ひとりそたぶ693 車(4回目)
693回目は「車」です。4回目です。
ではご覧下さい。
孤独なスメル
コント/EV
妻と話し合って環境にやさしいEV車を買う事に決めた。それから懸命に働き、ようやく車の頭金を出せる程金が貯まった。
近所のディーラー格安で販売していると聞いたので見てみる事にした。どんな車があるのか期待を膨らませ娘と一緒に店に行った。
そこには驚愕の光景が広がっていた。どっからどう見ても可愛らしい茶色のウサギの様な、猫の様なふわふわとしたつぶらな瞳の体毛の持ち主が居た。
ポケモンのイーブイだった。
店長の顔を見たら「自分何か間違ってますか?」ってこちらに向かって笑みを浮かべていた。違う違うそうじゃない。
カタログを見た時、妻は「どうせなら可愛らしいのが欲しいわね」って言ったけども。
娘はイーブイを見るなり「お父さん、この子欲しい!!」って黄色い声を上げた。そして一匹を抱きかかえて俺の方に寄って来た。
「おやお目が高いですね。そのイーブイは珍しいメスでしっぽがハートになってて特にキュートなんですよ」と店長。
娘はメスのイーブイを抱きかかえモフモフしていた。これで買わないなんて言ったら俺は何という酷い父親なのだと思わされた。
「電気自動車だと思ってここに来たんですけど……」そう尋ねると店長が雷の石を持ってきた。
あーはいはい。サンダースに進化すれば電気タイプになるし素早さも上がるからね~ってバカ野郎。
何だかんだで結局娘のお願いを無碍にする事は出来ずそのイーブイは我が家の子になった。雷の石は別料金だったから丁重に断った。
怒られるかと思ってビクビクしながら家に帰ると妻は娘と同じ様なリアクションで声を上げ、抱きかかえてモフモフしてた。
娘も「これは私のなの~」と言って手元に引き寄せた。結果オーライだろう。
車を買うつもりだったので試しに近くの公園を走らせてみた。それなりには早かったがやっぱり車程じゃない。
30分もするとバテたのか水道の水をゴクゴクと飲んでいた。確かに走るし環境には配慮されてるから間違っては無いのだが。
車として買ったのだからせめて乗れはしないだろうかと思った。我ながらひどい飼い主だと思った。
「乗れるの?」と尋ねたらイーブイは前足を首の辺りにドンと置いた。自信満々の彼女の顔とは裏腹に果てしなく嫌な予感しかしなかった。
なので試しに娘を乗せてみた。案の定「ブ」以外にも濁点が付く様な鳴き声で倒れた。無理させてごめんなイーブイ。
車検が通るか心配だったが、「イーブイは保健所じゃない?」と妻の一言でハッとした。
あれから時は流れてイーブイは大きくなった。進化とかキョダイマックスではなくただ丸々と大きくなった。
家の中で飼っていたが大きくなり過ぎたので車を置くスペースだった車庫で飼っている。
しかしその位の大きさなので家族三人乗っても問題が無かった。ただ大きくなり過ぎてスピードは遅いのだが。
さあ新車を買おうとしているそこの貴方、可愛くて環境にも優しいイーブイ。一家に一匹如何ですか?
客「いや買わんわ」