ユニクロのロゴに無い「錯視調整」とは?
ビジネスに使えるデザインの話
デザイナーではない方に向けた、ビジネスに役立つデザインの話マガジン。グラフィックデザイン、書体から建築まで扱います。毎週火曜日7時に更新。
デザイナー以外はほとんど知らない「錯視調整」
これは、Futuraという書体の大文字のXです。Futuraは、幾何学的なサンセリフの代表的な書体です。サンセリフとは、いわゆる「ゴシック体」と日本では呼ばれているもので、文字の端っこにうろこみたいなものがない書体です。ちなみに「うろこみたいなもの」のことを「セリフ」と言います。サンセリフの「サン」は「無い」という意味で、セリフがない書体という意味です。セリフがあるとこんな感じ。
ちなみに、これはCaslon(カスロン)という書体です。さて、FuturaのXにもどって、幾何学的なだけあって、直線で構成されているように見えます。こんなのIllustratorがちょっと使えるならちゃちゃっと作れそうです。が、コーナーの部分を「ほんとうの」直線で結んでみましょう。
赤いのが「ほんとうの」直線です。これじゃちょっと分かりづらいですね。拡大してみます。
これくらいずれています。なぜか?これが錯視調整というものです。まず錯視(さくし)って何か?
錯視
錯視とは、実際と違って見えてしまうものです。わかっていても、実際とはことなって見えてしまうものです。有名な錯視の一つは、「ミュラー・リヤー錯視」。
真ん中の水平線は上下ともに同じ長さです。なのにどうしても上の方が長く見えてしまいます。(画像引用:Bulanco Swings「デザイナーが考慮すべき「錯視」のあれこれ」)
こちらは、エビングハウス錯視。(画像引用:Bulanco Swings「デザイナーが考慮すべき「錯視」のあれこれ」)6つの円に囲まれている真ん中の円は、左右とも同じ大きさなのですが、左のほうが大きく見えてしまいます。これが錯視です。このようなものが色や濃度や形で多々発生しています。
錯視調整
そんなわけで、グラフィックデザイナーたちは、この錯視をいろいろと調節して、違和感が生まれないようにしています。たとえば、完璧な円は、ちょっと横に伸びて見えてしまうんです。錯視で。
これじゃちょっとわからないかもです。でもまあちょっと横に伸びて見えてしまうんです。それをデザイナーは、すこーし細長くして、完璧な円に見えるようにしています。「美しい嘘」とも言える工夫をしているわけです。この錯視調整の好例は、現在のグーグルのロゴ。redditからの画像引用で、話題のグーグルのロゴの錯視調整を示したものがこちらになります。
「?」がついている部分が、錯視調整です。杓子定規に作れば簡単なんですが、それを違和感がなくなるように調節しているわけです。もちろん、これを杓子定規に本当の完璧な円で作ると歪んで見えてしまいます。
さて、冒頭に触れたユニクロのロゴですが、こちらは錯視調整がされていません。これについては、デザイナーの佐藤可士和さんは、「あえて錯視調整していない」と説明されているようです(※1)。
錯視調整されていないユニクロのロゴ
注意して観てみるとわかると思うのですが、UやQやOの直線部分とカーブの部分の接合部分に「がくん」とした違和感があります。これは錯視調整されていないため。現在もこのユニクロオリジナル書体で欧文が、ユニクロ商品のタグに使用されていますので、手にする機会があれば、読んでみてください。読みづらさを感じることができると思います。
わき道
佐藤可士和さんのこのロゴは、他の(その多くは無名の)デザイナーたちに大いに非難されてきました。実際、コンセプトが「美意識のある超合理性」でも、それとこの違和感は合致しない印象を受けます。しかし、わたしは「そんなの知ったこっちゃない」というのが私見です。わたしが頼まれて作ったものじゃないので。ユニクロがアサインして、佐藤可士和さんがデザインし、今も使われていて、ユニクロは世界的企業で有り続けています。このロゴデザインだけでみれば、瑕疵を感じますが、ではグローバル展開していて、ちょっと怖そうな柳井 正さんにプレゼンして、自分のデザインを通せるか、と問われば、わたしは正直ビビります。吐くほど緊張するでしょう。それをやれているのがすごい。だから是非はどうでも良い。
それでも、美しいか否かを問えば、美しくはないんですよね。しかし今回のテーマは、デザイナー以外はあまり知らない錯視調整そのものです。閑話休題。
まとめ
振り返ってみると、「わき道」で触れたことがけっこう重要で、錯視というものの存在とその調節を(勝手に陰ながら)努力をしているグラフィックデザイナーの美意識を伝えたいのが主旨ではありました。しかし、それ「も」一部です。企業体は、純利益が増え続ければいいし、株価は上がり続ければいい。デザイナーはそれをブランドづくりで支えれば良いわけですが、ロゴもデザインもブランディングもプロダクトも一部です。ロゴの瑕疵(と見えてしまう部分)も重要っちゃ重要ですが(細部に宿るものがあるから)、海外での展開も含めた提案をできる企画やプレゼン力も重要です。
それでもまあ「錯視」ってあるんですよー。それをちゃんとしたグラフィックデザイナーたちは、人知れずちゃんと調節しているんですよーって話でした。
参照
※1:note 「ユニクロ」ロゴ、何がすごいのか語ろう
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