英国生まれカナダ育ち? Baskervilleという書体
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています。
シャーロック・ホームズの『バスカヴィル家の犬』
BBCで現代版にリメイクされたドラマが人気を博していたこともあり、シャーロック・ホームズの物語は「古典」に収められず、人気を保ち続けているように思います。そんなホームズシリーズのなかに『バスカヴィル家の犬』という話があります。原題は“The Hound of the Baskervilles”。
ベネディクト・カンバーバッチ主演のドラマでも、ベースになったエピソードがあり、そのときのタイトルは「The Hounds of Baskerville」(バスカヴィルの犬たち)。
この小説と同じ名前の書体があります。
Baskerville(バスカヴィル)という書体
書体名:Baskerville(バスカヴィル)
分類:セリフ体
カテゴリ:トランジショナル・セリフ
デザイナー:John Baskerville(ジョン・バスカヴィル)
ファウンダリー:G. Peignot et Fils
バスカヴィルは、1750年代にイギリスのバーミンガムでジョン・バスカヴィル(1706-1775)がデザインした書体です。分類は「セリフ体」。日本でいうところの「明朝体」です。
ちょっとマニアックな「トランジショナル」という分類
このバスカヴィルという書体は、書体好きにとっては有名な書体で、その理由はセリフ体を分類するときに
「オールドスタイル」(Old-style)
「トランジショナル」(Transitional)
「ディドネ」(Didone)
「スラブセリフ」(Slab serif)
という具合に分けられるのですが、2番めの「トランジショナル」の代表的な書体が、このBaskerville(バスカヴィル)なんです。
オールドスタイルは文字通り、古いタイプのローマ字です。たとえばAdobe Garamond(アドビ版のギャラモン)は、ここに分類されます。その特徴は文字のコントラストが弱め、オー(O)のなかなどの円が左に傾いていることです。
こういう形から徐々に印刷技術の進歩も手伝ってコントラストがだんだん強くなってきます。そして「O」(オー)の中の円は垂直になっていきます。そして行き着く先が、雑誌の『Vogue』や『ELLE』のタイトルロゴに使用されているDidone(ディドネ)という分類のセリフ体です。
トランジッショナルとは「過渡期」という意味
この途中にあるのが、過渡期(トランジッショナル)に分類されるセリフ体です。オールドスタイルよりはコントラストが強いけれど、ディドネほどは強くない…。バスカヴィルは、このトランジッショナルの代表的な書体のひとつです。広まった時代は18世紀なかばから19世紀初頭。
『バスカヴィル家の犬』では書体が謎を解き明かす……
『バスカヴィル家の犬』に、書体のバスカヴィルは出てきません。しかし奇しくも、この推理小説では書体が謎解きの鍵になる一場面があります。バスカヴィル家に脅迫する手紙が届くのですが、これは新聞の切り抜きを貼ってつくられたものでした。これを見たシャーロック・ホームズは、その書体から新聞が『タイムズ』であることを見抜きます。そして『タイムズ』を読むということは犯人は「インテリ層だ!」と推理していきます……。
ちなみにTimes Romanという『タイムズ』のための書体がありますが、この時代ではこの書体は使われていません。
ところで実は、Times New Romanという書体もトランジッショナルに分類される書体だったりします。
Baskervilleの使われ方
カナダのワードマーク
1965年にカナダへの観光を促進するためにデザインされたこのワードマークは、その後1980年にカナダ政府の公式ロゴとして採用され、すべての公式標識や広告に表示されています。このワードマークは、Baskerville Old Faceをカスタマイズして、細いストロークを太くしたものを使用しており、小文字のdのアセンダからカナダの国旗がぶら下がっています。
カタルーニャの伝統的な祭りのポスター
カタルーニャのポスターなのですが、使われている書体がゴシック体(サンセリフ体)がGill Sansで、セリフ体がバスカヴィルと、どちらも英国の代表的な書体です。
ファッションブロガーのCHELOのフライヤー
まとめ
バスカヴィルは、18世紀にデザインされた書体ながら、トランジショナルな書体であることと完成度が高く、洗練されているためか、現代においてよく使われる書体です。
わたしのなかでは、英国らしいと感じていますが、使われ方は英国らしさに関係なく、使われることが多くあります。セリフ体だけれど、洗練されており、ディドネのようにやりすぎていない抑制が効いたデザインなことが、この人気の理由のひとつでしょう。
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https://note.com/shijimiota/n/nadd3bc6da1a7
参照
※1
https://www.dynacw.co.jp/fontstory/fontstory_detail.aspx?s=502
※2