ペーカリーコーナーのアイツ
いつものスーパーに入って、少し歩くと、ベーカリーコーナーにアイツがいる。
いつもいるんだ。
私が見ないようにしていても、アイツは堂々としている。こちらを見てくる。
しかも隣に兄弟がいて、みんなでこちらをじっと見つめてくるのだ。
そして、いつも私はアイツらを見て、一度立ち止まって、目を合わせて、それから立ち去る。これ以上の行動をとったことなんてなかった。
しかし、今日は違った。
スーパーに入るや否やベーカリーコーナーへ行き、トレイとトングを手に取る。そして、いつもは一目見て過ぎ去るのに、今日はアイツと数秒見つめあった。
兄弟がとなりで声を掛けてくるが、そんなの気にしなかった。今日はアイツって決めたんだ。
会計時に、店員さんは茶色のオシャレ紙袋にアイツを入れた。お家に帰って、様子を確認したら、やはり頭がはげてしまっていた。紙袋システムは仕方ない。
アイツは、カヌレのような形をして、全身真っ黒に日焼けしている。
兄弟は、白くお化粧している姉と、砂遊びしすぎちゃった弟みたいだ。アイツも日焼けする前はこのような肌の色だったんかな。
コーヒーとアイツはとんでもなくお似合いで、見ているだけでも幸せな気持ちになった。さらに、想像以上のおいしさであった。
気になるアイツに手を伸ばしたおはなし。