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私のメフィストフェレス

大学生活!
桜花爛漫な青春日和を満喫しようと、私は人がごった返す学内を散策していた。入学したからには今までのオタク人生と決別し、爽やか絢爛清純派学徒に生まれ変わろうと悠々闊歩と練り歩いていた目先、『内海くん』の姿を見つけた。半年前からの文通相手で、恥ずかしながら私がこの大学に入学した理由でもある。彼は携帯を持たないから示し合わせも無く直接会える機会は稀だ。私は当然この機会を逃さない。
 
「内海くん、サークルとか決めた?」
「スカッシュが出来るところ」
「テニスみたいなやつ?」
「うん。人多いね」
 
内海くんは人混みが嫌いだった。早々に退散して、比較的空いた庭園の芝生で一休みすることにした。いつの間にか内海くんはその手に缶ビールを持っていた。
 
「どうしたのそれ」
「買って貰った」
「誰に?」
「さあ、そこら辺の人」
 
お釣りはやると千円札を握らせ、老け顔の大学生に買わせたらしい。内海くんはそういうところがある。年上に対して不遜で、真面目な顔してダーティなことを平気でやる。
 
「飲む?」
「まだ未成年だから」
「へえ」
 
内海くんは一人で二本目を開ける。
 
「僕みたいな学生は言うだろうね『皆飲んでるんだ、飲もうよ』君みたいな学生はこう言う『皆飲んでないよ、未成年だし』皆って言葉は至極曖昧で都合がいい」
「うん、かもしれないね」
「ルールがあるから皆が守るのか、皆が守るからルールなのか。どっちなんだろうね」
 
私は時々、というか殆どいつも内海くんの言わんとすることを理解出来なかった。その点を私は内海くんの持つ魅力、哲学的な個性と解釈してしまったのだ。内海くんは『好奇心』や『興味』という名の餌を撒くのが上手い。私はまんまとその餌に喰らいつく。
 
結局、私はその日、生まれてはじめてビールを飲んだ。想像より苦く、喉が焼ける感じがした。内海くんは平気な顔をして飲んでいる。この人は大人だ。そよぐ春風の中、私は改めて内海くんが好きだと感じた。
 
その日から私のメフィストフェレス、内海くんとの凋落した大学生活が始まった。


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