映画『OLD』にみる“書体で老化を表現した”オープニング
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
ナイト・シャラマン監督の映画『OLD』(2021)
『シックス・センス』のM・ナイト・シャマラン監督の2021年公開の映画『OLD』。異常なスピードで時間が流れ、急速に年老いていくという不可解な現象に見舞われてしまう一家の恐怖とサバイバルを描いたスリラーという内容です。
今回は、この映画のオープニングとエンディングに使われているタイポグラフィックな表現にフォーカスします。映画のネタバレはまったくありません。
歳を取る文字
あらすじからも分かる通り、わけもわからずに急速に歳を取っていく恐怖がこの映画の要です。小さな子供がどんどん大きなリ、大人たちは年老いていきます。この恐怖を示唆するのが映画のオープニングのタイポグラフィ。タイポグラフィというのは、文章を読みやすく見せるデザインの手法と、文字を構成要素としてデザインを作る手法の2つの意味をもつ言葉ですが、今回は後者の意味でのタイポグラフィです。文字が急速に年老いていく姿をどうやって見せているのか?
映画のオープニングには、配給会社などの表記が小さく表示され、それと同じ内容の文字を対象的に巨大にしてその一部を背景にしています。文字でデザインを作るというまさにタイポグラフィな表現です。
この文字が、最初はサンセリフになっています。サンセリフとは、日本でいうところの「ゴシック体」です。でもこの表現、実は「オルタネート・ゴシック」という書体名の省略から来ています。くわしくは、こちらの記事に書いています。とりあえず「サンセリフ」とはどういう書体かというとこのような書体です。
「サンセリフ」の意味は、「セリフがない」というもの。セリフとは、文字の端っこにあるうろこのようなもの。
そしてセリフがある書体は、セリフと言います。
アルファベットは、セリフ、つまりうろこのようなものがついている方がうずっと古い起源をもつ形で、それを取ってしまってサンセリフとなるのは20世紀も直前になってのことです。
セリフに比べるとサンセリフは、超絶若い書体の種類です。そんなサンセリフが、急速にセリフに変わっていくという描写は、この映画の「急速に年老いていく恐怖」を示唆するには、これ以上ないほどの明確な描写です。
現在(2022年6月)なら、アマゾンプライムビデオで見れますので、気になる方は、オープニングとエンディングだけでもチェックしていただけるとこの描写を動画でみることができます。
タイトルやポスターに使われている書体は“Gotham”
映画のオープニングのタイポグラフィの書体はちょっとなにかわからないのですが、映画のポスターやタイトルに使われている書体は、Gotham(ゴッサム)という書体です。
デザイナーは、アメリカの書体デザイナー、Tobias Frere-JonesとJesse Raganら。リリースは2000年。オバマ前大統領の選挙キャンペーンに使われたことが有名な書体です。
どのあたりがビジネスに使える話だったのか?
どのあたりがビジネスに使える話だったのかというと、まず日本人にはセリフとサンセリフの違いというものが体感的に欧米人たちに比べて疎い。しかしこの映画のオープニングにみるタイポグラフィは、新しい書体であるサンセリフから古い書体であるセリフへの変化で、若い人間が老人になっていくというニュアンスを示唆して、緊張感を与えています。そのニュアンスの体感は、欧文書体の基礎を簡単に、そして直截的に学ぶことができます。このあたりの感覚は、ビジネスで書体に接する際に役に立ってくるはずです。
まとめ
わたしたち日本人は、たぶんまだちょっと英語など欧文文化について疎いというディスアドバンテージを持っているようです。英語は話せたり、読めたりしても、書体の使い方や表記の仕方については、さらに疎く、翻訳者たちからくる原稿を弊社で直すということは頻繁にあります。なので、逆に欧文のルールやルーツについて知れば知るほど、得られるアドバンテージがあるというわけです。サンセリフとセリフの違いだけでも、けっこう使える知識になることでしょう。
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参照
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