物語をのせる”古くて豪華な” 活版印刷とは!?
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
活版印刷とは?
名刺などの印刷物を手にしたとき、印刷された部分が少し凹んでいるものをみたことや触れたことがあることはありませんか? それは「活版印刷(かっぱんいんさつ)」という印刷手法で刷られたものです。デザイナーやイン査察関係者ではなければ、印刷の違いについて詳しい方は少ないのではないでしょうか?印刷の手法にはいくつかあるのですが(たとえば凸版印刷と凹版印刷など)、今回はそのすべての説明は端折って、現在一般的な印刷と、今回ご紹介する活版印刷についてのみ触れていきます。
現在の普通の印刷はオフセット印刷
印刷のスタンダードは変わり続けているのですが、ざっくりいうと「普通の印刷」はオフセット印刷というものになります。オフセット印刷とは、データを使って版(はん)を作り、その版に1種類のインクを塗り、それが紙に乗って印刷する印刷技術です。しかし版と紙は直接は触れず、版はまずブランケットというインクが付くドラムに触れます。このドラムが今度は紙に触れて印刷されます。このように版と紙が直接触れ合わないので「オフセット(Offset)」印刷といいます。
ひとつのドラムで1つのインキのみ印刷されるので、フルカラーの場合は、C(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)、K(キープレート:黒)の4つの版とドラムをつかって印刷されます。この4色があれば、掛け合わせてフルカラーの再現できるからです。
この印刷技術が確立されたのは1875年頃。版の作り方などさまざまな点で進化していますが、現在も大量の印刷をする場合は、このオフセット印刷で印刷するのが一般的です。
オンデマンドって?
印刷する機会がある方には、オフセット印刷のほかに「オンデマンド」という言葉にふれることがあるでしょう。これはプリンタのようにプリントする技術で版を必要としません。最近はこのオンデマンドが進化しており、オンデマンドのデメリットだった印刷の粗さが解消されつつあります。
活版印刷とはどんな印刷なのか?
では、オフセット印刷に比べて活版印刷とはどういうものなのでしょうか?まず活版印刷は版と紙が直接触れます。この版はデータによって作られるのではなく、活字によって組まれて作られます。なので組版(くみはん)と呼ばれます。では活字とは何なのでしょうか?
活字
活字とは、このように金属で一文字ずつ作られた文字の型です。文字の部分が凸になっており、これで印刷するので、活版印刷は凸版印刷(とっぱん)でもあります。凸版印刷は出っ張った部分(凸)で印刷する印刷技法です。では凹版印刷はというと、凹んだ部分で印刷する印刷技法です。凹んだ部分にインキを含め、その他の面を綺麗に拭き取り、印刷するのが凹版印刷です。銅版印刷がこれに相当します。
活字は、英語だとmovable typeと呼びます。「動かせる文字」ということでわかりやすいですよね。なんと活版印刷は、これらの活字を印刷のために手作業で組んで版を作るわけです。わたしたちは現在気軽に文字をパソコンでぱちぱち打ったりしてそれをプリンターでプリントできるわけですが、活版印刷の場合は、一文字ずつ組み、何もないところにも印刷されない金属をはめ込み、版を作って印刷します。アルファベットなら少なくのですが、日本語だと漢字があるので大変です。
文字は大きさも変わってくるわけで、多さごとに文字が存在しています。また同じ文字を1ページのなかに何度も使うので、その分の活字が必要になってきます。ものすごーーーーく大変なのがこの活版印刷です。動画がありますので、その様子をみてみてください。
活版印刷の良さ
現在でも活版印刷は存在しています。つまり活版印刷をする印刷の専門家や印刷所があります。手間暇、技術を鑑みるともちろんオフセット印刷よりずっとコストがかかります。ではなぜ活版印刷はいまなお存在し、活用されるのでしょうか。それはひとことでいうと「リアル」だからです。
腕時計にはクォーツなりデジタルなり、安価で正確な時刻を表示してくれるものがあるのに、今でもオートマチック(自動手巻き)のものが販売されています。自動手巻きとは、身につけていることで勝手にゼンマイが巻かれるもの。職人の高度な技を必要とします。
今ならスマートウォッチのほうがだんぜん便利ですし、電波時計の機能があれば、狂うこともありません。なのにこんな手のこんだ代物が好まれ、使われ続けています。理由は、ステータス誇示もありますが、その魅力は「職人が実際に自分たちの手を使い、長い月日で習得した技術を使って組み上げ完成させたものであること」にあります。技術の習得という人間が実際に費やした時間や意志とその結果、これが「リアル」という言葉が含むものです。
これと同じ種類のものが、活版印刷にあります。紙を押す版。人の出てじっさいに組まれた活字。そこには成果物の背後に人間を感じるものがあります。(オフセット印刷だって人が印刷しているんですけど。)
高い技術の活版印刷は凹まない
活版印刷の特徴として印刷されている部分が凹んでいる、と冒頭で説明しました。しかし活版印刷の職人さんらと話をしていると昔はそういう紙を凹ますような印刷は質が低いとみなされていました。スムーズに読みにくいし、裏面にも反映してしまうからです。
現代では、せっかく活版印刷を使って(つまりオフセット印刷よりずっと高い印刷費をかけて)いるのに、それとわかられないのはもったいない。ということで紙を凹ませるほど強く印刷することのほうが多いんです。
凹ませず、印刷部分もかすれさせず……というのが高度な活版印刷なのですが、そうすると審美眼があるひとたちにしか伝わらないかもしれないわけです。なやましい。
と悩むことも実は無くて、凹ませるか否かは、どれくらい伝えたいかによって判断できます。ロゴの付いたラグジュアリーブランドを着るか外には見えない下着にラグジュアリーブランドを選ぶか、のようなもの。わかられなくても良いものを使ってたい、分かる人にだけわかってもらえればいい、という域なら凹ませず、活版印刷なんだから!と伝えたい場合は凹ませたら良いわけです。広告物、名刺などではそういう意味ではきっちり凹みがある印刷のほうが良いでしょう。
でもラペルみたいな高価な下着を身につける喜びもあるわけで、それを楽しむなら人知れず高いレベルの凹まない活版印刷を選択するのもとても素敵なわけです。
まとめ
活版印刷は英語でいうと「Letterpress」といいます。わかりやすいですよね、英語のほうが(笑)。「文字を押す」という動的な名刺です。活版印刷の魅力を「リアル」と説明しましたが、このリアルさが伝えるのは「人間」です。一人の人間が人生の一部をかけて習得し、習得した技術を使って完成させる。それが「紙の乗る」というのは、物語がそこに含まれるということでもあります。
活版印刷で名刺や印刷物を作りたい!と思うことがあれば、弊社で請け負っておりますので、なにとぞご連絡ください。(TwitterでDMください!)
参照
https://ja.wikipedia.org/wiki/CMYK