West Expressでいこう
その列車は31番のりばから発車。これから和歌山へと誘う夜の旅が始まろうとしている。
2024年2月26日、場所は京都駅。 私は父母を連れ、West Express銀河の紀南ルートへ乗車した。
21時15分、31番のりば。長い通路を歩いて乗車15分ほど前にホームへ着くと、すでに件の列車は待機していた。
被写体に向け、カメラを構えている人もちらほら見かける。
窓越しに見ると2号車の女性席を含め、ほぼ満席に近い乗車率の様子。
今回乗車するにあたり、私たちは5号車のクシェット席(ノビノビ座席)をe5489サービスで予約していた。
しかし、1ヶ月前の10時になって、満席のため予約が取れないという事態に!
仕方がないので、3号車のリクライニング席の通路側3席を慌てて取る羽目になった。
人気すぎて予約が取れないとは聞いていたが、まさかネットで取れないなんて!
車内に入り、今宵は3号車へ。
車内は、すでに何人かの人が席に座っている。パッと見たところ、乗車しているのは鉄道ファンと思わしき、若い男性が多いように感じた。
私が通路側の席に荷物を下ろして、対岸の座席に座った母と話していたところ、母の隣に座っていた若い男性の方が、
「連れですか? だったらここどうぞ」
と言ってご親切に窓側の席を譲ってくれた。
せめて窓側を確保したかっただけに、重ね重ね、どうもありがとうございます。
荷物の整理がひと段落し、我々は4号車へ。
4号車は「遊星」という名前がついていた。曰く、英語の「You Say」との掛詞になっているとのこと。
ここでは、個々人が思い思いの時間を過ごしていた。
関西からと思わしきある老夫婦が、「こんな列車があるなんて全然知らなかったし、座席の種類もいっぱいあるなんてゆめゆめ思わなかった」みたいなことを言っていた。
彼らは3号車のリクライニング席に座っていたらしい。ご老体の身にリクライニング席はさぞかしきつかろうに。
私たちが座ったボックス席には、将棋の盤が刻印されていた。
あらかじめ、このことを予習していたので、将棋の駒を持参してきて父とヘボ将棋を打つ。
揺れる車内ではあったが、特に他の客と席のことで揉めることはなく、普通に楽しめた。もっとも、私は父にボロ負けしてしまったが。
将棋を打っていたら、お隣で飲んでいたおじさんが私たちの将棋に興味を持ったらしく、「やってるねぇ〜 お兄ちゃん、これじゃあ負けちゃうよ」等々、介入してきた。
おじさんはベロンベロンに酔っていて、呂律が回っていない様子だった。
一試合打っているうちに、和歌山駅に到着する。
23時半ごろのことだ。
約1時間ほど停車していて、ほとんどの乗客が夜食の和歌山ラーメンを買いに降りてしまった。我々もそれについていくようにラーメンを求める。
和歌山ラーメンは、当初駅構内の店舗としてあるのかと思っていたが、実際は駅から少々離れた場所にあるラーメン店でテイクアウトするというものだった。
実は、すごい方向音痴の父に買い物を任せたので、彼が無事帰って来れるか心配だった。
私は父を迎えに行ったが、案の定「迷いそうだった」と話す。
夜中、終電が出てしまった後の和歌山駅周辺は閑散と静まり返っていて、数台のタクシーが待機している以外は、ただコンビニの明かりが灯っている、そんな感じ。
ホームもがらんとしてしまっていて、駅員さんもこんな夜遅くまでご苦労様と言いたい。
購入したラーメンは、麺は福岡ラーメンのように細麺でコシがあり、スープも豚骨風味だが、それでいてあっさりしていて翌日もそれでもたれることはなかった。
夜食としては、ちょうどいい内容なんじゃないか。
午前0時半、列車は定刻に和歌山を出発。
明日に備えて、こちらも就寝することに。
リクライニングシートは、一般の特急列車のグリーン席並みのシートピッチである。
肝心のリクライニングの角度であるが、感じ斜め45度よりやや深く倒れる感覚であった。
リクライニングだけ見れば、かつて運転していたムーンライトながらに比べれるとはるかにマシである。
ただし、これから乗る人には注意しておいてほしいが、この座席にはレッグレストがない。
普通の高速バスには、足も伸ばせるようにレッグレストがついているのだが、それがないのである。
したがって、足が伸ばせない。
ただでさえ私は高速バスであったとしても眠れないのに、この状態はさらに悪い。
一応、車内ではあらかじめ持参していた使い捨てのスリッパを履いていた。
後ろの席で父が爆睡している。
おそらく紀伊田辺と思わしき駅で、2、3時間ほど長時間停車している時間があった。
その間、モーターの電源も切っていたようで、途端に車内が寒くなった。
私はこの辺りで意識が一瞬落ちたような気がする。しかし、寒くなってしまって、たちまち目が覚めてしまった。
他に気がついた箇所としては、座席直下のヒーターの暖気が座った場所によってよく効く箇所と効かない箇所とがあるようだ。
ちなみに私の座った窓側の席は、あまり暖気が当たっている様子がなかった。
とにかく、毛布の貸し出しもなく(これに関して、何人かの客が同じ色の毛布を使っていたので、どこかに毛布の貸し出しがあったかどうかもわからない)、おまけに車内が寒かったり、レッグレストがなかったりで、足が痺れて、体も痛くなってと散々な寝心地であった。
もう少し長く乗車していたら普通にエコノミー症候群になりそう。
夜が明け、6時50分串本駅に到着。
到着直前のおはよう放送で、駅から橋杭岩という観光スポットまで臨時のシャトルバスを運行しているよう。
マイクロバスの中は満員で、約5分ほどでお目当ての岩に到着。
見ると周囲は道の駅が併設されている(まだ営業時間外)。
早朝で、太陽の東日が眩しい。
ちょうど満潮の時間だったらしく、岸のすぐそこまで海面が上昇していた。
朝焼けでよく晴れていたが、とかく風が強い。それでも荒々しい岩肌が印象的なスポットである。
再び列車に戻り、銀河の旅は続く。
串本から乗り込んできた地元の観光ガイドが4号車のラウンジで車窓のガイドを行っている。
早朝の4号車は、それなりの乗客が集まってきて、ガイドの話に耳を傾けていた。
中には、一人旅と思わしき、大きなカメラを持っている女性も見かけた。
ガイドによると、串本では今、民間のロケットを打ち上げるプロジェクトが進行中で、今月3月9日に打ち上げるようである。それで特に串本は今、その話題で持ちきりとのこと。
車窓からは、実際に打ち上げ場の入り口と、ロケットの模型が車窓から眺めることができた。
ロケットは全長18mくらいしかないようで、一見すると見落としそうであった。
他には、紀伊勝浦駅と終点新宮駅で、地元の人によるお出迎えがあった。
これらのイベントはとても面白いし、もっとやってもいいのではないかと思う。
現行では、日ごとに行っているイベントとそうでないイベントが混在している。ある日は車内でマジックショーが行われていたり、物販を行っていたりするようである。
一応、カウンターの近くに、観光案内のパンフレットが設置されている。
もっとアクティビティを充実させても良いのではないか。
同じカウンター近くに、アンケートへの協力を促すQRコードがあった。しかし、よーく見ていないと見落としてしまいそうな感じで、私もやろうと思ったが、どさくさ紛れで失念してしまった。
これもちゃんと回答させる気があるのなら、もっと目立つようにしても良いのでは? とも思ってしまう。
乗車した皆さん、アンケートにはきちんと答えましょう。
そういうわけで、9時35分、定刻通りに終点・新宮駅に到着した。
私はよく眠れず、若干の寝不足気味ではある。
この列車はまだまだツッコミどころが多く、改善点を挙げればいくらでもありそうではある。
けれども国内で夜行列車が衰退していく昨今、よくこのような列車を作ってくれた。それだけでもJR西日本の試みは挑戦的だと思う。
なんだかんだ言っても、West Express銀河の夜の旅は素直にとても楽しめた。