白の村名
細い声でその村名を名乗った。
それだけで舌には甘い蜜のような充足した感覚が与えられるのであった。その声の主は薄く眼を半分開き、長い睫毛を揺らした。
兎のいる朝に彼らは出会った。兎はタオルケットのような朝の陽射し浴びて、ところどころ輪郭が溶けだしていて優しい。少し水分を含んだ瞳でベンチに座っている私。彼はもう一度、その村名を名乗った。
私達は渇いていた。それが雨でもいいから潤いを渇望した。膝下には干からびたサンドイッチが眠っており、足元では草木が初夏に萌えている。彼は一つの青林檎を右手に持ち、左手には乾いたセージを握っている。何かのモチーフのようにそこに佇んでいて、その姿は蜂蜜のような陽光の輪郭に溶け出していた。
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