現実に優しく繋がる世界ー「ガラージュ」完全版感想ー【*内容露見あり*】
こんにちは。
ガラージュをやっている人が周りにはいないけど、インターネットにはいっぱいいると思ったので、プレイヤーと感想を分かち合えたらいいなと思ってここで書くことにしました。
内容露見がありますので初見でプレイ中の方はご注意ください。
「ガラージュ」とは
そもそも「ガラージュ」というゲームをご存知でしょうか。
この記事を読む時点でいくらか存じているのではないかと思いますが、知らないながらも読みに来てくださった方向けに軽い概要説明から入ります。「ゲーム概要」以外は読まなくてもきっと大丈夫です。
概要
「ガラージュ Garage:Bad Dream Adventure」は、画家や自転車の製作などをされている作場知生(さくばともみ)さんが監督製作したゲームで、1999年にパソコン用ゲームとして発売されました。発売部数も少なく、絶版となった私家版と呼ばれるこの版は現在もフリマサイトで約10万〜50万円という高値で売られています。
そして一昨年2021年、モバイルで完全版を製作・発売するためのクラウドファンディングが行われました。私も寄付を行い、リターンとしてかっこいいステッカーを手に入れました。
確かリリースされたのは一昨年の12月ごろだったと思います。自分の手で「ガラージュ」を進められることにワクワクしました。
知ったきっかけ
ここは他の人からしたらどうでもいいと思うのですが、一応記しておくとインターネットの海の中ですれ違い、存在自体はいつからか知っていました。実際に触れたのはVtuberの黛灰(まゆずみかい)さんによる私家版のゲーム配信です。これを見てからずっと「自分でやりてぇ〜」と思っていました。その矢先のモバイル完全版リリース予定発表だったので、「夢、叶う…!」という感じでした。
ゲーム概要
App Storeの概要文から引用失礼します……。
人によっては機械の見た目が不気味に写り、始めるのに敷居も高く思うかもしれません。でもそこだけで判断できる世界ではないということも今回書いていきたいのです。
ここから感想
ここから内容露見が含まれます。
私は今2周目をプレイしています。プレイというよりガラージュによる精神治療でしょうか。ルート分岐的にあと3周はやりたいと思っています。
機械たちとの生活
ガラージュの世界に入ったら、全く違う見た目の機械たちとたくさん話して一緒に生活していかなければなりません。全く関わらないことは不可能です。でも関わらずに話を一切進めないのも一つのあり方かもしれませんね。私は現実世界での自分では考えられないくらい全員にグイグイ話しかけに行っています。たまに嫌われることもある主人公ですが、時には寄り添って話してくれたり、道具や蛙を分けて欲しいとお願いされることもあります。本当は機械一人ひとりについて色々述べたいのですが、ここでは5人の機械との関わりを振り返っていきます。
宮
宮さん。私が大好きな機械です。宮工務店の店主でありツルさんの伴侶。口元の構造がガスマスクみたいでかっこいい。宮さんのセリフの中で私が好きなのはこちらです。
このセリフを言うまで彼にも色々あったのですが、喋るようになってからは元気な江戸っ子のように自分の作りたいものについて熱く語ってくれます。陰の者の私にはこういう人が眩しい……。パートナーであるツルさんも優しくて大好きです。
タカシ
釣りとは切っても切り離せない好青年(この世界では雌機械の食料となる蛙を釣ることが非常に重要です)。彼が外出中の時間帯に一部の釣り場に行けば一緒に並んで釣りができます。彼の優しい口調がとても好きで、癒されます。
ハーサン
最初見た時は「顔、怖っ!」と印象は良くなかったです。でも工場で毎日働いている俺なんかより立派な労働者。順応度(EGO=自我を保てている度合い?)を保つための栄養ドリンクのような順応液を譲ってくれないか頻繁にお願いされます。渡し続けるといつものお礼としてアイテムもくれます。なんかこの時、顔怖いけど優しくしてよかったな、と思いました。
ベム
奇病を持った機械としてある場所に隔離されています。顔のあらゆる場所にイボがあり、いつも苦しんでいる様子です。
彼の夢日記を読むに、イボは何かのメタファーに感じます。イボがあるから誰も彼に触らない。触ると増えるが触ってしまう。邪魔なのはイボじゃなくて僕なんだ。自意識のメタファー?と考えたりもしました。
そしてあるタイミングでベムは主人公に自分のことを触ってくれないかとお願いします。私はこのとき心の底から彼に触りたいと思いました。それは浅はかな同情混じりの感情なのかもしれません。でもこれで彼が苦しみから解放されるならと、触りました。彼は「ありがとう」と何度も言ってこの世界から消えました。
ガラージュでは主人公の行為によって機械が消えていきます。それは成仏みたいだと思うこともあれば、主人公の罪だと思うこともあります。
ルウ
ルウのことも大好きです。独特な機械揃いのこの世界でも、特に惹かれる機械です。雌機械と雄機械に分けられるこの世界で、ルウは唯一の両性具有です。この背景が、自分のことを完全に女だとは思えず悩んだことがある私と重なって見えました。
ルウの日記を読むに、特別な体を持った自分をそのまま見てくれない世界に対し失望を抱いていたのだと思います。性別というフィルターを通して見られること/見ることに違和感を抱いてきた自分と少し重なると思いました。ルウの日記を読み直して泣いたし……。
ルウはオルゴールを聴くことと釣りが好きです。迷路のような水路をひとり船に乗って釣りをしていたんだなあと思うと、もっとルウのことを知りたいと、ますます心惹かれます。
現実の延長線
ガラージュはやり込むほど現実生活の一部となっていくゲームだと思います。そしてこのゲームは生活、人生の一部となることでもその機能となっているのだろうと考えます。
釣り
このゲームに欠かせない要素である釣り。ここで流通している貨幣、「スタンプ」を集めるためには釣りで得た蛙を売る必要があります。釣りのシステムは、メーターを見て、自分の手で操作してルアーを調整するというものです。この「自分の手で」という部分と、釣りにかかる時間のリアルさが現実とリンクしていく要因のように思えます。
釣る蛙の大きさによってメーターの振れ幅やかかる時間が異なるので、やり込んでいくとメーターの様子を見て何の蛙がかかったかなんとなく分かるようになります。これもこの世界の釣りを視覚で覚えていくという「経験」にきっとなっているということですね。
レアな蛙が釣れた時はめっちゃ嬉しいし、釣り情報を見ながら目当ての蛙を探していくのも、その世界で実際に生活しているみたいでいいですよね。
道順 内周と外周
ガラージュの世界では軌道に沿ってしか進むことができません。やっている人はわかると思うのですが、内周・外周とあってマップを見てもいまいち自分の進む方向が分からないと思います。私はあまりマップを見ずに進めていき、道順を自然と覚えていきました。この慣れで道順を覚えたり、近道を見つけたりすることも現実世界みたいですよね。
現実世界には軌道はなくて行きたいところへ行けますが、毎回一緒の道順でバイトや学校に行っていると、さしてガラージュの世界と変わらないなと思います。
物語の後半に出てくる地下水路は本当にどこがどこだか分からなくなるので、自分で地図を書いて場所を把握するようにしています。これも現実の作業とゲームがリンクしていておもしろいです。
おわりに 精神装置ガラージュの役割について考えたこと
ガラージュは主人公の過去に焦点が当てられます。それは彼の過去がこの世界の背景となっているからですが、ある意味主人公の過ちといえる過去をやり直していく感覚なのではないかと思っています。やり直して、外の世界へと出ていく。そのためには安全基地が必要です。安全基地は、人間の場合「母親」であると言われています。失敗しても大丈夫だという安心を与えてくれる心の拠り所(=基地)です。例えば母親に怒鳴られてばかりいると、失敗を恐れて行動に大きな恐怖が伴う状態になってしまいますが、失敗も受容してくれる母親であれば、子どもは外の世界へと安心して踏み出すことができます。
しかし主人公の母親は出てきません。その代わりにあるのが、機械たちなのではないかと考えました。中でも主人公と親しい機械たちは優しく楽しく話してくれたり、主人公との対話、交流によって自分の心を満たしたりします。彼らの言動には真心があり、それが愛だと私は思うのです。もちろん作り手ではない私の考えとは一致してはいないと思いますが、作場さんもこのように述べられています。ガラージュは、愛の話だと。
そして機械たちの愛は主人公だけではなく、彼を操って釣りをしたり迷子になったり機械と対話したりしている私たちにも向けられます。機械たちはただのゲームの登場人物ではなく、私の人生の登場人物です。彼らの言葉は主人公を通してしっかりと私に伝わってきます。そして私が現実世界で行動していくときに彼らの愛が少し心を支えてくれます。こういうところが、愛のゲームなのではないかと今の私は解釈しています。これからも進めていく上で新しい見方を発見していきたいです。
以上、一個人の感想と考えでしたが、読んでくださりありがとうございました。