クリスチャン・ディオール展の書体と空間造形のひみつ(DINと重松象平氏)
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています(最近サボっているけれど本当は書きたい…)。
クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ 展示会
現在(2023年3月9日)、清澄白河にある東京都現代美術館で開催されている「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」という展示会があります。
クリスチャン・ディオールの創設者、クリスチャン・ディオールその人とブランドとしてのディオールの両方にフォーカスし、余す所なく(と言いたくなるほど)その膨大な情報量をアミューズメントにまで昇華した空間造形のなかで浴びることができる展示会です。
激混みでチケットを予約して見に行かないと当日券はなかなか手に入らない人気ぶりです。(2023年5月28日まで開催されています。)
今回は、この展示会で使われている書体と観覧者を魅了する空間造形の両方を深堀りして(それでもできるだけ簡潔に)紹介したいと思います。
展示会で使われている書体DIN
この展示会のポスターやウェブサイトで使われいるイベントタイトルロゴは、ずいぶん現代的に見える欧文書体が使われていますが、これはDIN(ディン)という書体です。DIN 1451 EngSchrift。※EngSchriftは、ドイツ語で「Condensed」つまり「横に圧縮した縦長の」という意味です。
この書体は、今現在とても人気でいたるところに使われています。(なんとなく日本で特に人気な気がします。)たとえば、東京オリンピックのロゴ。
ちょっと無機質に見えるこの書体は、日本で言うところのJISのような、ドイツの工業規格であるDINに登録された書体で、それでDINと呼ばれています。もともとはDIN 1451 という名前でした。以前はドイツのナンバープレートや高速道路の表示に使われていました。ちゃんと視認できる書体として工業規格で認められた書体だったわけです。
このちょっと冷たいけれど見やすい書体は、日本だけでなく世界中で人気で例えば映画のタイトルや中でもよく使われています。
さらにDINについて詳しくしりたいかたはこちらの記事でもう少し詳しく書きました。
DINという書体の良いところは、現代的で無機質であるが、何色にでもそまれるところです。主体を邪魔しないとも言えます。ところが……
わかりそうでわからない展示に使われている書体
展示のなかで使われていたこの書体、何かわからないです。面目ない。タイトルで「ひみつ」とか言っておいて。あれかなー、これかなーと30分以上かかってしまったので諦めました。ディンセンダーがかなり短いし、ターミナルは水平だけれど、DINでもHelveticaでもないし……。しかしですね、欧文組版がちゃんとしていることはわかります。
イタリック体の使い方と合字(ごうじ)なるものについてはこちらで詳しく紹介しています。
日本語書体は源ノ角ゴシック
日本語の説明文には、源ノ角ゴシックが使われていました。この書体は、2014年にリリースされたAdobeがGoogleと共同開発したオープンソースのPan-CJK(汎-中日韓)フォントファミリー。
書体とクリスチャン・ディオール
展示会で使われている書体は、クリスチャン・ディオールそのひとにもブランドにも直接的な関わりのあるのではありません。ディオールのウェブサイトでは欧文書体はCentury Gothic(センチュリーゴシック)が使われています。
しかし個性は弱いが完成度と人気の高い書体を使って展示会そのものへの注目を阻害しない、それどころか欧文組版(欧文を組むときのルール)に則った文字組みをしていました。
雑に言うと「すごくちゃんとしている」。
クリスチャン・ディオール展の空間造形
クリスチャン・ディオール展は、空間造形がすごく、これが膨大な情報量をエンターテイメントたらしめています。この空間造形を担ったのは、日本人の建築家、重松象平氏。
重松氏は、日本の展示会のみならず、アメリカのデンバーとダラスの会場デザインも担当しています。展示会の空間造形を構成するに当たり、クリスチャン・ディオールの展示内容と奥深く呼応しています。上記の写真(2つ目の展示室)では、徳島県の手漉き和紙を使って日本らしさとクリスチャン・ディオールのデザインにある有機性を融合させています。
圧倒されるような夜会服の展示には、背中部分も見えるように大きな鏡が使われているのですが、これはなんとストレッチする素材で作られています。
クリスチャン・ディオールは幼少時、植物が好きで図鑑を暗記するほどだったのですが、その植物好きな姿勢が彼のデザインには数多く反映されており、そのエピソードを重松氏は、ミス・ディオールの庭で幻想的に表現しています。
重松象平の建築
モダニズム建築と脱構造主義に日本的な有機が混在したデザインに見えます。重松氏は2025年竣工予定の原宿クエスト」の設計をしています。
まとめ
クリスチャン・ディオールについて詳しければ詳しいほど、この展示会は楽しめる内容になっています。しかし今回はもっと表層的な部分を切り口としてみました。展示場に入って最初に目につくタイトルの書体と空間造形。これがDINか、空間造形は重松象平さんって人かーというパーツに注目しても楽しめるのではないかと思いまして。ちなみに会場になっている東京現代美術館のロゴは、資生堂関係のデザインでも大いに活躍されていた仲條正義氏によるデザイン。
仲條氏は2021年に惜しくも肝臓がんで死去していています。覚えておきたいグラフィックデザイナーとしてこちらで彼については詳しく書いています。