伊那のまゆ
バイト先の先輩からお土産をもらった。先輩の実家、長野のお土産らしい。1人2つね〜といわれ渡された、2つの銀紙の包み。ザラザラとした加工がされたそれには小豆色で「まゆ」と書かれていた。先輩が言うには最中のお菓子らしく、特段最中に愛着があるわけではない私は、感謝はしつつもあまり気に留めていなかった。
もらった日の夕食後、少し物足りなくて先輩からもらったまゆが目に入る。今日食べるつもりはなかったが仕方がないと、銀紙を開けると、つやつやとしたチョコレートがかかったまゆがあった。見た目はまゆ、というより卵に近い。手で持つと熱でチョコレートが溶けだし、あわてて一口かじりついた。
ぱり、ぷわ
あ、これうま。薄くて甘さ控えめなチョコレートの中に、ぷわぷわの生クリームがたっぷり詰まっていた。え?これ美味しすぎないか?チョコと生クリームという特段珍しくもない組み合わせなのに異様に美味しい。スポンジとか、アイスとか、そういうのが間に挟まっていない分、チョコレートと生クリームをダイレクトに感じられた。チョコレートクリームとも違う。チョコレートがチョコレートのままあることで、その濃厚さを十分に味わえる。生クリームのミルキーさも損なわれていない。しかしくどさというか、生クリーム特有のオイリー感は感じない。チョコレートのほろ苦さゆえか、この2つの要素からは想像できないような非常に上品な味にまとまっていた。
夢中で食べ終わって、次の日くらいにあれ美味しかったなと考えていたら、そういえば先輩はあれを最中と言ってなかったかと思い出した。残っていたもう一包を開けて、断面をみた。いた。チョコレートと生クリームの間にうすーくもなかがいた。その2つが交わらぬよう、確かにそこに、仕切りとして存在していたのだ。
調べてみたらこのまゆ、長野の老舗菓子店、越後屋菓子店のものらしい。あの上品な味と、菓子自体のコンセプトを揺るがせないような最中の使い方は、和菓子を取り扱ってきたからこそできる技なのかもしれない。