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「いのちの停車場」 南 杏子

父の闘病を通して、一番記憶に残っているのは父の最期の夜に当直でいてくださった看護師さんです。この本を読みながら何度も、あの看護師さんのことを思い出しました。

主人公は、東京の救命救急センターで働く62歳の医師 咲和子。救急の仕事を離れ、故郷の金沢へ戻った咲和子は訪問診療医となる。命を助けるために、寿命を延ばすために何でもすることが全てだった救急とは異なる在宅医療の現場に戸惑う日々。ある日、一緒に住んでいる父が大腿骨を骨折。その後、瞬く間に体調を崩し、痛みを耐えながら死を待つ身となった父親は、咲和子に「積極的安楽死」をさせてほしいと懇願する。

作中、咲和子が患者の家族に、亡くなるまでの体の変化、どのように最期の瞬間を迎えるのかを説明するシーンがあります。父が亡くなる数時間前、私もまったく同じ説明を、あの看護師さんから受けました。そして、その説明があったからこそ、死のプロセスをたどる父親を直視し、受け入れられたのだと思います。あの看護師さんの表情、しぐさ、父と私たちにかけてくれた言葉は、今でも鮮明に覚えています。

全てが終わって病院から出る時、この夜にあの看護師さんがいてくれて、本当によかったと心から思いました。

作家の南杏子さんは、終末期医療に携わる現役医師の小説家。たくさんの人の最期を見てきた作者じゃないと、描けない物語だと思いました。

ところで、作品の舞台である金沢は昔住んでいた場所。日本で唯一、車で走ることのできる砂浜、なぎさドライブウェイには何度も遊びに行ったので読んでいて懐かしかったです。久しぶりに金沢に行きたくなりました。

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