欧文書体の種類を知ろう:サンセリフ編
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
欧文書体の大きなカテゴリ
欧文書体には4つのカテゴリがあります。
セリフ、サンセリフ、スクリプト、ディスプレイ。知識として抑えておきたいのは最初の3つです。ディスプレイについては添えるようにちょっと知識があればいいくらいです。
セリフって何かというとこの赤い部分。感じだと鱗(うろこ)と呼ばれる部分と似ています。
このセリフがついている書体をセリフ、セリフ体と言います。欧文書体の基本であり、起源に近い種類です。詳しくは前回書きました。
今回はサンセリフについて。このセリフが無い書体をサンセリフ(Sans Serif)といいます。Sansとはフランス語で「ない」という意味です。フランス語なので語尾についているsを発音せず、「サン」と読みます。
セリフがないのは気持ちが悪い
元来、セリフがあるのが普通でした。何世紀も。なので無いのは気持ちが悪い。紀元前からアルファベットに当然のようについていたセリフがない状態の文字は、セリフ体に慣れ親しんだ人々にとっては気持ちが悪い。それで、サンセリフ体のことを「グロテスク(Grotesque)」と呼んでいました。だって気持ちが悪いんだもの。
じゃあなんで、セリフを取っ払っちゃったサンセリフ体が出てきたのか、というと
目立つから
なので、広告や看板などに使う目的で生まれ、増えていきました。いつ生まれたのかというと19世紀後半です。普通の文字とは違う形なんで目立つ。目立って何がしたかったというと注目を得ること。だから広告、看板に使うために生まれたというわけです。
ちなみに日本語の「広告」という言葉が誕生したのも19世紀後半
こちらの記事によれば、日本で初めて「広告」という単語が出現したのは1872年の横浜新聞だったということです。
世界的に、なぜこの時代に広告が芽吹いたのかと言うと産業革命です。工業化が大量生産を可能にし、大量生産できるプロダクトを販売するために広告が重要になってきた経緯があります。
余談:昔からあったサンセリフ
サンセリフの登場は、こうした広告のニーズ、出現が背景にあるわけですが、いちおうそれいぜんにもセリフのない書体はありました。
By Sailko - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=51673403
これがセリフなしの書体の碑文です。古代エトルリアの碑文です。エトルリアとは、紀元前8世紀から紀元前1世紀ごろまでイタリア半島中部にあった都市国家群です。
NormanEinstein - Based on a map from The National Geographic Magazine Vol.173 No.6 June 1988., CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=241378による
こういうところにありました。「セリフつけるの面倒くさいよね」というニュアンスがこの古代のサンセリフには含まれています。粗野な文字とか非文明的な文字、と見れています。
このあたりを掘り出すと書体の研究という領域になるので、これ以上は彫りません。ここでつまびらかにしたいのは、欧文書体のおおまかな種類とサンセリフの存在意義。閑話休題、現代のサンセリフの起源に戻ります。
4種類のサンセリフ
広告のために生まれたサンセリフは、100年ちょっとという歴史のなかで4種類に増えていきます。グロテスク、ネオグロテスク、ジオメトリック、ヒューマニスティック。では歴史を追ってそれぞれを観ていきましょう。
Grotesque(グロテスク)
Akzidenz Grotesk
By Devanatha - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=60804158
これはアクチデンツ・グロテスクという書体です。1890年にデザインされたサンセリフです。ドイツのH. Berthold AGというところが世に出しました。
生まれたのサンセリフで、広告用と言っても過言ではない「粗さ」があります。もともとは最初のサンセリフにはイタリックや小文字がありませんでした。なぜなら読ませるというより魅せるの目的。
このAkzidenz Groteskのほか、グロテスクにカテゴライズされる書体には、News Gothic、Venus、Franklin Gothicなどがあります。
Neo-grotesque(ネオグロテスク)
Helvetica
By Dyfsunctional at English Wikipedia - Transferred from en.wikipedia to Commons., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2213357
みんな知ってるサンセリフ、Helvetica(ヘルベチカ)です。「スイスの」という意味で、誕生は1957年。日本では、GROOVISIONSというデザインファームが多用していたのが有名です。パナソニックのロゴもこの書体。
ネオグロテスクは、グロテスクとどう違うかというと、
ちゃんと読めるようにした。整えた。
というところ。目立てばいい!から、それは雑だし、美しくないし、読めないじゃん!ちゃんとしようよ!という委員長的な意識から洗練させたのがネオグロテスク。
ネオグロテスクにカテゴライズされる書体は、Helveticaのほかに、UniversやFolioがあります。
Geometric(ジオメトリック)
Futura
By Dyfsunctional at English Wikipedia - Transferred from en.wikipedia to Commons., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2213353
これはFuturaという書体で1927年、ドイツ生まれ。デザイナーは、Paul Renner。ルイ・ヴィトンのロゴもこの書体です。2020年11月に公開される映画『007 No time to die』のタイトルロゴもこの書体。Futuraについては、詳しくはこちらで書いています。
ジオメトリックとは「幾何学的」という意味です。直線や正円で書体をデザインしたらクールじゃないか!というのが創造企画の意図です。建築でいうとモダニズムに近いかもしれません。
機械的、未来的、非人間的、絶対美、というニュアンスがあります。ちょっとシニカルな言い方になりますが、タイプデザイナーではなく、グラフィックデザイナーがオリジナルの書体を作るとこのジオメトリックな書体になります。なぜなら先に述べたように直線と円で構成できるような気がするから。UNIQLOのロゴがそれに相当します。ただし、本当は直線と円じゃないんです。錯視なども考慮して微調整されているんです。Futuraも。シニカルな話は以上。
ジオメトリックには、他に、ITC Avant Grade(自転車のルイガノのロゴなどに使われています)、Gotham(オバマ前大統領のキャンペーンに使われました)、Avenir(Futuraと同じ「未来」という意味の書体。スターバックスで使われています)など。
Humanistic(ヒューマニスティック)
Syntax
By Blythwood - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=46670359
これはSyntaxという書体です。単にヒューマニストともいうことがあります。
これはジオメトリックの反動で生まれたとも言える「人間的な」サンセリフです。反動という意味では、建築でいうとポストモダン建築にちかい。人間みのあるサンセリフのほうが良くない!?と意図でデザインされたヒューマニスティックは、結果美しく洗練されながらも読みやすく、親しみやすさすらあったりします。
マーガレット・ハウエルのロゴにも疲れているGill Sansもヒューマニスティックです。東京の駅名のローマ字部分に使われてもいるFrutigerもそうです。
まとめ
以上、ざっくりではありますが、サンセリフの種類と誕生した経緯となります。生まれが浅いので、映画やドラマなどで、中世が舞台になのにこのサンセリフが出てくると台無しになってしまいます。なので、どの時代にどんな書体が使われていたのか、監修するひとが映画についていたりします。
わたしたちも企業や商品、本のデザインに書体を使うときにその背景や時代や意味などを多少は意識しないと「ちぐはぐ」なものをつくってしまうことがあるので知っておくと何かと便利な知識です。
次回は、スクリプトという書体の種類を紹介します。