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黄金比と白銀比が意味するモノ

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


黄金比とは

「黄金比」についてはデザインに関わらないかたでも耳にしたことがあるのではないでしょうか。英語だと「Gold (Golden) Ratio」と言います。わかりやすい比率でいうとこうなります。

1 :  1.618

式にするとこうなります。

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この比率を使うとデザインや建築がしっくりくるなぁという比率です。小鯛ギリシャの建物やミロのビーナス、はたまた葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」のなかにも見ることの出来る比率です。上記の式の左にある文字は、ギリシア文字のφ(ファイ)です。これは二次方程式x2 − x − 1 = 0 の正の解でもあります。

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(画像引用:CB Crreative Bloq “A designer's guide to the Golden Ratio”)

上記の画像の太い線の長方形が、1:1.618の比率です。そのほかにごにょごにょした螺旋が見えますが、これは、黄金螺旋(Golden spirals)というものです。この螺旋は、ひまわりの種の配列や巻き貝の渦の中にもみることができます。倍化した黄金比の長方形をくっつけていくとできる螺旋です。この倍化という行為には、フィボナッチの数列が背景にあります。フィボナッチは、イタリアの数学者で、こんな感じの人。

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(画像引用:Project Fibonacci “Who was Fibonacci !?”

フィボナッチの数列は、隣り合う数字を足していくだけのシンプルな数列です。

1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21......

この数列は、隣り合う数字の比率がどんどん黄金比に近づいてきます。この黄金比が意味するものがあるのですが、その前に別の比率をみてみましょう。

あ、ついでにクレジットカードなどのカードもこの黄金比です。

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白銀比とは

白銀比もまた知らずともわたしたちに非常に馴染みのある比率です。とくに日本人ならなおさらに。まずはA4用紙。A4にかぎりませんが、A判、B判は、縦横比が白銀比になっています。白銀比は、数字にするとこうなります。

1 : 1.4142.....

こう書きかえることができます。

1 : √2

この数字、比率は、正方形の比率でもあります。

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これがどうして日本人ならなおさらに馴染み深いのかというと日本は古来この比率を使いまくってきたからです。日本の大工道具に曲尺(かねじゃく)というものがあります。

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(画像引用:Amazon「シンワ測定 シルバー曲尺」)

この曲尺は、丸太から角材を切り出すときなどに使うのですが、このメモリには、√2が潜んでいます。というか

丸太(円)からもっとも無駄なく角材を取り出すには、円に内接する正方形に切り出すべきなんです。この木材を無駄なく使う精神が、日本が古来、正方形を重視してきた理由です。平安京も正方形をユニットにして形成された都でした。

正方形には、上記のように2つの数字を持っています。一辺を1とするなら、対角線が√2になるからです。これがA4用紙にどう反映されているかというとこうです。

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対角線だった√2を長辺にするとA判になるわけです。

ちなみに畳は、1:2。正方形を2つ続けたものです。

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この畳の形が、茶室にも影響します。千利休が作った待庵(たいあん)は、二畳敷きで正方形でした。

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19世紀の日本の思想家、岡倉天心の『茶の本』によれば、

「正統の茶室の広さは四畳半、十尺四方で、『維摩経(ゆいまきょう)』の一節によって定められている。

岡倉天心の『茶の本』は英語で書かれたもので、十尺四方は、ten feet squareと書かれています。十尺四方は、方丈とも書かれます。先の千利休の二畳敷きからすると四畳半ってどういうこと?ってなるかもですが、正解はこれ。

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灰色の部分は炉です。みてて感じるかもしれませんが、正方形というは、収まりが良くて静かなんです。動かない。

すごく今更ですが、A判の規格のもとになっている数列を編み出したのは、日本発ではなく、ドイツのヴィルヘルム・オストヴァルト(Wilhelm Ostwald

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Wilhelm Ostwald


黄金比と白銀比が意味するもの

黄金比の中に見る螺旋、黄金螺旋、白銀比にみる正方形。それぞれが内包する意味を桜井進氏は、著書『雪月花の数学』のなかでこう対比して説明しています。

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この違いは、フラワーアレンジメントと華道の小さな比率の差にも現れてきます。フラワーアレンジメントでは、3:5:8という比率を重視します。一方で華道では3:5:7。7と8だけの違いで、動と静、華やかさと簡素さという差が現れてきます。


美しさを追求する創作者が手を借りる比率

このようにして黄金比と白銀比は至るところに潜み、かつ作り手は、その比率に大いに利用します。こちらはジャック=ルイ・ダヴィッドの『レカミエ像』ですが、構図の美しさには黄金比が潜んでいます。

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わたしもデザインをするとき、日本らしさを含ませる際は、白銀比を使います。その他、フィボナッチ数列や黄金比も使いますが、動と静というニュアンスの違いも意識しています。

良いデザインの構成式

しかし黄金比、白銀比を使えば何でも美しくなるかといえば、成らないんですよ、これが。グラフィック、見た目の美しさを形成するのに数学的、普遍的な比率というのは重要なんですが、それですべてが事足りるわけではないんですよね。他に何が必要かと言うと曖昧ながら根源的な「コンセプト」(意図)です。加えて、時代の圧というものもあります。これはは持論ですが、美しさ、良きデザインは、このような構成になっていると考えています。

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美の基礎とは、黄金比などの基礎的基本的な美の構成要素です。時代圧というのは、大なり小なりの流行の反映です。この要素を小さくしていくほど時間のスクリーニングに耐えます。その一方で、時代が持つダイナミズムを反映した魅力が減ります。コンセプトは、そのデザインで伝えたいもの。格好いいもの、おしゃれなものをデザインで作るのは容易ですが、コンセプトがないとほとんと意味をなしません。この話は、今回のテーマとちょっとずれるのでこの辺で。別の機会で深く話したいと思います。

白銀比が潜む俳句

目に見える絵や建築のみならず、俳句にも白銀比は潜んでいます。

閑(しずか)さ や岩(いわ)にしみ入(い)る 蝉(せみ)の声(こえ)

松尾芭蕉の俳句ですが、ご存知のように575という文字数で構成されています。ここにも白銀比が潜んでいます。

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まとめ

良質なグラフィックデザインにはこのように数学が含まれていることが多々あります。デザイナーの提案のなかに数字や比率を見ることがあれば、この黄金比と白銀比の違いの知識があると微妙なニュアンスまで理解できて楽しい(というかより良いデザインの完成へ近づく)かもしれません。

また数字、数学というものが作り出すのは世界や哲学であることも興味深い視点となるかもしれません。

ちなみに書きそびれていましたが、白銀比のニュアンスの中に「実用」とありましたが、これは畳などの定型サイズがモジュールになっているからです。部屋の広さ、作りなど、モジュールとしての畳があるため、無駄なく設置できるものが多々あるんです。便利!あのル・コルビュジエもモジュールを作って建築物をデザインしていました。

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(画像引用:The Modulor: human closeness as a basic value


参考書籍

日本の文化にみる数字の不思議を知るには、この本がオススメです。




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