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“⚫⚫志望”と宣言することの大切さはナイナイのオールナイトで学んだ

(注)私のあやふやな記憶や推測を基に書いているため、一部事実とは異なることがあるかもしれません。

ずいぶん前になるが、私は、ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』のヘビーリスナー(毎週欠かさずよく聴く人のこと)だった。

そこでは、各コーナー毎にお題があり、“ハガキ職人”と呼ばれる人たちが1つのお題に対して1ネタをハガキ1枚に書いて応募し、番組内でナイナイに読まれるネタの数を競いあっていた。

ネタが1回採用される毎に1ポイント加算され、3ヶ月経つと、ポイント数の順位が発表されていた。

当時、断トツでネタが上手かったのが、ラジオネーム“エンタ”氏だった。以下、氏を省略して書いていく。

彼がどれ程上手いかと言うと、3ヶ月毎の順位が、
第5位 ⚫⚫ 12ポイント
第4位 ⬛⬛ 13ポイント
第3位 ▲▲ 23ポイント
第2位 ◎◎ 40ポイント
第1位 エンタ 80ポイント
という具合に、群を抜いていたことからも明らかだった。

ところで、ナイナイは、ラジオの中でたまに、
「作家志望の子は、ハガキに“作家志望”って書いてね。」
と言っていた。

ここで言う“作家”とは、ラジオ番組の構成作家をいう。

それを機に幾人かのハガキ職人が、ラジオネームの下に“作家志望”と書くようになり、実際そこから何人かが番組の構成作家として雇われることとなった。

しかし、エンタは、ラジオネームの下に“山口大学4年”と書くばかりだったので、エンタのネタが読まれるときは、ナイナイは、“エンタ(山口大学4年)”と呼んでいた。

1つのお題に対して何回もネタを投稿しても良かったので、山口大学のエンタは卒業が近づくと、ネタの投稿数が加速度的に増え、ナイナイはそんなエンタに称賛を送るとともに、
「エンタは国立大生ですからね~。(おそらく)今、大学の単位もほとんど取って就職先も決まり、ネタを考える時間があるんでしょうね~。」
と推測してみせた。

3月末、番組のネタの採用は、ほぼエンタで埋めつくされた。

ところが、4月になると、エンタのネタが1通も読まれなくなった。

エンタは、1通もネタを応募しなくなっていたのだ。

忽然と、エンタは消えたのだ。

ナイナイも始めは番組内でそのことに触れていなかったが、2ヶ月目になると、
「エンタは就職して忙しいのかな~?」
と、1ハガキ職人の名前を全国放送のラジオで出して、エンタに呼び掛けた。

エンタからは何の反応もなかった。

不安になってきたナイナイは、
「エンタ~、忙しいとは思うけど、元気にやってるかどうかだけでもいいから、連絡ください!」
と呼び掛けた。

すると、番組宛てに、丁寧な文体でエンタから返事が送られてきた。そこには、

「4月から東京に出てきて、今はシナリオ作家養成講座に通っています。」
と書かれていた。

「元気なんだな。東京にいるんだな。シナリオ作家になりたかったのか。こっちの世界に来てるんだな。」
とナイナイは一つ一つ噛みしめるようにして読み上げ、喜んだ。

ここからは、私の推測である。

エンタは元々、ナイナイのラジオ番組の構成作家志望だったのではないか。

しかし、何らかの理由で、ラジオネームの下に“作家志望”とは書かなかった。

それは、ナイナイの言葉を聞き逃していたのか、自信がなかったのか、それ以外に何か思うところがあったのか。

エンタは、3月まで、番組から構成作家として声がかかることを待っていた。でも、声がかからなかった。

「採用されたネタ数は断トツだけれど、一つ一つのネタの完成度が低く、構成作家としてはイマイチ。」
と番組のプロデューサーは判断したと、エンタは思い込んでしまったのではないか。

実際、採用されたネタ数が少なくても、作家志望とハガキに書かなくても、番組から声がかかり構成作家として働き始めた者もいた。

一方で私は、ナイナイも、プロデューサーも、山口大学4年のエンタに声を掛けなかった理由は痛いほどわかる。

ナイナイは、第二次ベビーブームの頃に生まれた世代のため、常々、
「うちらの大学入試の頃なんて、偏差値がいちばん下の大学も受からなかった。どっこも入れてくれなかった。」
と言っていた。

だから、国立大に通うエンタはエリートであり、就職先も安定したところだろうから、そんな未来を約束されたエンタを、こちらの業界に引きずりこむのはいかがなものかと、ナイナイもプロデューサーも躊躇したのではないか。

すべては、私の勝手な推測である。

エンタは始めからシナリオライター志望だっただけかもしれないが。

でも、私は、ここから勝手に学んだのである。

志望していることは、はっきり志望していると宣言しましょう。

それを誰かが見ていて、声を掛けてくれることがあるかもしれないのだから。

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椎良麻喜|物書き(グルテンフリー/小説/エッセイ/写真)
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