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エッセイ | 生きるって楽しいよ

生後2か月の双子妹ちゃんが笑った。

彼女はまだ、何もできない。
ミルクを飲んで眠って、少しの間目を開けて回りを観察し、手足をばたつかせ、泣いてまたミルクを欲しがる。そういう存在だ。

今日も、たっぷり飲んでもすぐには寝つかずぐずった彼女を、私は再び抱き上げた。
三角座りをした自分の腿に乗せ、顔を覗き込んで笑いかけた。

「どうしたの?眠くないの?」

すると彼女は、最近ようやく少し出せるようになったつたない声で「へうー」と返事をした。なんと無垢で愛らしい声だろう。
私は嬉しくなって更に話しかけた。

「うんうん、そうだねぇ。いい声が出たねぇ」

深い意味のない相槌。けれどじっと母の目を見つめ返した彼女は、それからにこっと笑ったのだ。
つやつやのちいさな唇を開いて、ミルクで白くなった舌を覗かせて。

その笑顔があんまりにも可愛くて、私はほとんど思考を介さずにこう言った。

「いいね、楽しそうだね。そうだよ、生きるって楽しいよ」

生きるって楽しいよ。
そんな言葉が咄嗟に零れた自分に驚いた。と同時に、それは確かに子どもたちに伝えたいメッセージのひとつだと強く思った。

子どもなんて産まない、と宣言する人たちが、SNSに溢れている。
お金がない、余裕がない、未来がない。こんな国では、こんな社会では子どもなんて産めるわけがない。産まれてくる子供がかわいそうだ。だから、産まない。

残念ながら、言いたいことは分からなくもない。
気候はめちゃくちゃで災害は多いし、戦争はなくならない。少子化は恐ろしい勢いだし、税金は上がるばっかりで、生活が苦しくなっていくのも確かだ。

だけどそれでも、強く思う。
生きるって楽しいよ。
この世界にはちゃんと楽しいことがいっぱいあって、君たちには素敵な未来が待っている。

苦しいことや辛いことがない訳じゃない。苦悩することは確かに多いし、理不尽な思いもするだろう。
でもそれは、楽しいことがない、ということにはならないと思うのだ。

生きるって楽しいよ。
何の気負いもなくそう、娘に言えた私を私は少し誇りに思う。
そして今度は子どもたちがいつかそう思えるように。希望を見失うことの無いように。この世界の素敵なものを出来るだけたくさん、子どもたちに教えてあげたい。

こんな世の中に産んでしまってごめんなさい、なんて思わない。
彼女たちの明るい未来を信じながら私は、これから先何十年も子育てを頑張っていきたいと思う。

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