それも野球やサッカー、バスケ等の比較的知名度があるメジャーなものではなく、どちらかといえばマイナーなスポーツである「体操」。ここでいうメジャー、マイナーの区別は、ざっくりですが「読者の大多数が説明されずともゲームの仕組みを知っているスポーツ」だと思います。細かなルールはさておいて、野球・サッカー・バスケ等はかなり浸透していますね。
個人的にはここがスポーツ漫画の難しいところだと思います。メジャースポーツはかなりの数の先駆者(名作、打ち切り作品含む)がいる分独自性を出すのが難しい(その分ルール等の大枠は読者が知っている)。逆にマイナースポーツは先駆者の少ないブルーオーシャンだけど競技自体の知名度がそこまで高くないから、まずルールの説明や世界観の説明が必要になってしまう。
アイシールド21なんかはすごいなぁと思いました。アメフトという比較的マイナースポーツを題材にしつつ、週刊少年ジャンプという少年漫画激戦区でヒット作になったので。
2.息が止まる美しい体操表現
体操というと、鉄棒やあん馬、床や吊り輪なんかが思い浮かびますが、そのカッコ良さとか加点ポイントって素人にはいまいちピンとこないですよね。でもこの作品は画力と構成で「美しい体操」をまるで動画のように味わうことができると思っています。
特に終盤のインターハイ編での各選手の圧倒的な演技力・体操力には思わず読みながら息が止まるくらい綺麗です。絵のタッチも若干細めというか、ものすごく描き込むタイプではないので、その分体操の綺麗な動きが映えるんですよ。試合の回は毎号毎号「え、もう18ページ読み終わった?」とあっという間に感じるくらいページを捲る手が止まらん。
3.青春の「切り抜き」の巧みさ
スポーツ漫画といえば「青春」とセットですよね。各高校・各選手にはそれぞれ競技に対する思いや周年があって、でも一番になれるのは一校だけだから絶対に誰かが負ける。そのぶつかり合いの中で生まれる葛藤や熱量が醍醐味だと思うんですが、この漫画もその例に漏れず、アツいです。
前述の堂ヶ瀬朔良には兄であるアキラ(ちょっと漢字忘れてしまった…)がいるんですが、彼もまた体操選手なんですね。しかも超一流。というより現高校最強選手。朔良はアキラの背中を追っているし、アキラは朔良に負けるわけにはいかない。この兄弟喧嘩も作中の見どころの一つです。
あとは、満月の心境の変化も面白い。最初は「自分の体を思うように動かせればいい」「自分が楽しめればいい」という、ある種個人主義的な動機で体操に取り組んでいて、チームというか団体戦としての勝利に興味を持てていなかったのが、大会や部活を通じて徐々に変化していき、最後はチームのために演技をするようになる。この成長過程もまた青春の醍醐味ですよねぇ。
特に最終回直前はどの話も激アツというか常に最大風速を出し続けていて、早く来週にならないかなとワクワクしていました。
4.どこが「惜しかった」のか
素人が「惜しかった」なんていうとめちゃくちゃ烏滸がましいと思うんですが、紹介する以上はフラットにならねば、と……。というのも、恐らくですがこの漫画、打ち切りエンドなんですね。単行本も途中から紙媒体での発売がなくなって電子版だけになったりと、順風満帆な大団円というわけではなかったのかなぁと邪推しています(それでも最後の終わり方は綺麗に着地しているし、最後の展開の怒涛さは屈指のアツさなので評価全体としてはめちゃくちゃおすすめです)。
恐らくですが以下の二点かなぁと。
a)主人公像への共感
主人公満月は、よく言えば天然で真っ直ぐ。でも悪く言えば抜けてるというか、ちょっと見ていてもどかしくなるキャラなんですね。スポーツ漫画で「勝ちにこだわらないキャラ」というのは目新しいけど、高校スポーツでやるとなると「浮く」んですよ。本作はこれを上手く転がして人間関係を展開させていたんですけど、このキャラが大衆にウケるかというとちょっと懐疑的な気もするんですね。
主人公像はある程度勝ちとか競技に対して執心があって、その熱意が周囲を巻き込んで話が展開していく、とかの方が(テンプレですが)受けやすいのかなぁ、と。新規性とトレードオフになる難しい点ですね……
b)展開の遅さ
これもめっっっっっちゃくちゃ難しい点なんですよ。丁寧に描いてほしいという思いもあれば、逆にテンポよく進めてほしいと思う時もある。
で、スポーツ漫画って特にその塩梅が難しいと思うんですが、序盤で固定の読者を獲得しないとその後から爆発的人気を得るのって難しいと思うんですよ。だから序盤の早い段階で試合描写を挟むとか、ライバル校を登場させるとかして見せ場を作らないといけないんですね(ジャンプ連載作の『バディストライク』とかはそこで失敗してしまった)。
序盤三話くらいで主人公達のキャラ描写や部活の雰囲気、体操にかける思いは丁寧に描かれるんですが、試合描写というのは一話のみ。
でもその二点も徐々に気にならなくなっていくので、主人公達のドラマをじっくり味わいたいという人にはうってつけの作品です。
単行本も全九巻と集めやすいので、サクッと読めてお手頃です。
それでは。
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