CELINEはどんな書体を使っているのか?
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
ブランドと書体
ブランドはその思想や哲学、ニュアンスを伝えるために書体を上手に使っています。その好例をブランドごとに紹介していきます。
CELINEってどんなブランド?
CELINE(セリーヌ)は、1945年にセリーヌ・ヴィピアナ(Céline Vipiana)氏と夫のリチャード(Richard)氏がオーダーメイドの子供靴事業としてセリーヌを創業したのが始まり。当時レイモン・パイネ(Raymont Peynet)氏が作った赤い象のロゴでブランドが認識されました。1960年代以降、成人女性向けの服、バッグ、アクセサリーなどにも進出していきます。1967年からプレタポルテ(Ready to wear、既製服)コレクションを開始。1996年にLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)傘下となり、1997年にチーフデザイナーとしてマイケル・コース(Michael Kors)氏を迎え入れ、以降世界的名門ブランドとして認知されていきます。2015年11月より本社をパリ2区ヴィヴィアン通り16番地にある、コルベール・ド・トルスィー館(Hôtel Colbert de Torcy)に置いています。
ディレクター変遷
1945–1997 セリーヌ・ヴィピアナ(創業者)
1988– ペギー・フイン・キン(Peggy Huynh Kinh)
1997– マイケル・コース(Michael Kors)
2005- ロベルト・メニケッティ(Roberto Menichetti)
2006- イヴァナ・オマジック(Ivana Omazic)
2015–2017 フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)
2018– エディ・スリマン(Hedi Slimane)
ロゴの変遷
1973年にデザインされたCelineのロゴは、サンセリフ体で組まれたワードマークとエンブレムで構成されたものでした。ワードマークの文字間は狭い。エンブレムは右から左へ移動する馬車と御者の男性が描かれています。
1990年にロゴはリニューアルされます。Helveticaに近いサンセリフ体で構成されたワードマークになっています。文字間はうってかわってかなり広くなっています。
2012年にロゴはリニューアルされ、「E」の文字の上にアキュート・アクセントが加わりました。以前のものより文字は太くなり、文字間は適度に詰められ、バランスがよくなっています。書体はFuturaに少し近く、しかしNやCなどは大きく異なっています。
エディ・スリマン氏がディレクターに就任した2018年にロゴはまた刷新され、アキュート・アクセントが取り除かれ、文字間はさらに詰められ、幾何学的な気配が色濃くなっています。ベースになっている書体はSemplicita。
CELINEは、どんな書体を使っているのか?
2005年、CELINEは書体デザイナーのハネス・ファミラ(Hannes Famira)氏に、カスタム書体の制作を依頼しました。そのベースとして選ばれたのがSemplicità(1931年)でした。“Semplicità”はとは、イタリア語で「シンプル」を意味する言葉です。この書体は、幾何学的なサンセリフ体で、1928年頃からイタリア・トリノのNebiolo活字鋳造所で作られました。この時代は、Erbar(1922)から始まり、Kabel(1927)やFutura(1927)などの幾何学的なサンセリフ体が生まれ、人気を博していた時代です。
しかしながら、Semplicitàは、古典的なモデルに倣った角のある「U」や、ベースラインより下に下がる「f」など、いくつかのかわった特徴を持っています。 これらの特徴によって、Semplicitàは、1930年前後当時の派手でモダニズムなアールデコ系のように捉えられています。
ハネス・ファミラ氏が新しい書体のために提供されたSemplicitàのサンプルは、ズームインしてみるとかなり粗く、ファミラ氏はこれを広く解釈できるものとして捉え、制作に入りました。
ファミラ氏が制作したCelineの書体
現在のCelineの書体
先のファミラ氏が作ったコーポレート書体は2005年に制作されていますが、現在、Celineはウェブサイトなどで使っている書体は、Neue Haas Grotesk(ノイエハースグロテスク)です。Neue Haas Groteskは、Helveticaのもともの名前ですが、フォントとしては、いくつかの文字(Rなど)に別バージョンがあるのが、Helveticaとの主な違いです(ほぼ同じ書体だと思って良いでしょう。)
エディ・スリマン氏就任と時を同じくして変わったロゴがHelveticaに近いこともあり、おそらくそのときコーポレート書体もNeue Haas Groteskに変更されたのではないでしょうか。
何を読み取れるのか?
基本書体が、Neue Haas Grotesk(Helvetica)なうえにウェブサイトは工業的記録かのようなそっけないレイアウト。使われすぎていくぶんやぼったさを感じるHelveticaをキャッチフレーズに使い、モノクロを多用した広告を展開していく……。その他、広告や店内のディスプレイなども含めて、スリマン以降、Celineはすごくマスキュリン(男っぽい)ビジュアル展開をしています。しかし幾何学的ではないHelveticaを使うことで、ちょっと変わった丸さ(なんなら中性的な気配)もあります。ロックなエディ・スリマンぶしとも言える気配とCelineが持っている女性性をスリマンよりに合わせたイメージ。
しかし書体、モノクロorカラーは徹底されず場面によって違うものが使われれています。なのにエディ・スリマンらしさは徹頭徹尾損なわれていません。
Celineは、エディ・スリマン氏がディレクターになったことで、奇妙な色気を増したように感じます。
使っている書体からわたしが読み取るのは、
ロックなのに中性的。中性的なのにアグレッシブに色っぽい。レガシーよりも今にフォーカスした気配と大胆さ。ラグジュアリーブランドですが、大きなロゴを使ったものが多かったりします。逆張りしたうえでバランスが良いのがエディ・スリマン氏のすごいところ。書体からだけではありませんが、Celineが使う書体やロゴの変化からは、そんなことを感じました。