若き見知らぬ者たちという暗がり
若き見知らぬ者たち。
やはりあまりにもしんどい作品だった。
今作は完全なる群像劇。
以下、長くもない感想だが、内容に触れたいのでネタバレ注意。
物語の全容の説明というよりは、気になった・印象的だったとこだけ。
作品の闇を一身に背負い、今にも倒れてしまいそうな主人公、彩人。
同じくストレスに浸りながらも、普段の生活ではフラットな印象の壮平。
同じくストレスに浸りながらも、普段は気丈に振る舞いポジティブな印象を与える日向。
このメインの三人だけでも疲弊するほどの表現力。
納棺のシーンと水分を抜く為にベッドに横たわるシーンの対比は誰でも分かるものだったが、彩人が今際で地べたに這いつくばるシーンと壮平がマットで締め落とすシーンの対比が描きたいが為にMMAを選んだという理由には脱帽した。
がむしゃらで全身を密着させ、拳や脚だけでなく五体を用いる総合格闘技なのは分かったが、低さを望んでとは。そこまでは解釈が及ばなかった。
そして何より、警察側もしっかりと描いたことがこの作品の肝。
瀬戸がかなりよかった。正直、瀬戸を第三者目線だけで映して終わったなら、この作品の評価はまた少し変わったとさえ思う。
あのどうしようもない、でも確かにどこかの誰かでもある、ありえる警官。シャワーシーンで彼の視点を入れたことは、あまりに重要で有効だった。
この作品で銃は、現在では願いとしてのみ発砲される。
しかもたったの二度。
過去で罪の意識に苛まれた父親のようにはなり得ない。実物を手に入れられない。手元にあっても、撃つ気もなければ撃つ勇気もない。弾丸はもう映らないし、薬莢だけが残っている。
そして、呆れ、手放すものとしてのみ実物が映し出される。
不謹慎だが映画的にも面白く、緩急の付け方が好みだった。
染谷将太さんの演技は抜群の安定感で、瀬戸とのやりとりの間の取り方や台詞の往来がとても素晴らしかった。
どうしても素人目には純粋に役者さんの演技力を測るのには限界があり、それは役・台詞・分量によっていくらでも変わってしまうものである。良い役や悪い役、出番の長い役や短い役。そこに簡単に左右される。
けれども、大和の行動や言葉には感情が乗っていて、随分すっと入ってきた。流石の技量。
染谷さんも瀬戸役の東さんも事態を飲み込めず、受け入れられず、衝動的・自動的になっている自分のまま声を震わせ、つっかえさせて対話しているのが何とも苦しいシーンだった。
個人的に、伊島空さんが出てきたのには驚いた。良い役柄を繊細に演じられていた。好演。
伊島さん演じる治虫という壮平と同級生の警官は、どちらかというと市井の人間に寄り添っていて高圧的ではない。それはある意味では、まだ瀬戸よりも若く学生気分というか若者気分が抜けていない証拠なのかもしれない。
故に警官で、銃を持つ立場で、若き者。
カトウシンスケさんや矢柴俊博さん、多分また井口理さんも出てたかな? 脇を固める方々も作品の説得力をぐっと増す一因になっていた。
答えが暴かれる、真実が白日の下に晒される、誰かが痛い目にあって裁かれる。
そういう作品でないからこそ、タイトルが重くのしかかるし、誰かの共感を呼ぶのだろう。
少なくとも佐々木にしろ、内山拓也監督作品のキャラクターの置かれる状況は重なる部分の多いもので、おいそれと人に実体験を交えた感想を言えるようなものではない。
ところで、奥様が萩原みのりさんであったり、King Gnuさんの「the hole」のMV監督をされていたりと、後から知って驚くことが多い。
近々「ヴァニタス」も観ようと思う。