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【小説】久しぶりに、靴下に穴があいた|いつも靴下に穴があいていた

今朝、靴下を履いてしばらくすると、穴があいた。

そう言えば、靴下に穴があくなんていつ振りだろうか。

去年の春から、会社の業務が100%テレワークになった。

そのため、洋服代・化粧代・交際費・食費が随分かからなくなった。

日本の経済は心配だが、家庭の支出が減ったり、健康的な食事をするようになったりして、それらは純粋に嬉しい。

でも、去年から今年にかけて、靴下に穴があいていなかったなんて、今しがた穴があくまで全然気がつかなかった。

靴下に穴があかなくなったということは、出勤や遊びで外出するのが激減したためだろう。

言い換えると、ここ1年以上、まともに運動をしていなかったってことだ。

これからは意識して、靴下に穴があくくらい、散歩やジョギングをしてみよう。雨の日は、家の中で足踏み運動をしてみよう。

* * *

穴があいた靴下をまじまじと見つめた。

去年の春から、会社の業務が100%テレワークになった。

洋服代や化粧代にお金をほとんど使わなくなった。

外出する機会が減って、身だしなみにこだわらなくなったからだ。その分、貯金が増えて嬉しい。

たまに、リモート会議に出席するが、足元を見られる心配がないから、靴下は穴があいたままだ。

部屋を見回した。鏡に映る顔を見た。なんだか浮かない顔をしていた。

よし、気分転換だ。通販で靴下を頼もう。

* * *

親友とリモートカメラを使いながら、電話で話した。お互い顔を見るのは1ヶ月振りだ。

「なんか元気そうだね」

「そっちこそ」

「なんか良いことあった?」

「ジョギングや散歩を日課にし始めたんだ。いつまで続くか分からないけれど。そっちは?」

「靴下を思い切って処分して、買い換えた」

「……それだけ?」

「それだけだよ」

「それだけで、そんなに明るくなるの?」

「明るくなった?」

「全然、顔色が違う。明るいよ。そういうわたしも、久しぶりに靴下を買った。ずっと穴があかなかったのに、ジョギングや散歩をしたら、すぐに穴があいたから」

「なんか新しい靴下っていいよね?」

「あたしもそう思う」

「履いた後はちゃんと洗濯しているのに、買ったばかりの靴下って、それよりももっと気持ちいい」

「そうそう」

「それに、穴があいたままずっと履いていたから、知らず知らずのうちに気持ちが荒んでいたのかも」

「穴があいたままだったんだ?」

「うん。そっちはどんな靴下を買った?」

「せーので見せようか?」

「じゃあ、せーの!」

わたしたちの靴下はどちらも、よくあるようなただの真っ白な靴下だった。

でも、二人ともしばらく笑い転げてしまった。

それは、座ったままの無理な態勢で、片足を顔の近くまであげたポーズが、カメラ越しにおかしく映っていたからだろう。

これは、ワコール『#下着でプチハッピー』(2021年春)の応募ストーリーです。

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