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生きている、そして生きたもののすべて

 5年前に亡くなったイラストレーター・漫画家のフジモトマサルさんの著書『いきもののすべて』が復刊されたことを知った。仕事が終わったら、すぐに本屋に行かねばならない…!自分のおしりが椅子からちょっと浮いて、もぞもぞするほどの気持ちだった。こんなことは、ひさしぶり。復刊のニュースは、そのくらい威力のあるものだった。

フジモトさんの作品を、とてもとてもあいしている。シンプルな線で、ユーモラスに、そしてちょっとシニカルに描かれる大人っぽい世界。地底の街のようにも、宇宙の街のようにも感じる風景。違う生態の動物が人間のように暮らし、共存する世界。初めて手にした作品は、『ウール100%』だった。ひつじ年生まれで、動物のなかでもひつじには特に思い入れのある私は、主人公のドリーを自分の分身のように感じた。ドリーを通じて、私は、フジモトさんの眼…なのか、心なのか、頭なのかわからないけれども、この、いま私の手元にある一冊の本の世界を創りあげたものに、心から共感を覚えた。少なくとも、作者の中にはこんな世界が実在するのだ。そう思うとうれしかった。

だから5年前に訃報を聞いた時、フジモトさんは、ドリーたちの世界に帰って行ってしまったのだと思った。ここよりもそこで生きるほうが、フジモトさんには似合うのだろう。だけど、新刊をもう読めない私はどうしたらいいの。あまりにも早すぎる。悲しみながら、怒りながら、初めてフジモトさんの写真を検索してみた。すごく澄んだ目が印象的な、すっきりときれいな顔の男性だった。身近にいたら、好きになってしまったかもしれない。

死ぬことを思うと、いつもとても苦しくなる。生まれてくる前に、これから生きてゆく世のことを想像したのかはわからないけど、生まれてしまった私たちは、死んだあとに行く場所のことを想像する。生きている人より、死んだ人のほうが多いのだから、何も心配することはないとわかっていても。誰もが平等に訪れる場所なのだと知っていても。先に行った人を数える。かつて仲がよかった人。同じ教室に机を並べた人。私をかわいがってくれた人。そして、この世では会えなかったけど、実はとても親しかった人。フジモトさんも、そのひとりだ。大丈夫、みんないる。十分に生きて、生きたあとに死ねばいい。

『いきもののすべて』の復刊がとてもうれしい。眠る前に、大切に大切に読む。ことばと絵は、本当にすごい。ただの文字とただの線なのに、空気も匂いも光もちゃんと含んでいる。そうして創り上げてしまえば、それは決して消えることがない。一度読んで、空気も匂いも光も感じられたら、もう絶対に消えない。現実よりもなによりも、とても信用のある事実。その事実は私をとても安心させる。

フジモトマサルさんの世界を、いつでもいきてる世界の隣りに感じたい。今夜も枕元におまもりのようにある本。

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